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 マラリアは毎年約50万人の死者を出し依然として世界的に大きな健康課題である。マラリアの病原体であるマラリア原虫(Plasmodium)は、マラリアを媒介するハマダラカを介してヒトへと感染するが、この感染過程においてハマダラカに内在するフィブリノーゲン関連タンパク質1(FREP1)を必須としている。したがって、ハマダラカからFREP1を排除すれば、ハマダラカはマラリア感染者を刺して血液から原虫を獲得することはできるが、その原虫はハマダラカを介して他の人に感染することはなくなる。

 これまでに、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae )において、CRISPR/Cas9を利用してFREP1をノックアウトすることで、ハマダラカを介したヒト細胞と齧歯類へのマラリア原虫感染を大幅に抑制可能なことが実証されていた。ただし、A. gambiae の適応度が大きく損なわれた [「関連crisp_bio記事と論文」の項のを参照]。UCSDを主とする米国とブラジルの研究チームは今回、ハマダラカに天然に存在するFREP1Qアレルが、マラリア原虫感染を予防するとともに、ハマダラカの重要な生理機能は維持されることに注目した。

 研究チームは、CRISPR-Cas9 HDRの技術を利用して、マラリア原虫に対して推定耐性の防御的(protective)FREP1Q224アレルまたは感受性のFREP1L224アレルを導入した2025-07-27 16.17.36ステフェンス・ハマダラカAnopheles stephensi )の遺伝子組換え系統を作製し、それぞれのアレルがもたらす影響を比較した [Fig. 1引用右図参照]その結果、保護的FREP1Q224アレルは、ステフェン・ハマダラカの適応度をほとんど損なうことなく、ヒトおよび齧歯類のマラリア原虫の感染に対して強力な抵抗性を示した。

 そこで、CRISPR-Cas9をベースとするアレル・ドライブシステム"linked allelic-drive system"を開発し [論文Fig. 4参照]FREP1L224アレルを保有しているA. stephensi の集団のFREP1L224アレルを防御的アレルFREP1Q224に書き換えることに成功し [*]、ヒトと齧歯類にそれぞれ感染するマラリア原虫( P. falciparum P. berghei)の感染を抑制することに成功した。また、FREP1のノックアウトと異なり、A. stephensiの適応度が損なわれることはなかった。
[*] FREP1の224番目のロイシン(L)をアミノ酸グルタミン(Q)に置換する。

[注] linked allelic-drive system
 望ましいアレルをCRISPR-Cas9システムにリンクしたカセットを、生物集団の中で優先的に複製して子孫に伝達するシステムである。CRISPR-Cas9システムが、望ましくないアレルを切断し、そこに望ましいアレルとCRISPR-Casシステムを挿入する。また、本研究では、望ましくないアレルが減少または集団から消失すると、"linked allelic-drive"も消失するself-eliminatingの特性も組み込まれている。

[出典] 
[関連crisp_bio記事と論文]
  • [*] CRISPR_2018/03/13メモ [第2項] ハマダラカのFREP1遺伝子のCRISPR/Cas9ノックアウトにより、マラリア原虫の感染を抑制. 
  • crisp_bio 2023-09-19 tgCRISPRi: Cas9ヌクレアーゼに短縮型gRNAsを組み合わせることで効率的な遺伝子ノックダウンを実現. :... (遺伝子ドライブを介して) ....マラリア原虫の感染を助ける宿主蚊因子 (腸管タンパク質FREP1など) の特定の変異体を、このような補助的gRNAを用いて自然個体群から徐々に除去することができる。
  • "Efficient allelic-drive in Drosophila" Guichard A [..] Bier E. Nat Commun. 2019-04-09.  遺伝子ドライブシステムは、遺伝子挿入による超メンデル遺伝をもたらすシステムであり、通常~1-10 Kbという比較的大きなDNAカーゴをコピーしていく。UCSDのEthan Bierらは、この「アクティブ遺伝」アプローチを一般化し、わずか1個または数個のヌクレオチド変異に起因するアレル変異を優先的に伝達するアレル・ドライブの2つの構成を設計・検証した:(1) コピーカッティング - Cas9-gRNA複合体が1つのアレル変異を選択的に切断し、その後相同組換え修復(HDR)を介した修復と、トランスに提供された同じ遺伝子の切断されないアレルへの置換を伴う;(2) コピーグラフティング - gRNA切断部位に近接する好ましい対立遺伝子を含む短いゲノム区間をコピーする。コピーグラフティングの場合、好ましい対立遺伝子はgRNA切断に耐性のある隣接配列と関連している。研究チームはまた、NHEJ誘導変異を優勢に排除し、機能的な切断抵抗性アレルの伝達を優先する、致死モザイクと呼ばれる現象を特徴付けた。これら 2 つの効率的な対立遺伝子ドライブ法は、致死的モザイクと「シャドウ ドライブ」と名付けた世代を超えたドライブ・プロセスによって強化されており、アクティブ遺伝学のツールボックスを大幅に拡張した。
  • "A self-eliminating allelic-drive reverses insecticide resistance in Drosophila leaving no transgene in the population" Auradkar A, Corder RM, Marshall JM, Bier E. Nat Commun. 2024-11-17.  殺虫剤耐性(insecticide resistance: IR)は、世界的に公衆衛生と福祉にとって重大な課題である。UCSDのEthan Bieらは、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )のyellow (y) 遺伝子座に挿入される、局所的に作用する単一自己消失アレルドライブシステム2025-07-27 16.43.52(a transiently-acting unitary self-eliminating allelic-drive system)を開発し、"e-Drive"として発表した [Fig. 1引用右図参照]。このドライブのカセットは、Cas9と単一のガイドRNA (gRNA)の双方をコードしており、標的の電位依存性ナトリウムイオンチャネル(vgsc)遺伝子座のIR(1014 F)変異体よりも、好ましい野生型(1014 L)アレルの継承へと偏らせる。適応度のコストに耐える場合、この一時的に作用するドライブは、その播種率に依存するが、集団から排除される前に野生型アレルを100%まで増加させることができる。しかし、適応度が中立の「hover 」モードでは、ドライブは集団内で一定の頻度を維持し、初期播種率が低くてもIR対立遺伝子を野生型に完全に変換する。 
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