大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)により、疾患に関連すると特定された膨大なノンコーディング・バリアントが蓄積されているが、疾患の原因となるバリアントの特定とその機能の特定は遅々として進んでいない。CRISPR-Casゲノム編集技術の登場によって、ゲノムに関心のある疾患関連バリアントを導入しそれが表現型に及ぼす影響を見ることができるようになったが、編集の効率が低いこと、編集結果が細胞ごとに変動すること、mRNAへの転写レベルでの非特異的な変化といったバックグラウンドノイズの存在などが、疾患関連ノンコーディングバリアントのアノテーションの障害になっていた。
これらの障害に対して、Brigham and Women's Hospitalを主とする米国の研究チーム [*]は今回、ゲノムDNAの編集結果を直接識別し、トランスクリプトームを分析し、細胞表面タンパク質発現を測定するマルチオミクス単一細胞シーケンシングの手法を開発し、CRAFTseqとして発表した。
[*] David R. Liuも共著者に加わっている。
CRAFTseqは”CRISPR by ADT, flow cytometry and transcriptome sequencing”に由来する命名である。すなわち、CRAFTseqは (用語の並びとは順不同で)、CRISPR技術を利用して疾患関連バリアントを導入した細胞を対象として、ゲノムDNAアンプリコン、3' mRNA、細胞表面発現タンパク質のADT(Antibody-Derived Tags (オリゴヌクレオチド))の配列を、
インデックスフローサイトメトリーを介したcell-hashingと並行してシーケンシングするプラットホームである [Fig. 1引用右図 a 参照]。CRAFTseqは、編集された細胞を正確に識別することで、より広範な細胞培養環境ではなく、個々の細胞の遺伝子型に特有な変化を特定することを可能にする [右図 b 参照]。
インデックスフローサイトメトリーを介したcell-hashingと並行してシーケンシングするプラットホームである [Fig. 1引用右図 a 参照]。CRAFTseqは、編集された細胞を正確に識別することで、より広範な細胞培養環境ではなく、個々の細胞の遺伝子型に特有な変化を特定することを可能にする [右図 b 参照]。 CRAFTseqは、専用の機器を必要とせず、あらゆるゲノム編集手法を採り入れることができるが、研究チームは今回、CRISPR-Cas9ヌクレアーゼと塩基エディター(ABE8e-NGとBE4-NG)を利用して、遺伝子ノックアウト、調節領域の欠失、ノンコーディング領域における一塩基多型(SNP)の導入、および、複数の細胞株が混在しているサンプルにおけるマルチプレックス編集実験にて、CRAFTseqの有用性を実証した。
実証実験で注目すべきは、RPL8 遺伝子座に位置する一塩基多型rs2954658 (T-to-C) の精密マッピングとゲノム編集である。この変異は、これまで広範な発現量的形質遺伝子座(eQTL)研究と高度な統計的ファインマッピング解析を通じて、B細胞における遺伝子発現の上昇と関連付けられてきた。しかし、この変異がRPL8 の発現変化と因果関係にあるか否かを判定する技術が存在しなかった。研究チームはABE8e-NGを利用して、Daudi B細胞内でrs2954658変異体を正確に誘導した。厳格な品質管理フィルターを通過した969個の細胞に対してscRNA-seqを実施し、TアレルがRPL8 発現に極めて有意な影響を及ぼすことが確認された。重要なのは、他の遺伝子への影響は見られず、rs2954658バリアントがRPL8 だけに影響を与えるとする精密な結果が得られたことである。
CRAFTseqの威力は、従来のバルクRNAシーケンシング法と比較することで明確にされた。同じゲノム編集をRPL8 およびPTPRC 遺伝子座に導入し、集団レベルで解析したところ、遺伝子発現の変化はそれぞれ統計的有意性または生物学的意義に達しなかった。バルクアッセイでは、炎症性サイトカインの分泌や異質な細胞集団といった複雑な細胞間相互作用によって、遺伝子型特異的な結果が薄められてしまうからである。一方、CRAFTseqのアプローチでは、個々の細胞における転写変化を編集された遺伝子型に直接帰属させることができることから、環境および細胞状態からの影響を排除することが可能になった。
研究チームは、B細胞にとどまらず、初代培養ヒトナイーブCD4陽性T細胞において、1型糖尿病に関連するIL2RA (CD25をコードしている遺伝子) 自己免疫関連ノンコーディングバリアンントrs61839660を操作するために塩基エディターBE4-NGを適用した。バリアントの細胞状態特異的な効果を評価するために、これらの細胞は、Tヘルパー1(TH1)または制御性T細胞 (Treg) の分極化条件下で培養された。遺伝子型が判明している非自己免疫ドナー由来の細胞に代替Tアレルを導入した影響を見た。その結果、バリアントであるTアレルは増殖性Treg分極細胞においてのみIL2RA の有意な増加と関連することが実証された。このアレルは、非増殖性Treg細胞および増殖性Treg細胞におけるCD25の発現にも影響を及ぼす。しかし、TH1分極細胞においては、CD25タンパク質およびIL2RA のいずれにおいても遺伝子型は影響を与えなかった。すなわち、rs61839660は細胞状態に依存する制御性変異であることが示唆された。
本研究において、バルクアッセイでは遺伝子変異の機能的影響を見落としたり、誤って解釈したりする可能性があることが実証されたことから、機能的変異の特性評価には単一細胞アプローチが不可欠であることが明確に示された。従来のCRISPR実験では、細胞の異質性、パラクリン型シグナル伝達、および編集細胞と未編集細胞の混在といった交絡因子が、直接的な遺伝的影響を覆い隠してしまう可能性がある。CRAFTseqはこれらの落とし穴を回避し、研究者が細胞のコンテクストからバリアントの遺伝的影響を包括的に解析することを可能にする。
[出典]
- 論文 "Precisely defining disease variant effects in CRISPR-edited single cells" Baglaenko Y [..] Raychaudhuri S. Nature. 2025-07-23. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09313-3 [著者所属] Brigham and Women’s Hospital, Harvard University, Harvard Medical School, Broad Institute, Cincinnati Children’s Hospital Medical Center, University of Cincinnati, Harvard University
- Science News "Precisely Mapping Disease Variant Effects in CRISPR Cells" scienmag.com 2025-07-23. https://scienmag.com/precisely-mapping-disease-variant-effects-in-crispr-cells/
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