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[] DSB (DNA二本鎖切断) MMEJ (Microhomology (µH)-mediated end joining / マイクロホモロジー媒介末端結合)

 チューリッヒ大学を主とする研究チームが今回、ゲノム編集の精度を大幅に向上させる新たな手法Pythiaを開発した。Pythiaピューティアー)は、古代Delphiのアポロ神殿の神託(予言)の最高位の女司祭にちなんで名付けられた。Pythiaは、高精度な遺伝子編集を実現すると共に、遺伝子編集の結果をこれまでになく正確に予測するからである。

 チューリッヒ大学でPythiaを開発し、現在は、ゲント大学のポストドク研究員を務める筆頭著者のThomas Naert博士は、「私たちのチームは、(inDelphi モデル (GitHub) を利用して)分子接着剤のように機能し、細胞が正確な遺伝子改変を導く、微小なDNA修復テンプレートを開発しました」と述べている。

[出典] 


[背景詳細]

 CRISPR-Casヌクレアーゼを利用してトランスジーンを標的部位に正確に統合する技術は、バイオテクノロジーおよび遺伝子治療への応用において大きな期待が寄せられている。その中で、意図しない副作用を回避するためにゲノムの完全性が維持されること、目的とする細胞種に適していることが、求められている。CRISPR-Casヌクレアーゼ(以下、CRISPR-Cas)を介した正確な統合は、通常、相同組換え修復(HDR)に依存するが、これには挿入配列の左右に長い相同アームを必要とする。加えて、HDRは増殖中の細胞でのみ有効であることにも留意する必要がある。

 また、DSBからの修復は、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー(microhomology (µH)介在末端結合(MMEJ)、あるいは一本鎖アニーリング (single strand annealing: SSA) ) にも依存する。しかし、NHEJおよびMMEJは、トランスジーンとゲノムの境界において、標的部位周囲のゲノムまたはトランスジーン自身における欠失など、意図しないゲノム変化を引き起こし、隣接する遺伝子を破壊する可能性がある。さらに、CRISPR-Cas9編集には大規模な染色体再編成のリスクがあることも報告されている。

 ヒトでは、自然に発生する二本鎖切断(DSB)は通常HDRを介して正確に修復される。しかし、稀に、本質的に変異誘発性のMMEJ修復が遺伝学的エラーを引き起こすことがある。一方で、微小な欠失を帯びた変異体が、臨床的に病原性のある配列変異体の2025%を占めているが、これらの変異の大部分は、µHを介したMMEJによる欠失に特徴的な局所配列シグネチャーを示している。そのシグネチャーの多くは、隣接する3塩基対の長さの配列である。研究チームは、この天然のMMEJ機構をコード配列のフレームを壊さないDSB修復に利用することで、これまでのゲノム編集の限界を超えられる可能性があると考えた。

 CRISPR-Casによって誘導されるDSBの修復機構としてのMMEJは、ヒドロゾア、植物、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、ヒトに至るまで、幅広い生物種で保存されている。このようなMMEJ修復は非ランダムに起こり(すなわち、パターンがあり)、inDelphi などのアルゴリズムや深層学習モデル [#1, 2, 3]によって予測可能である。この予測可能性は、DSB修復後にプログラム可能な小規模な欠失 [#1]や大規模な欠失 [#4, 5] を確立するために利用されてきた。

 MMEJを介したアプローチはまた、ドナーDNAの遺伝子ノックインにも効果的に利用されてきた(例えば、GeneWeld [#6] PITCh [#7, 8]が、ゲノムと挿入DNAとの境界における遺伝子編集結果を制御するまでには至らなかった。一方、DSBを経由しないプライム編集(PE)により当初1~約50 bpの範囲の編集が実現され [#9]、その後、PEとインテグラーゼを組み合わせたTwinPE [#10] PASTE [#11]PASSIGE [#12] などの新しいツールによって、より大きなDNA挿入が可能になった。しかし、編集のフットプリントが残るため、タンパク質のタギングには適さないことが示された。

[成果詳細]

 研究チームは、CRISPR–Casシステムを用いたトランスジェニック・カセットの挿入と、外来性遺伝物質を導入した際のDSB修復機構の予測可能性を追究した。DNA修復結果を事前学習させた深層学習モデルを活用し、トランスジェニック・カセットの組み込みと小さな点変異の確立の両方において、修復アームの設計に最適なルールを捉えた。これにより、意図した編集と組み込みを促進する予測可能な編集結果が得られるようになった。

 具体的には、Pythia 1CRISPR–Casを用いたMMEJによる標的部位への組み込みを促進するため、トランスジェニック・カセットの端に配置されたµHタンデムリピート配列を用いた [Fig.1 a 引用右図参照]。その結果、in vitroおよびin vivoにおいて、トランスジェニック・カセットのゲノムとµHタンデムリピート修復アームとの界面において、DSB修復の結果がランダムではないことが確認された。さらに、µHタンデムリピート修復アームは組み込み中に境界を保護し、DNAの大幅なトリミングを防ぐことも明らかになった。

 こうして、最適な設計ルールを導き出した結果、HDRがほとんど効果を発揮しない細胞環境、例えば急速に分裂する脊椎動物胚(アフリカツメガエル)や成体マウスの有糸分裂終了神経細胞などにおいて、µHタンデムリピートを用いた正確なトランスジーン・カセットの統合が実現した。最後に、予測可能性の概念を、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)ドナーテンプレートを用いて標的遺伝子座に所望の点変異を導入する「小さな修復テンプレート」の合理的な設計へと拡張するに至った [論文Fig. 6参照]。

[ 図一覧]


[参考資料 (主としてcrisp_bio記事) ]

  1. 2018-11-18 機械学習モデルにより一塩基編集技術を磨く (2)NHEJ/MMEJの道(inDelphi)とHDRの道それぞれに [1] ディープラーニングに基づくモデルにより、NHEJ/MMEJを介した1-bp挿入と病因変異修復を実現 (Predictable and precise template-free CRISPR editing of pathogenic variants)
  2. 2019-06-06 CRISPR/Cas9を介した二本鎖DNA切断 (DSB)修復結果の多重並列プロファイリングと予測モデリング: Logistic regression model to predict insertions and deletions (Lindel);"Massively parallel profiling and predictive modeling of the outcomes of CRISPR/Cas9-mediated double-strand break repair"
  3. CRISPRメモ_2018/08/27 (Cas9誘導変異予測;ゲム重複と転位を誘導) [1] Cas9が誘導するDSBの修復過程で生成される変異は、周囲の配列から予測可能:FORECasT (Favoured Outcomes of Repair Events at Cas9 Targets);"Predicting the mutations generated by repair of Cas9-induced double-strand breaks"
  4. CRISPRメモ_2019/05/29 [1] Cas9が誘導する大規模なゲノム欠損において、マイクロホモロジーが高頻度でみられる:"Microhomologies are prevalent at Cas9-induced larger deletions"
  5. 2020-12-15更新 CRISPRメモ_2020/05/03 [2] Cas9 MMEJを介して、植物ゲノムから断片を効率的に削除:"Efficient CRISPR/Cas9-based plant genomic fragment deletions by microhomology-mediated end joining"
  6. 2022-06-21更新 GeneWeldCas9により標的部位と短い相同アームを伴うドナーとを同時切断することで, 効率的ノックインを実現:"Efficient targeted integration directed by short homology in zebrafish and mammalian cells"
  7. 2017-05-06 TALENまたはCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集において、ヒト培養細胞、カエル、カイコへの正確かつ高効率な遺伝子ノックインを実現したPITch ("Microhomology-mediated end-joining-dependent integration of donor DNA in cells and animals using TALENs and CRISPR/Cas9");プロトコル論文MMEJ-assisted gene knock-in using TALENs and CRISPR–Cas9 with the PITCh systems.” Nat Protoc. 2015-12-17. 
  8. 2017-05-04 “Exogenous gene integration mediated by genome editing technologies in zebrafish” Morita H, Taimatsu K, Yanagi K, Kawahara A.  Bioengineered. 
  9. 2020-05-08更新 David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs:"Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA"
  10. 2021-12-12更新 Twin PEと部位特異的リコンビナーゼにより,大規模なDNAの欠失,置換,挿入,および逆位を実現:”Programmable deletion, replacement, integration and inversion of large DNA sequences with twin prime editing"
  11. 2022-11-29 CRISPR指向性インテグラーゼを利用して、DSBを誘発することなく、巨大配列のノックインドラッグ・アンド・ドロップを実現PASTE (programmable addition via site-specific targeting elements)"Drag-and-drop genome insertion of large sequences without double-strand DNA cleavage using CRISPR-directed integrases"
  12. 2023-11-02 “Multiplex prime editing and PASSIGE TM for non-viral generation of an allogeneic CAR-T cell product” Pomeroy E J et al. Blood (2023) 142 (Supplement 1): 4803.
  13. 2023-05-04更新 Cas12a ULTRAnCas9-ABEの併用により、染色体転座を回避しつつ、CAR-T細胞を樹立:"Combining different CRISPR nucleases for simultaneous knock-in and base editing prevents translocations in multiplex-edited CAR T cells"
  14. 2017-05-06 HITI: 非相同末端結合(NHEJ)によって、in vivo で非分裂細胞に外来遺伝子をノックイン. "In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology-independent targeted integration"

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