2025-09-23 農研機構が主導するWebサイトの「バイオステーション」に2022年3月5日に掲載された記事「CRISPR/Cas9基本特許を巡る争い(カリフォルニア大学 vs ブロード研究所)が米国特許商標庁で決着」へのリンクを追記(https://bio-sta.jp/development/3231/):USTPOが2022年2月28日の審決に至った「発明の着想と実施化」に関する判断について、詳らかにされている。
2025-08-19 初稿
2025年5月12日、米国連邦巡回控訴裁判所(以下、裁判所)は、カリフォルニア大学および関連機関理事会(CVC)とブロード研究所との間で長年にわたり争われてきたCRISPR特許紛争において、2度目の判決を下した。 CRISPR特許について発言を続けてきたJacob S. Sherkow 法律学教授 [*] は今回、これまでの主要な紛争を概説し、裁判所の最近の判決を批判している。
特に、この論説では、判決が自己矛盾を孕み、特許法の構想理論(conception doctrine)- 発明者が発明について「明確かつ永続的な」アイデアを頭の中で形成していたか、あるいは、発明の結果について「かすかな希望をいだいていた」に過ぎなかった(the invention was little more than a “bare hope” of a result)- について混乱していることが強調されている。論説の結論では、今回の判決の意味合いと、根底にある紛争の今後の方向性について考察されている。
[着想(conception)と実施化(reduction to parctice)]
1年以上の熟考を経た裁判所の判決は、内部的に矛盾しており、ほとんど絶望的である。判決で特許審判部(PTAB)が犯したと非難しているのと同じ誤りを、判決自体が部分的に犯している。すなわち、着想(conception)と実施化(reduction to parctice)を著しく混同しているのだ。さらに、2018年のCRISPR-Cas9特許紛争における先例に違反しているようにも見える。
第一に、この判決の中で共に示されている、「CRISPR-Cas9が(少なくとも2012年当時は)『複雑』で『極めて予測不可能』であった」認識と、「真核生物のゲノム編集は『日常的な技能』だけで達成できるとする」認識を、調和させることは難しい。今では、CRISPRは真核生物のゲノム編集のツールとして魅力的で日常的に利用されるツールになっている。しかし、それは生物学上の奇跡であり、2012年当時の研究者の期待を裏付けるものでは無い。
第二に、着想と実施化をめぐる論理展開自体が混乱しており、まさに、裁判所がPTABの誤りだと非難した点である。特許法において、着想は常に発明者の頭の中で何が起こっていたか、つまり人間の想像力という行為に焦点を当ててきた。 一方、実施化は、実際に何が行われたかに焦点を当ててきた。着想は脳に関するものであり、実施化は手作業に関するものである。他の科学者が同様に真核生物のゲノム編集を達成できるかどうかは、Doudna研究室のMartin Jinek研究員が2012年3月1日に実験ノートにCRISPR-Cas9の仕組みを詳細に記述した時に、彼の頭の中で正確に何が起こっていたかについては教えてくれない。
他の科学者の成功や失敗は、着想について非対称的な情報を提供する。発明者が発明がうまくいくと考え、他の科学者が忠実にそれを実現する場合、特許取得可能な着想行為が行われたと考える十分な理由がある。一方で、発明者が発明がうまくいくかどうか疑念を抱き、そしてその分野の他の科学者も同様に疑念を抱いている場合は、その時点では発明行為はまだ行われていなかったと考える十分な理由がある。しかし、発明者が、他の科学者が実際に実現した発明について疑念を抱いている場合、それは発明者の心境、つまり発明者がその発明を「認識し、評価した」かどうかについてほとんど何も教えてくれない。
実際、少なくとも80年前に遡る判例が数多く存在し、他の科学者による成功はあったものの、発明者による「発明の認識と評価」がなかった場合、初期の着想日が否定されている(裁判所はこれらの判例には触れていない)。ここで言っていることは、CVCチームが自らの発明の重要性を理解していなかったという意味ではない。むしろ、PTABが「他の科学者の行動をCVCチームの考えの証拠としなかったこと」は正しかったということを意味するに過ぎない。この論理は、概念の対象、つまり推定上の発明者が明確かつ永続的な考えを持っているはずのものを曖昧にする。この判決は、過去の判例であるHitzeman v. Rutter(「わずかな希望」基準を明確にした判例)を引用し、生物学的「結果」を重視する発明と生物学的「機能」を主張する発明を区別することで、この区別を試みているが、この区別は、聞こえるほどには根拠は無い。
最後に、この判決は、CRISPRに関する裁判所の以前の判決とも矛盾している。 CRISPRに関する最初の意見は、2012年当時、CVCの発明者は真核生物においてその発明を機能させることに成功するという合理的な期待を持っていなかったため、真核生物のゲノム編集は原核生物のゲノム編集とは別に特許性があると結論付けた。ここでも、CVCは「真核細胞の編集に成功するという合理的な期待を持っていなかった」としながらも、「日常的な材料と方法でそのような細胞を編集するという明確かつ永続的なアイデアを持っていた」と矛盾を呈している。
[出典] A "Bare Hope of A Result": The Second CRISPR Patent Appeal. Sherkow JS. CRISPR J. 2025-07-17.
https://www.liebertpub.com/doi/10.1177/25731599251361362 [所属機関] College of Law (Carle Illinois College of Medicine, University of Illinois Urbana-Champaign)
[*] “Law, history and lessons in the CRISPR patent conflict” Sherkow JS. Nat Biotechnol. 2015-03-06. https://doi.org/10.1038/nbt.3160
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