中国のAging Biomarker Consortium内外の中国科学院の研究所や大学の研究チームが今回、半世紀にわたる14歳から68歳までの男女76人の516の組織標本 [*]と血漿のサンプルを対象として、組織学的解析と定量的プロテオーム解析およびトランスクリプトーム解析を行い、すべての染色体にわたるヒトタンパク質をカバーする12,771を超える異なるタンパク質を網羅した多組織プロテオームアトラスを構築した。
[*] 心血管系 (心臓と大動脈), 消化器系 (肝臓, 膵臓, 腸), 免疫系 (脾臓とリンパ節), 内分泌系 (副腎と白色脂肪), 呼吸器系 (肺), 外皮系 (皮膚), 筋骨格系 (筋肉)の7つの身体系の組織を網羅
多組織プロテオームアトラスを構築することで、老化に伴うアミロイド蓄積を特徴とする、広範囲にわたるトランスクリプトームとプロテオームのデカップリングとタンパク質恒常性(proteostasis)の低下が明らかになった。
老化に関連するタンパク質の変化に基づき、組織に特異的なプロテオーム年齢時計を開発し、臓器レベルの老化の軌跡を特徴づけた。経時的な解析により、50歳前後で老化速度の変曲点が見られ、臓器の中で血管が他の臓器よりも早期に老化が進行し、また、老化の影響を著しく受けやすい組織であることが明らかになった。さらに、組織起源に一致する血漿プロテオームの老化シグネチャーを定義し、血管および全身の老化を促進する候補タンパク質(GAS6を含む)を特定した [**]。
[**] 血漿タンパク質のリガンド-受容体解析により、24の老化関連コミュニケーションペアが特定され、大動脈が全身老化の中心的なイニシエーター("senohub"と命名)であることが示唆された。そのようなイニシエーター・タンパク質の1つであるGAS6は、血漿と大動脈の両方で加齢とともに増加し、TAMファミリー受容体と相互作用した。ヒトの内皮細胞と平滑筋細胞において、GAS6は老化マーカーの誘導、IL-6の上昇、血管新生能の低下、免疫細胞接着の促進をもたらした。中年マウスの静脈にGAS6を投与すると、血管機能障害、組織炎症、身体機能低下が引き起こされた。
[関連crisp_bio記事と論文]
- 2025-05-11 世界132ヶ所からの33,250人の加齢に伴う脳の機能的コネクトーム変化を追跡して分かったこと;興味深いことに、脳領域間の平均的なコミュニケーション強度を表す平均機能的コネクティビティーが40代後半にピークを迎える一方で、ネットワーク相互作用の多様性と特化を反映するコネクティビティーの変動は、30代後半にピークを迎えることが明らかになった
- 2024-12-15 血漿プロテオミクスから, 脳老化のバイオマーカーと, プロテオームが大きく変化する年齢が存在することが, 同定された;脳老化に伴う血漿プロテオームの変化には起伏があり、暦年齢の57歳、70歳、78歳にそれぞれ特徴的な変化が起きることを発見した
- 2024-08-21 老化は44代と60代に劇的に進行する - ヒト加齢に伴う分子変動(マルチオミクス・プロファイル)の追跡から
- 米国の研究チームによる臓器特異的老化の報告:2023-12-06 "Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease" Oh HS, Rutledge J [..] Tony Wyss-Coray T. Nature.;特定の臓器に由来するヒト血漿タンパク質のレベルを利用して、生きた個人における臓器特異的な老化の差を測定した。機械学習モデルを利用して、11の主要臓器の老化を分析し、人間の生涯にわたる5,676人の成人を含む5つの独立したコホートで、再現性のある臓器ごとの老化を推定した。
[出典]
- 論文 "Comprehensive human proteome profiles across a 50-year lifespan reveal aging trajectories and signatures" Ding Y, Zuo Y, Zhang B, Fan Y, Xu G, Cheng Z, Ma S, Fang S [..] Yang J, Qu J, Zhang W, Liu GH. Cell 2025-07-22. https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.06.047 [著者所属] China National Center for Bioinformation and Beijing Institute of Genomics CAS, Institute of Zoology CAS, West China Hospital of Sichuan University, Jingjie PTM BioLab (Hangzhou) Co Inc, Beijing Institute for Stem Cell and Regenerative Medicine, Quzhou Affiliated Hospital of Wenzhou Medical University, Hainan Medical University, Beijing Institute of Heart, Lung, and Blood Vessel Diseases, Xuanwu Hospital Capital Medical University, Beijing Institute of Lifeomics; Aging Biomarker Consortium (ABC), University of Chinese Academy of Sciences;グラフィカルアブストラクト参照
- NEWS "Aging accelerates at around age 50 - some organs faster than others" Ledford H. Nature 2025-07-25. https://doi.org/10.1038/d41586-025-02333-z
コメント