YolTech Therapeutics, 華東師範大学, 安徽医科大学など中国の研究チームは今回、標的指向性脂質ナノ粒子(LNP)を用いてmRNAを造血幹細胞(HSC)に直接送達することで血液疾患を治療する生体内遺伝子編集のアプローチを実施した。具体的には、γグロビン遺伝子プロモーターの効率的な塩基編集を可能にする抗体を含まないLNPを開発し、胎児ヘモグロビン産生の再活性化と、βサラセミア患者由来のHSCにおけるグロビン鎖バランスの回復に成功した。この非ウイルス性送達システムは、HSC採取や移植前の侵襲的な化学療法による前処置を不要にして、製造プロセスの複雑さおよび副作用を軽減した鎌状赤血球症(SCD)およびβサラセミアに対する1回限りの治療アプローチを提供する。
[出典] “In vivo genome editing of human haematopoietic stem cells for treatment of blood disorders using mRNA delivery” Xu S, Liang D[..] Lu Y, Wang ZJ, Wu Y. Nat Biomed Eng. 2025-08-12. https://doi.org/10.1038/s41551-025-01480-y [所属機関] East China Normal University, The First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Anhui Medical University, The First Affiliated Hospital of Guangxi Medical UniversityYolTech Therapeutics, Shanghai Jiao Tong University, Central South University
[詳細]
遺伝子を改変したHSCの自家移植は、SCDやβ-サラセミアなどの造血疾患の根治的治療法として実証されている。この治療法は、数多くの臨床試験で成功を収め、他家細胞移植と異なりドナーマッチングが不要で移植片対宿主病(GVHD)を予防できる可能性を秘めている。その一方で、体外操作に十分な量の高品質HSCを入手するという課題が依然として残っている。さらに、重要な懸案事項は、移植される遺伝子改変自家HSCのスペースを骨髄ニッチに確保する必要から患者自身のHSCを除去するために、通常は、化学療法または放射線療法を含む侵襲的な前処理プロセスを必要とすることである。このプロセスには、不妊症やDNA損傷の蓄積による二次性悪性腫瘍の発生など、重大な急性および慢性の全身毒性を伴う。さらに、自家遺伝子治療は患者ごとに個別化されており、専門的な製造センターが必要となるため、体外遺伝子治療のコストは患者にとって極めて高額になることが多い。
体内HSC遺伝子治療のアプローチは、体内の造血幹細胞(HSC)にRNAを直接送達することで、遺伝子治療プロセスを簡素化することを目指している。
現在報告されている造血幹細胞の体内送達戦略では、ヘルパー依存性アデノウイルス(Helper-Dependent Adenovirus (HDAd) Production: HDAd)が利用されている。HDAdによって効率的な遺伝子導入が動員されるが、その後、低用量の化学療法によって編集された細胞を選択する必要がある。また、HDAdベクターには、投与時に炎症性サイトカインの放出を誘導すること、カプシドタンパク質に対する既存の免疫反応による課題、血清学的陽性率の高さにより広範な使用が制限されること、特定の血清型に対する組織への遺伝子導入能力が限られていることなど、いくつかの顕著な欠点がある。
非ウイルス性LNPsを用いたHSC送達システムは、HDAdに伴う課題を克服し、反復投与を可能にし、製造を効率化する可能性がある。LNPs送達システムは、免疫原性が低く、生分解性で無毒性の合成成分で構成され、反復使用が可能な遺伝子編集剤の一過性発現を可能にする。
これまでの研究では、マウスおよび非ヒト霊長類において、LNP mRNAを用いた効率的な遺伝子編集が生体内で実証されており、LNPs表面への抗体修飾による特異的な細胞標的化も実証されている。
最近、LNPに結合したCD117に対する抗体(CD117/LNP-mRNA)を利用することで、単回静脈内注射を介してマウスのHSCへRNA(siRNAとmRNA)を送達することた可能なことが実証された [crisp_bio 2023-07-31]。しかし、ヒト化マウスモデルにおいて、LNPを用いたin vivoでの遺伝子編集HSCの治療効果を評価した例はほとんど無い。
中国の研究チームは今回、アデニン塩基エディター(ABE8e)のmRNAおよびsgRNAをヒト造血幹細胞前駆細胞HSPCに生体内で送達するための、抗体フリーの結合LNPを開発した。異なるヘッド、リンカー、テール構造を特徴とするイオン化脂質のライブラリを設計およびスクリーニングすることにより、LNP-028-ABE8eが骨髄RNA送達に最も効果的であることを突き止めまた。
このLNP-028-ABE8eを用いてヒト細胞へのABE8e mRNAおよびsgRNAの送達を実現し、赤血球(RBC)中の胎児ヘモグロビン(HbF、α2γ2)レベルを再活性化するために、γ-グロブリン標的での効率的な塩基編集を実現した。
さらに、ヘッド部分とテール部分の構造的組み合わせを最適化することで、生体内での送達効率が大幅に向上しているLipid-168を見出した。ヒト化βサラセミアモデルにLNP-168-ABE8eを投与したところ、輸血依存性βサラセミア患者由来のHSCにおいて効果的に塩基編集が行われ、γグロビン(HBG1/2)の発現が著しく誘導された。
今回の研究結果は、抗体フリーの結合LNPを介したHSCの生体内編集戦略が、骨髄中のHSCに遺伝子編集エレメントを効果的に送達し、大きな治療効果をもたらすことを示唆している。
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