CRISPR-Cas9による真核生物ゲノム編集のパイオニアの一人であるMITのFeng Zhang教授らは、先行研究で、典型的なバクテリアの細胞外収縮性注入装置(extracellular contractile injection systems: eCISs)であるPhotorhabdus virulence cassette (PVC) のテール・ファイバーを改変し、さらに、Cas9や塩基エディターなどをアミノ酸鎖としてPVCのチューブ内に収容することで、ヒト細胞やマウスへと送達し機能させることに成功していた [crisp_bio 2024-04-10]。今回、PVCに異なる改変を施すことで、より多様なカーゴの送達と、より広範な細胞種特異的な標的タンパク質との適合性を実現し、
SPEARシステム [Fig. 1 a, b, c 引用右図の a 参照] として発表した。
[出典] "Targeted delivery of diverse biomolecules with engineered bacterial nanosyringes” Kreitz J [..] Zhang F. Nat Biotechnol. 2025-08-12. https://doi.org/10.1038/s41587-025-02774-x [所属機関] Howard Hughes Medical Institute (Cambridge), Yang Tan Collective, McGovern Institute for Brain Research at MIT, Broad Institute of MIT and Harvard, MIT, Harvard University.
[詳細]
第一世代のPVC設計では、タンパク質に限定されたeCIS本来のカーゴ(ペイロード)装填機構を用いていた。異なるカーゴを収容するために今回、
複合体の基部のスパイクにカーゴのドメインを融合できるCISの関連ファミリーから ‘VI型分泌システム (T6SS)’ [CISのレビュー論文から引用した右図参照] に注目した。PVCスパイク複合体(Pvc8/Pvc10)とT6SSスパイク複合体(VgrG/PAAR)との構造類似性、および、T6SSがスパイクを介して外来カーゴを積載するように改変されたという報告 [Hersch SH et al., mBio 2021; Wettstadt S, Filloux A, PLoS One 2020] から、PVCにおいて類似のスパイクを介したカーゴ積載戦略を実施することを発想した。
PVCのスパイクを介して外来タンパク質を送達する
内因性カーゴを削除した後、T6SSに見られるものと同様の配置で異種カーゴドメイン(Cas9)をスパイク(Pvc8)またはスパイク先端(Pvc10)に融合し [Fig. 1 - a/b/c引用右図 a 右側のSPEAR参照]、得られた精製PVCをネガティブ染色透過型電子顕微鏡(TEM)で分析した。その結果、各PVC粒子の基部に、Cas9がロードされたと考えられる新生密度が確認された [先の引用図の c 参照]。2つのCas9ドメインを持つPvc10設計では2つの異なる密度(Cas9-Pvc10-Cas9)が観察され [引用図 c の左側から4番目参照]、Cas9が三量体Pvc8に融合された場合には3つの密度(Pvc8-Cas9)が観察されたことから、これらの密度はスパイク複合体にロードされたCas9カーゴに対応する可能性が高いことが確認された。
先行研究では、Cas9がPVC本来の内部構造のチューブ部分にロードできることを実証したが、sgRNAとのRNP(リボ核タンパク質)複合体としてはCas9をロードできなかった。これは、チューブへのロード中にカーゴのタンパク質がアンフォールディングされるためと考えられる。しかし、Fig. 1 c のTEM観察結果は、SPEARのスパイク複合体にロードされたカーゴはフォールディングされた(折り畳まれた)ままであることを示唆した。そこで研究チームは、この方法を用いて Cas9 リボ核タンパク質 (RNP) をロードして送達できるかどうかをテストした。
その結果、Pvc8/Pvc10-Cas9 融合タンパク質を含む PVC を sgRNA と共発現させると、野生型のPVC と比べて sgRNA が約 5 倍濃縮されて精製された。さらに、これらの PVC [*] を HEK293FT 細胞に加えると、改変PVCに加えてsgRNA を同時にトランスフェクションすることなく、オンターゲットの挿入欠失 (InDel) が観察された。これは、PVC スパイクにロードされた Cas9-sgRNA RNP も機能的に送達されたことを示している。
[*] Pvc13 に Ad5 ノブドメインを持ち、ヒト細胞を標的可能にしたPVCであり, 特に断りのない限り、今回のすべての生細胞実験で使用
スパイク・ベースのカーゴ・ローディングとチューブベースのカーゴローディングは同時に利用することができる。これを利用して、2成分の塩基編集システム(ジンクフィンガーデアミナーゼ(ZFD))の各成分を、単一のPVC設計で送達可能なことが実証された。
タンパク質以外のカーゴを送達
Pvc10 ベースのカーゴ・ローディングは、折り畳まれたタンパク質や RNP を送達することに加えて、別の利点もある。Pvc10 は PVC の外部コンポーネントであり、PVCとの完全な複合体に組み込んだ置く必要が無いことからin vitro で Pvc10 を欠く PVC 上に自己組織化できる可能性があり、ひいては、in vivo では積み込みが困難なさまざまな合成カーゴ、例えば化学修飾されたカーゴ、の積み込みが可能になると想定された。実際に、別途精製した Pvc10 タンパク質が in vitro で Δpvc10 PVC 上に容易に組み立てられることが、 Cre レポーター(loxP–緑色蛍光タンパク質(loxP–GFP))をモデルとして実証された。さらに、Δpvc10 PVC(内部カーゴを含まない)とPvc10-Cas9 RNPと共にインキュベートしHEK293FT細胞に添加したところ、標的上にインデルが誘導され、このin vitroカーゴ・ローディングのアプローチの実現可能性が示された。
次に、Pvc10をタンパク質とは異なるカテゴリーのカーゴ、すなわち一本鎖DNA(ssDNA)、の送達を試みた。HUHエンドヌクレアーゼ(HUHe)ドメインをPvc10に融合し、得られたPvc10-HUHe PVCを、HUHe特異的認識配列と、ヒトVEGFA 遺伝子座に6bpの挿入を誘導するように設計された相同組換え修復(HDR)テンプレートの両方を含む約100塩基のssDNAオリゴヌクレオチド(ssODN)とインキュベートした。得られたDNA搭載PVCを、Cas9/sgRNAプラスミドを予めトランスフェクトしたHEK293FT細胞に添加したところ、この遺伝子座に意図した挿入が観察された。さらに、Cas9 RNP(Cas9をPvc10のC末端に融合)とHUHe-ssODN(HUHeをPvc10のN末端に融合し、その後ssODNをin vitroで結合)の双方を搭載したPVCは、Cas9/sgRNAをトランスフェクションしていないHEK293FT細胞において、Cas9を介したインデルとssODNを介したDNA挿入の双方を誘導した。これは、PVCが単一のマルチドメインPvc10融合を介してCas9 RNPとssDNA HDRテンプレートを同時に送達可能なことを示している。
送達可能な細胞タイプを拡大する
PVCの有用性をさらに高めるため、このシステムで標的可能な細胞種の幅を広げることを目指した。以前、DARPinやナノボディ(Nbs)などの小さな結合タンパク質をPVCのテイル・ファイバーPvc13に遺伝子挿入できることを示した。しかし、より大きな標的タンパク質である単鎖可変領域フラグメント(scFv)やモノクローナル抗体(mAb)などは、この戦略には適合しなかった。この制限を克服するために、Pvc13の遠位結合ドメインにバイオコンジュゲーションタグ(SpyTag(ST)またはSNAPタグ(SNAP))を挿入した。これにより、SpyCatcher(SC)またはベンジルグアニン(BG)を含むフルサイズの抗体(scFvおよびmAb)とPvc13をin vitroで共有結合させることに成功した。 Pvc13-STまたはPvc13-SNAPをそれぞれSCに融合した抗HAタグscFv(scFvanti-HA-SC)またはBG標識CD3に対するmAb(mAbanti-CD3-BG)とインキュベートしたところ、これらの抗体の適切な結合パートナーを提示するヒト細胞において、強力な送達活性が観察されました。ヒト細胞表面受容体に特異的な結合タンパク質の大部分はmAbとscFvであるため、この結果はPVCが標的可能な細胞の種類と組織を大幅に拡大するものである。
次に、in vitroで再標的化されたPVCが、以前に再標的化されたPVCで観察された高い標的特異性を維持するかどうかを検証した。
ST/SC再標的化法を用いて、毒素を封入したPVCを、抗マウスMHCクラスII Nb VHH7(Nbanti-MHCII)または抗ヒトEGFR DARPin E01(DARPinanti-EGFR)という2つの異なる結合ドメインのいずれかと結合させ、得られた再標的化PVCを、マウスMHCクラスII(A20)またはヒトEGFR(A431)を発現する細胞と約1:1の比率で共培養した。その結果、各 PVC 処理が、混合集団内の単一の細胞サブセットのみを選択的に減少させることが確認された。Nbanti-MHCIIを結合させた PVC は A20 細胞を選択的に阻害し、DARPinanti-EGFR-EGFR を結合させた PVC は A431 細胞を選択的に阻害した。さらに、同様の抗マウス MHC クラス II 標的 PVC (Nbanti-MHCII を結合) をマウスに全身投与したところ、マウスの脾臓で MHC クラス II+ 細胞の約 7% が減少したが、オフターゲット細胞集団には大きな影響はなく、中和免疫はわずかであった。これは、in vitro で機能化された PVC を利用して、in vivo で特定の細胞タイプを特異的に標的とすることができることを示している。この応用として、例えば、持続的な治療薬産生のためのB細胞の再プログラムなどが挙げられる。
最後に、Pvc8/Pvc10をベースとしたin vitroカーゴ・ローディングとST/SCをベースとしたin vitroリターゲティングを、単一のin vitro相補反応に組み合わせることができるかどうかを検証した。カーゴとターゲティング部位の両方を欠損したPVC(Δpvc10/Pvc13-ST)を、別途精製したPvc10-Cas9RNPおよびAd5 knock-SCとインキュベートしたところ、得られたリプログラム化PVCはHEK293FT細胞においてオンターゲット編集を誘導した。これは、これらの粒子がin vitroでカーゴとターゲティング部位の両方を備えていることを示している。
まとめ
全体として、本研究は、PVC がさまざまなカーゴ(タンパク質、RNP、ssDNA、マルチ・ドメイン・カーゴなど)および細胞タイプ特異的な結合タンパク質(scFv および mAbs など)でモジュール式に機能化でき、人工的混合集団と生きたマウスの両方で標的特異的な送達を可能にすることを示している。PVC に独自の注入ベースの作用機序は、内部移行または輸送のための固有の細胞経路とは独立して機能すると考えられているため、このシステムは、代謝的に不活性な細胞や老化細胞、または既存のツールでは標的とするのが難しい非ヒト生物(植物、真菌、原核生物など)での使用に適していると考えられる。
これらの結果を総合すると、SPEAR はバイオテクノロジーの幅広い用途を持つ、生体分子送達用の高度にプログラム可能なシャーシであると言えよう。
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