複雑な多細胞生物を研究する合成生物学者の夢は、1つまたは少数の遺伝子の操作にとどまらず、特定の器官または細胞タイプにおける発生モジュール、シグナル伝達経路、代謝経路全体を再プログラムすることである。これが生殖細胞系を通して安定的に伝達される方法で実現できれば、全く新しい複雑な形質を持つ生物を生み出すことができる。触媒活性を失活させたCas9ヌクレアーゼ(dCas9) をベースとする遺伝子活性化因子CRISPRaの登場は、合理的なコストと難易度で、選択した複数の遺伝子の同時活性化を可能にするという期待を高めた。すべてのCRISPRaはガイドRNAを介して、関心のある遺伝子の転写開始点に近いプロモーター領域を標的することが可能であり、ひいては、妥当な効率で目的の遺伝子の転写を亢進することが可能になる。したがって、ガイドRNAsのライブラリーを用意するだけで、多重遺伝子の活性化が可能になる。
植物では、多くのモデル生物や一部の重要な作物種において、安定した生殖系列伝達系統の作製が容易であり、数多くのCRISPR活性化システムが試験、改変され、その性能比較が行われている。CRISPR-Combo [*1] などの最新の研究では、2つの優れた性能を持つCas9活性化システムを組み合わせることで活性化効率をさらに高め、ノックアウトの生成と転写活性化を同時に行うことができるCas9システムが発表されている。しかし、こうしたダイナミックな発展にもかかわらず、細胞タイプ特異的活性化に対するこれらのシステムの性能を実証することや、機能的に関連する複数の遺伝子の活性化を安定した方法で達成するアプローチの実装については、ほとんど進歩が見られていない。こうしたアプローチは、新しい合成特性を持つ植物系統を生成するために CRISPRaを使用する上で極めて重要である。
[*1] crisp_bio 2023-04-30 [プロトコル] CRISPR-Combo:多重ゲノム編集と多重転写活性化の同時利用を可能とする植物ゲノム改変技術.
スイスに米国が加わった研究チームは今回、発生のコンテクストで、細胞タイプ特異的活性化のためのCRISPRaの性能を試験するための蛍光マーカーベースのアッセイ法を用意し、これまでに開発されたCRISPRaのパフォーマンスに驚くべき違いがあることを発見した。研究チームは、新たに細胞タイプ特異的活性化用に適応させたシステム [*2] のパフォーマンスを、根を構成するいくつかの細胞タイプで、検証した。
[*2] 比較的複雑なワークフローについて論文Fig. 4参照
重要な点として、最終産物の合成を達成するために各遺伝子を機能的に関連するレベルまで活性化しなければならない代謝経路などの複雑な形質の合成活性化を達成するには、厳密な試験プロトコルが必要であることが、今回、実証されたことである。これらの試験戦略を使用することで、一連の特定の細胞タイプにおける最大6つの遺伝子を同時に活性化することで、然るべき代謝経路の安定した活性化を達成し、CRISPRa技術が多細胞生物における複雑で安定した形質の合成生成に使用できることを実証した。具体的には、
根のフラボノイドが欠乏している myb12 変異体において、4CL3、CHS、 CHI、F3H、FLS1およびTT7 (+TT7)の同時活性化を介して、in situ 蛍光で検出可能な野生型レベルのフラボノイドの内皮特異的生成を達成した [Fig. 5引用右図参照]。
根のフラボノイドが欠乏している myb12 変異体において、4CL3、CHS、 CHI、F3H、FLS1およびTT7 (+TT7)の同時活性化を介して、in situ 蛍光で検出可能な野生型レベルのフラボノイドの内皮特異的生成を達成した [Fig. 5引用右図参照]。[出典] "Efficient, cell-type-specific production of flavonols by multiplexed CRISPR activation of a suite of metabolic enzymes" Houbaert A [..] Geldner N. Nat Commun. 2025-07-16. https://doi.org/10.1038/s41467-025-61742-w [著者所属] University of Lausanne (スイス), Duke University (米国)
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