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  • 米国以外の国と地域は, 米国政府が選んだ道を行かずに, COVID-19パンデミックの救世主によって切り開かれた道を歩き続けるだろう

 COVID-19パンデミックにおいて何百万人もの命を救う上で重要な役割を果たした技術は []、称賛する他にない。ところが、ロバート・F・ケネディ・ジュニア米国保健福祉省(HHS)長官は、メッセンジャーRNAmRNA)ワクチンの研究プロジェクトに対する、連邦政府による22件の助成金(総額約5億ドル)を打ち切ると発表した

 mRNAワクチンの技術は、ドナルド・トランプ米大統領が最初の任期(201721年)において採った「ワープ・スピード作戦Operation Warp Speed)」の成果であった。連邦政府が180億ドル規模のプログラムとして、記録的な速さで米国民にCOVID-19ワクチンを調達することを目指した作戦である。mRNA医薬品の技術はまた、がん、自己免疫疾患、鎌状赤血球症などの遺伝性疾患の治療にも可能性を示している技術でもある。

 しかし今、助成金打ち切りに伴う声明の中で、ケネディ長官は「これらのワクチンは、COVIDやインフルエンザのような上気道感染症を効果的に予防できない」と述べた。また、ワシントンポストの記事で、米国立衛生研究所(NIH)のJay Bhattacharya所長は、mRNA技術は「国民の信頼を得られなかった」ため、ワクチン接種への躊躇が高まったと書いている。

 mRNAと公衆衛生の研究者からの反応は、「衝撃」と「信じられない」という言葉では尽くせなかった。企業と大学を代表するmRNA医薬品連盟(The Alliance for mRNA Medicines: AMM)は声明で、「ケネディ長官によるmRNA技術に対する非科学的で誤った非難と助成金の打ち切りは、絵に描いたような"cutting off your nose to spite your face” [*]だ」と述べた。[*] 怒りや悪意にかられて起こした行動が、結局は意図した対象よりも行動を起こした本人に報いが来ることを表す。

 正に。しかし、この発表は予想外ではなかった。ケネディ氏のワクチンに関する見解はよく知られており、研究者のコンセンサスからはかけ離れている。Nature誌のニュースチームなどが数ヶ月前から報じているように、トランプ政権は多くの場合、独立した専門家を排除して、政治的な任命者へと置き換えており、健康、経済統計、環境など、科学と公共政策の分野で起こってきたのと同じ流れである。

 かつては、他の国と地域は科学大国の米国を熱心に追随したものだった。しかし、今回は違う。ケネディ・ドクトリンを採用しようと列をなす国々はない。理由の1つは、ほとんどの国がmRNA製造プラットフォームをさまざまな用途に再利用できることを理解しているからだ。いつ来るかも分からない緊急事態に備えてどれだけのワクチンを備蓄するかを予測することは、為政者にとって常に大きな頭痛の種であり、また、その待機の間、製造施設を維持することも然りである。mRNAワクチンの場合は、プラットフォームがワクチン製造に使用されていない間、単にアイドル状態になってコストを積み重ねるのではなく、さまざまな疾患の治療薬の製造に使用される可能性がある。

 同時に、mRNA技術は、低中所得国(Low- and Middle-income Countries: LMICs)の健康上の緊急事態におけるワクチンの自給自足を可能にしつつある。COVID-19パンデミックの間、世界保健機関(WHO)と特許技術の使用ライセンスを求める国連支援の医薬品特許プール(The Medicines Patent Pool: MPP)は、mRNA技術をLMICに移転する計画を立てた。これは、政府が海外製の高価なワクチンを調達できず、裕福な国が供給を買いだめしたために人々が亡くなった事態への対応であった。これまでに、15カ国が、必要な品質、量、安全性、有効性の基準を満たす製造体制を確立し、最終的には規模を拡大するプログラムに取り組んでいる。南アフリカのケープタウンに拠点を置くアフリゲン・バイオロジクス・アンド・ワクチンズ(Afrigen Biologics and Vaccines)社が実施しているこの計画は、成果を上げている。これは真の勝利であり、誰もが恩恵を受けられるように技術を共有する方法の優れたモデルである。

 新技術に関するすべての決定にはリスクとベネフィットの計算が伴い、完全にリスクのない医療技術は存在しない。しかし、安全性と有効性のデータを評価した研究は、mRNAワクチンのベネフィットがリスクを上回ることを圧倒的に裏付けている。またリスクについては、ワクチン接種をためらう理由と同様に、引き続き研究する必要がある。それに、政府がmRNAワクチンの科学研究を中止しても、ワクチンに対する国民の信頼は向上しない。さらに、人命を救ってきた最先端技術への資金提供を停止すれば、次のパンデミックが発生したときに人々が無防備になっているリスクが高まる。これは無責任の極みである。

 米国の助成金を受けている米国の科学者は、mRNA研究における国際協力に深く関わってきており、また、米国抜きでのmRNA研究は、これまではあり得なかった。この技術に関する先駆的な研究は、1980年代にポール・クリークとダグラス・メルトンが研究室でmRNAを合成する取り組みや、細胞が様々な形態のmRNAを認識し反応する仕組みに関するカタリン・カリコとドリュー・ワイスマンのノーベル賞受賞研究など、米国の研究室による成果であった。そして資金面では、これまでのところ、mRNAへの投資で製薬会社に匹敵できる政府は米国だけでである。だからこそ、米国の決定の重要性はいくら強調してもし過ぎることはない。

 米国以外の国や地域が別の道を選ぶのは正しいことだ。彼らは今、mRNA研究への投資を増やし、WHOmRNA技術移転に関する研究への資金提供を増やす時である。

[crisp_bio] アメリカ合衆国保健福祉省 (HHS) ロバート・F・ケネディ・ジュニア長官はかって、米国やキューバとハイチやナイジェリアとのワクチン接種率と死亡率を比較する中で、ハイチは人口約1,100万人で、COVID‑19ワクチン接種率が 1%(あるいは1.31.4%)と非常に低いにも関わらず 、接種率70-80%の米国に比べて、死亡率が極めて低いといったデータを引用して、COVID-19ワクチンの効果は無かったという主旨の発言をしていた。なお、ハイチの平均年齢は~23歳であり、また、検査数が極端に少ないことには、言及しないままであった。

[出典] EDITORIAL “Cancelling mRNA studies is the highest irresponsibilityNature 2025-08-15. https://doi.org/10.1038/d41586-025-02612-9

[]Global Estimates of Lives and Life-Years Saved by COVID-19 Vaccination During 2020-2024” Ioannidis JPA, Pezzullo AM, Cristiano A, Boccia S. JAMA Health Forum. 2025-07-25. https://doi.org/10.1001/jamahealthforum.2025.2223COVID-19ワクチン接種により、2020年から2024年の間に250万人の死亡が回避された (感度範囲推定値:140万~400万人)

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