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 ミトコンドリア病(Mitochondrial disease: MD)は、最も一般的な先天性代謝異常の一つであり、酸化リン酸化機能(oxidative phosphorylation: OXPHOS)の不全がその特徴である。複雑な遺伝様式と多様な臨床症状により、MDの診断は困難であり、現在までにほとんどのMDについて、治療法が確立されていない。

 スイスに米国、ドイツ、スペインが加わった研究チームは今回、OXPHOSに必要な遺伝子を同定するためのこれまでのスクリーニング研究の成果を基に、それらのスクリーニングと相補性の高いガラクトース感受性CRISPR-Cas9「増殖」スクリーニング  [*]を実施し、481個のOXPHOS遺伝子のインベントリを更新し、このうち157個がMDと関連していることを同定した。

 さらに、メニエール病関連遺伝子であるFAM136A に焦点を当て、この遺伝子が細胞株、マウス、そして患者において膜間腔タンパク質恒常性とOXPHOSを支えていることを実証した。

 本研究は、OXPHOS関連遺伝子の包括的な情報資源を提供するとともに、家族性メニエール病が実はミトコンドリア病の一種であることが明らかにし、そうした情報資源がMDに関与する経路を解明し、将来のMD診断および治療の指針をもたらす可能性を示した。

[*] ガラクトース感受性CRISPR-Cas9「増殖」スクリーニングとは

 今回紹介論文の責任著者 Alexis A. Jourdainは、Broad Institute/Harvard Medical School在籍当時に、OXPHOSに必須で、その変異がMDを引き起こす可能性がある遺伝子を特定することを目的として、グルコース要求性に基づく栄養感受性ゲノムワイドCRISPR-Cas9 スクリーニングが実施した研究に参画していた  [*]。このスクリーニングでは、グルコースを含まないガラクトースを含む培地での増殖が欠如していることを読み出しとしたわけであるが、ミトコンドリア機能不全の細胞がガラクトース培地で死ぬことを発見したことから、研究チームはこのスクリーニングを"death screening"と称した。

 このプロトコルでは、死んだ細胞が選択され、その細胞に含まれていたsgRNAの配列が決定され、OXPHOS必須遺伝子が同定された。しかし、多くの既知のMD遺伝子が捉えられなかった課題が残った。その原因としては、"death screening"が、グルコースまたはガラクトースを含む培地で"わずか"24 時間のインキュベーション後に実行されたことが挙げられ、発症が遅いMDを彷彿とさせたことから、ミトコンドリアに軽度または長期的な影響を及ぼす遺伝子や経路が見逃されている可能性があると、想定された。

 今回は、グルコース培地中とガラクトース培地中で21日間細胞を増殖 (profiferation)させる栄養感受性CRISPR-Cas9スクリーニングを実施し、双方の培地中で生存した細胞中のsgRNAsを比較し、想定通り、ミトコンドリアタンパク質とMD遺伝子を標的としたsgRNAsがガラクトース培地で培養した細胞集団で有意に欠失していることを確認した。この増殖スクリーニング("growth screening")法は"death screening"スクリーニング法と強い相補性を示し、OXPHOSに必須な遺伝子のインベントリーを更新するに至った。このインベントリには、現在157個の陽性対照MD遺伝子が含まれている。発見された新規遺伝子およびパスウェイの中で、メニエール病(特発性内リンパ水腫)に関連する、あまり特徴づけられていない遺伝子であるFAM136A が、めまい、感音難聴、耳鳴りを特徴とする慢性内耳疾患において、ミトコンドリア膜間腔(IMS)タンパク質恒常性とOXPHOSを複数のモデルで支持していることを明らかにした。
[*] CRISPR関連文献メモ_2016/09/29 [第1項] ゲノムワイドCRISPR“death screen”によって酸化的リン酸化の必須遺伝子を同定

[出典] "An updated inventory of genes essential for oxidative phosphorylation identifies a mitochondrial origin in familial Ménière’s disease" Harhai M [..] Jourdain AA. Cell Rep. 2025-07-25/08-26. https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.116069  [著者所属] University of Lausanne (スイス), Institute of Physic (EPFL), University of Cologne (ドイツ), University of Illinois at Chicago (米国), University of Sydney (オーストラリア), Instituto de Investigación Biosanitaria (スペイン), Centro de Investigación Biomédica en Red en Enfermedades Raras;グラフィカルアブストラクト参照
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