[注] 園芸作物(野菜, 果樹・花き);DE-GE (Directed Evolution - Genome Editing)
CRISPR/Casゲノム編集(GE)技術は、園芸作物とコモディティー作物(コメ、小麦、ドウモロコシ、大豆のように大量に生産・流通する作物)双方の育種において前例のない可能性を開いた。塩基エディター(BE)およびプライムエディター(PE)の登場により、遺伝子内で複数の正確な編集が可能になり、第一世代のGE技術による不正確な挿入・欠失(インデル/InDel)を介した編集よりもはるかに大きな可能性を秘めている。
インデルは通常、遺伝子または遺伝子ドメインをノックアウトするに留まる。園芸作物(トマト)におけるこのような機能喪失型GEの例として、2つのタンパク質キナーゼをノックアウトすることによる糖含量の増加や、グルタミン酸脱炭酸酵素の自己阻害ドメイン欠失を介したγ-アミノ酪酸(GABA)含量の増加が挙げられる。
対照的に、特定の配列変化を導入することで、機能変化変異や機能獲得変異を作り出すことも可能になり、例えば、酵素の速度論を改善したり、新しい基質に作用するように酵素を装備したりすることが可能になった。
機能変化または機能獲得変異を作り出すには、どの遺伝子を標的とするかだけでなく、どのような編集を行うかを正確に知る必要がある。生化学に基づく指向性進化(DE)技術は、この知識を提供することができる。DEはハイスループットの微生物プラットフォームを用いて酵素やその他の標的遺伝子を高頻度に変異させ、新しい基質に対する活性など、望ましい特性を付与する変異を選択し、それをもたらした変異の配列を決定することを可能にする。このように、DEはGEが行うべき変異を特定する。また、代謝生化学とそれが表現型に与える影響に関する情報が、標的とすべき酵素と特性の選択を支援する。このように、DE-GEの組み合わせは相乗効果のあるパイプラインであり、DEまたはGE単独よりもはるかに強力である。
作物を対象とするDE-GEパイプラインでは、植物から遺伝子を取り出し、それを改良し、改良された遺伝子を植物に戻す。DE-GEは原理的には植物の一次代謝または二次代謝におけるほぼすべての酵素に適用できるため、作物の代謝形質の遺伝子プールに変異(合成変異)を加える強力な方法になるが、そのような形質は、光合成効率から天然物プロファイルまで多岐にわたる。
標的酵素の選択を含むパイプラインのDE部分がこれまでほとんど取り上げられていなかったことからここでは、DE、特にその最初のステップ、そして育種プログラムにおいてDEがGEとどのように連携できるかについて、解説する。
具体的には、パイプラインの各ステップを、イチゴ果実中のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)酵素を用いて説明する。PALは、アントシアニン含量やリグニン含量など、重要な果実品質形質の基礎となるため、DE-GEの適切な標的である。
ここで取り上げたイチゴの例は、標的酵素を特定し、代謝形質と関連付け、ゲノム編集が確立されていく戦略として、原理的にはどのような場合でも実施できる。DE-GE戦略は、園芸作物かコモディティー作物かによることなく、リンゴ、綿花、トウモロコシ、大豆、バナナ、トマト、イネ、ジャガイモ、ブドウ、スイカ、キュウリ、柑橘類など多くの作物において代謝形質を改良するに適している。
[出典] Perspective "Building a directed evolution-genome editing (DE-GE) pipeline for metabolic traits in specialty crop breeding" Gayen AK, Rojas LMC [..] Hanson AD. Hortic Res. 2025-08-06. https://doi.org/10.1093/hr/uhaf203 [所属機関] University of Florida
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