二本鎖DNA切断 (DSB) の相同組換え修復(HDR)は、外来DNAテンプレートからの遺伝物質のコピーを可能にし、CRISPR-Cas9システムによる遺伝子ノックインに頻繁に利用されている。しかし、HDRは非相同末端結合(NHEJ)やマイクロホモロジー介在末端結合(MMEJ)などの他のDNA修復経路と競合し、HDRによる修復効率は極めて低くまた予測が困難である。
CRSIPR -Cas9システムの編集効率はガイドRNA(sgRNA)の切断活性にも依存する。ガイドRNAの切断活性は通常インデル(indel)頻度で測られる。中国科学院神経科学研究所を主とする中国の研究チームは今回、先行研究 [*1]と一致して、インデル頻度が類似しているにもかかわらず、隣接するsgRNA間でもノックインという編集の効率は大きく異なることを確認した。さらに、sgRNAが高いインデル頻度を示す場合でも、多くのゲノム座位において効果的なHDRによる編集は依然として困難であった。特定のHDRシナリオでは希少なsgRNA候補を設計可能であるが、高活性なsgRNAのスクリーニングに依存することなく普遍的で効率的なHDRの誘導が実現すれば、CRISPR-Cas9による精密な遺伝子ノックインの効率が大幅に向上する。
研究チームは、sgRNAに左右されないHDRによる遺伝子ノックインを目指して、まず、マウス胚における複数のゲノム座位におけるDNA修復結果を体系的に解析した。その結果、MMEJに偏ったsgRNAの修復パターンは高いノックイン効率をもたらし、NHEJに偏ったsgRNAはノックイン効率の低下と関連していることが確認された。研究チームは自身の先行研究で [*2]、RNAを標的とするCRISPR-CasRx(Cas13d)を介して、MMEJ因子のPolqをサイレンシングすることで、HDRを介したDNA統合を大きく促進する手法 CATI(CasRX-assisted targeted integration)を開発していた。しかし、Polq ノックダウンによるMMEJ修復阻害は、MMEJを介したsgRNAのノックイン効率を選択的に向上させる一方で、NHEJを介したsgRNAにはほとんど影響を与えなかった。
研究チームは今回、化合物スクリーニングにより、NHEJ修復をMMEJ修復へと向かわせる化合物AZD7648を同定した。この知見に基づき、Polq ノックダウンに、AZD7648阻害を組み合わせることで、広範囲に適用可能なノックイン戦略である
ChemiCATI(Chemical-enhanced CasRx-assisted targeting integration)を実現した [Fig. 6引用右図参照]。DNAがCRISPR/Cas9によって切断されると、ゲノムDNAは修復プロセスを開始する。修復用DNAドナーテンプレートがない場合、主な修復過程はNHEJとMMEJになる。ドナーテンプレートを導入すると、NHEJとMMEJに加えてHDR過程も進行する。ドナーテンプレートを提供し、同時にPolqをノックダウンすると、NHEJ頻度に大きな変化は見られないが、MMEJからHDRへの大幅なシフトが発生する。さらに、ドナーテンプレート、AZD7648、およびPolqノックダウンの同時投与、すなわちChemiCATI、は、NHEJおよびMMEJパターンからHDRへの移行を促進する。
ChemiCATI(Chemical-enhanced CasRx-assisted targeting integration)を実現した [Fig. 6引用右図参照]。DNAがCRISPR/Cas9によって切断されると、ゲノムDNAは修復プロセスを開始する。修復用DNAドナーテンプレートがない場合、主な修復過程はNHEJとMMEJになる。ドナーテンプレートを導入すると、NHEJとMMEJに加えてHDR過程も進行する。ドナーテンプレートを提供し、同時にPolqをノックダウンすると、NHEJ頻度に大きな変化は見られないが、MMEJからHDRへの大幅なシフトが発生する。さらに、ドナーテンプレート、AZD7648、およびPolqノックダウンの同時投与、すなわちChemiCATI、は、NHEJおよびMMEJパターンからHDRへの移行を促進する。 ChemiCATIは10以上のゲノム座位で検証され、最大90%のノックイン効率を達成し、予測可能で高効率なCRISPR介在遺伝子ノックインを促進するプラットフォームであることが、示された。
[出典] "Refined DNA repair manipulation enables a universal knock-in strategy in mouse embryos" Chen H, Tan Q [..] Lu Z, Liu Z. Nat Commun. 2025-07-15. https://doi.org/10.1038/s41467-025-61696-z [著者所属] Institute of Neuroscience CAS, University of CAS, ShanghaiTech University, Shanghai Center for Brain Science and Brain-Inspired Intelligence Technology
2. CasRxによるPolqの下方制御を介してMMEJ過程を抑制することで, 齧歯類と霊長類の胚における遺伝子導入の効率を向上するCATI
中国科学院神経科学研究所を主とする中国の研究チームは、まず、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集において、マイクロホモロジー介在末端結合(microhomology-mediated end-joining:MMEJ)がDSBからの修復の大部分を占めていることを明らかにした [論文Fig. 1参照]。
[*] 先行研究
1. 相同組換え過程を介したゲノム編集のためのCRISPR-Cas9ガイドRNAの合理的選択法
南カルフォルニア大学の研究チームは今回、CRISPR-Cas9システムのインデル(indel)シグネチャが、HDRの結果を最大化するgRNAを特定するために使用できることを示した。具体的には、3 bp以上の欠失として特徴付けられるMMEJ修復に起因する欠失の頻度が、総インデル頻度を考慮するよりもHDR頻度をより適切に予測することを示した。さらに、gRNAインデルシグネチャを予測するツールは、HDRを促進するgRNAを特定するために再利用できることを実証した。最後に、同じ部位を標的とした S. aureus および S. pyogenes Cas9 によって生成されたインデルを比較することにより、標的のDNA配列がゲノム編集の結果を決定する主要な要因であるというエビデンスを積み重ねる結果となった。
[出典] “Rational Selection of CRISPR-Cas9 Guide RNAs for Homology-Directed Genome Editing” Tatiossian KJ [..] Cannon PM. Mol Ther. 2020-10-14/2021-03-03. https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2020.10.006 [著者所属] Keck School of Medicine of the University of Southern California
2. CasRxによるPolqの下方制御を介してMMEJ過程を抑制することで, 齧歯類と霊長類の胚における遺伝子導入の効率を向上するCATI
[注] CATI:CasRX-assisted targeted integration
中国科学院神経科学研究所を主とする中国の研究チームは、まず、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集において、マイクロホモロジー介在末端結合(microhomology-mediated end-joining:MMEJ)がDSBからの修復の大部分を占めていることを明らかにした [論文Fig. 1参照]。
続いて、RNAを標的とするCasRx (Cas13d) を用いて主要なMMEJ因子であるポリメラーゼQ(Polq 遺伝子)をサイレンシングすることで、マウス胚および仔において、線状化されたDNA断片および一本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)の
標的組み込み効率が向上することを実証した [Fig. 4 G 引用右図モデル図参照]。このCasRX支援標的組み込み(CasRX-assisted targeted integration: CATI)は、サル胚においてもCRISPR/Cas9編集を介したHDR効率を大幅に向上させ、CATIが、サルモデルの作製と臨床試験用遺伝子治療の開発に有望なツールであることが示された。
標的組み込み効率が向上することを実証した [Fig. 4 G 引用右図モデル図参照]。このCasRX支援標的組み込み(CasRX-assisted targeted integration: CATI)は、サル胚においてもCRISPR/Cas9編集を介したHDR効率を大幅に向上させ、CATIが、サルモデルの作製と臨床試験用遺伝子治療の開発に有望なツールであることが示された。[出典] “CATI: an efficient gene integration method for rodent and primate embryos by MMEJ suppression“ Chen H, Liu X, Li L [..] Lu Z, Sun Q, Liu Z. Genome Biology. 2023-06-23. https://doi.org/10.1186/s13059-023-02987-w [著者所属] Institute of Neuroscience CAS, University of CAS, ShanghaiTech University, Shanghai Center for Brain Science and Brain-Inspired Intelligence Technology
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