crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

[] TAM (target-adjacent motif / 標的隣接モチーフ); PAM (protospacer adjacent motif / プロトスペーサー隣接モチーフ)

 2014年にJennifer A. Doudnaノーベル賞受賞者が率いる研究チームは、DNAを標的とするCRISPR-Cas9による一本鎖RNAssRNA)切断を実現したCRISPR-Cas9DNA切断に必須のPAM配列をもたないRNAに対して、PAM配列を含むオリゴヌクレオチドをトランスに供給する戦略を実装したのである。

 Ailong Ke教授が率いるイエール大学とシカゴ大学の研究チームは今回、標題にあるシンプルな手法で、Cas9の祖先とされるIscBCas9RNAエディターに変身させることに成功し、Cell 誌から発表した

[詳細]

 Cell 論文の責任著者Ailong Ke教授は、コーネル大学在籍時にIscB-ωRNA*システムが二本鎖DNAを切断する構造基盤を明らかにしていた[*ωRNACas9におけるcrRNAtracrRNAの融合ガイドに相当] 今回、野生型IscB-ωRNAが、dsDNA強く結合するが、ωRNAに相補的な一本鎖DNAssDNA)およびssRNAに結合することを発見しそのssRNA結合活性を活かしてRNAエディターを作出するに至った。この一連の結合活性については、TAMと相互作用するドメインTIDTAM interaction domain: AA433-487)を削除すると、二本鎖DNA結合活性が消失する一方で、ssDNA/RNA結合活性は維持される [グラフィカルアブストラクト参照]

  • TIDを削除したOgeuIscB-ΔTIDR-IscB:サイズ 432 AA)はシード配列を介してssRNAに結合する。しかし、ssRNA切断活性は30分間のインキュベーションでは検出されなかった。
  • R-IscBは、本来RNAを標的とするCas13に見られるコラテラル活性、ひいては、細胞毒性を示さない。
  • R-IscBωRNAを適切に設計することで、ヒト細胞において、dPspCas13bdRfxCas13dよりも効果的に、スプライシングを操作することが可能である(ピルビン酸キナーゼ遺伝子とDMDジストロフィン遺伝子で実証)。
  • R-IscBによる5’トランススプライシングを介して、mRNAレベルでの変異を修正することが可能である(EGFPレポーター細胞で実証)。
  • R-IscBに、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ2ADAR2)を融合させることで、mRNAにおける効率的な編集(A-to-I)が実現する。
  • 構造情報をベースにHNHドメインに変異を導入したR-IscB-VR4は、HEK293T細胞において、PspCas13b and RfxCas13dに優るmRNAレベルでのノックダウンを実現する。
  • TIM削除と同じアプローチによってPAM相互作用ドメイン(PID)を削除することで、SaCas9CjCas9SpCas9Cas9dRNAエディターへ変身させることができる(R-Cas9と総称)。

 研究チームは、トランススプライシングに基づくアプローチの治療可能性に期待している。多くの潜性遺伝病は、多様な機能喪失変異が原因である。塩基編集またはプライム編集によってこれらの変異を修正するには、各変異を個別の有効性と安全性の評価を必要とする異なる分子疾患として扱う必要がある。これは時間とリソースの両方を必要とする。RNA誘導トランススプライシングは、単一のトランススプライシング・ガイドで複数の変異を修正することで、治療戦略を劇的に簡素化する可能性を秘めている。そうなれば有効性と安全性を一度評価するだけで済むため、患者への治療薬の提供がより迅速かつ費用対効果の高いものになる。 さらに、R-IscBのサイズが小さいため、AAVペイロードの最大2.5kbを遺伝子修正用コンテンツに割り当てることができ、DMDなどの非常に長い疾患遺伝子の修正が可能になる。

 論文は「今後の研究が、このプラットフォームの研究および医療におけるポテンシャルを決するだろう」で結ばれている。

[出典] Conversion of IscB and Cas9 into RNA-guided RNA editors” Xu C [..] Ke A. Cell 2025-08-18. https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.07.032 [所属機関] Yale University, The University of Chicago

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット