上海科技大学の生命科学技術学院( School of Life Science and Technology: SLST)および上海高等免疫化学研究所(Shanghai Institute for Advanced Immunochemical Studies: SIAIS)の Yang Bei助教授と、上海科技大学SLSTのChen Jia教授が率いる研究チームは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)エディターを大きく前進させた。Molecular Cell 誌に掲載されたこの研究は、ミトコンドリア塩基編集因子であるDdCBEの機能的構造スナップショットを初めて明らかにし、mtDNAの一塩基編集と、疾患関連mtDNA変異の精密モデリングを可能にするWinPredモデルとadDCBEを開発した。
[詳細]
mtDNAの変異は、特に中枢神経系のような高エネルギーを必要とする組織において、様々な重篤な多臓器疾患を引き起こす。例えば、レーバー遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy: LHON)は、NADH脱水素酵素1遺伝子(MT-ND1)などのミトコンドリア遺伝子におけるホモプラスミック(すべてのmtDNAコピーが変異を保有する)点変異によって引き起こされる可能性があり、主に視神経に影響を与え、中心視力の喪失につながる。しかし、既存のCRISPR由来の遺伝子編集技術では、ガイドRNAがミトコンドリアに侵入できず、プログラム可能なヌクレアーゼがミトコンドリアゲノムのすべてのコピーを破壊するリスクがあり、壊滅的な結果につながるため、このような変異の修正には利用できない。
mtDNAの変異を修復するエディターはまず、転写活性化因子様エフェクター(TALE)アレイとdsDNA特異的シチジンデアミナーゼDddAを結合させ、特定のmtDNA遺伝子座を標的としてC-to-T編集を実現したDdCBEとして登場した [#1]。しかしながら、DdCBEとそこから派生した一連のmtDNAエディター [#2-9]は、編集可能な領域(編集ウィンドウ)の特定が困難であり、ひいてはバイスタンダー編集のリスク評価も困難であり、加えて、いわゆるオフターゲット(OT)効果も無視できないため、高精度が求められる研究や臨床現場への応用が制限されていた [本ブログ投稿の[補足]の項を参照]。
これらの課題に対処するため、研究チームはまず、2つの内因性mtDNA遺伝子座を標的とするDdCBE(デアミナーゼとしてDddA11を利用したDdCBE11 [#2])の高解像度クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)構造*を決定し、その動作メカニズムと編集ウィンドウの構造決定因子を明らかにした [論文グラフィカルアブストラクト上段左参照: 図中のsDdCBEはスプリット型DdCBEの意]。[*] 論文にはPDB IDとして9J08と9KYAが記載されているが、前者はIDに誤りがあると思われ、後者は、論文出版待ち (HUP)のステータスに留まっている。
次に、シミュレーションとin vitroデアミナーゼ活性アッセイのデータを統合し、異なるスペーサー長にわたって編集ウィンドウを予測できるモデルWinPredを構築した [論文グラフィカルアブストラクト上段左参照]。
WinPredの予測に基づき、sDdCBEのTALE認識領域とスペーサー長の設計を最適化し、様々なmtDNA遺伝子座において鎖特異的かつ高精度な編集が実現された。
さらに、今回得られた構造情報をベースにしてDddAエフェクタードメインを改変し [論文グラフィカルアブストラクト下段左参照]、編集ウィンドウを2~3塩基にまで狭め、オフターゲット効果をバックグラウンドレベルに近いレベルに抑えたDdCBE(aDdCBE)の高精度版を作製した [論文グラフィカルアブストラクト中段左参照]。WinPredとaDdCBEを組み合わせることで、標的シトシンが複数のバイスタンダーシトシンに挟まれた困難な標的部位においても、一塩基精度のmtDNA編集を実現するに至った。
このシステムを用いて、研究チームはLHONに関連する病原性変異をmtDNAに正確に導入し、疾患表現型を忠実に再現した。これにより、WinPredとaDdCBEがミトコンドリア疾患の高精度モデリングに有効であることが実証された [論文グラフィカルアブストラクト中段右参照]。
[補足] これまでのミトコンドリアDNAエディター
最初のDddA由来シトシン塩基編集因子(DdCBE)は、転写活性化因子様エフェクター(TALE)アレイと細菌由来二本鎖DNA(dsDNA)特異的シチジンデアミナーゼDddAを組み合わせて、主に5'-TCコンテキストで、特定のmtDNA遺伝子座をCからTへの編集を対象としていた。合成dsDNAに結合したDddAの結晶構造から、標的シトシンの押し出しは、F1375を介した-1チミンの置換と、並置されたグアニンとの非標準的なT-G塩基対の形成によって促進されることが明らかになり、TCコンテキスト選択性が説明された。細胞毒性を軽減するため、DddAはDdCBE内で不活性な半分であるDddA-NとDddA-Cに分割され、各半分はTALEアレイに融合され、ペアで機能的なDddAを標的部位に再構成する。あるいは、DddAに変異を導入して細胞毒性を軽減する手法も取られている。結果として得られたDddAGSVGバリアントは、標的塩基編集に1つのTALEアレイのみを必要とする単量体DdCBE(mDdCBE)の開発につながった。DddAのさらなるファージ支援進化によりDddA6とDddA11が生成され、DddA6またはDddA11を含むDdCBE、すなわちDdCBE6とDdCBE11は、TCコンテキストで約4倍の編集強化を示し、DdCBE11はさらにHC(H = T / A / C)のより広い編集コンテクトを示した。一方、進化したアデノシンデアミナーゼ変異体TadA8eをDdCBEに組み込むことで、TALE結合デアミナーゼ(TALED)が生成され、標的mtDNA遺伝子座でのAからGへの編集が可能になった。TALEをジンクフィンガーに置き換えるか、アレイ11(ZF-DdCBE)またはDddAの半分をニッカーゼと一本鎖DNA(ssDNA)デアミナーゼ(mitoBE)に置き換えるものも登場し、mitoBEは鎖選択的な編集を可能にした。これらの塩基編集ツールは、ミトコンドリア疾患のモデル化や治療に役立つ貴重なツールを提供する。
スプリット型DddAをベースにしたDdCBEでは、DddAはG1397またはG1333のいずれかで分割されるが、G1397バージョンの方が効果的で広く使用されている(論文では、G1397分割DddA含有DdCBEがsDdCBEと呼ばれている)。スプリット型DddAの半分を効率的に組み立てるために、左TALE認識領域と右TALE認識領域の間のスペーサー領域として通常12~18 bpが取られる。ひいては、スペーサー内で、sDdCBEの編集ウインドウは捉え難くなる。これは通常、ターゲット鎖 (TS、DddA-1397N 結合 TALE アレイによって認識される) 上のスペーサーの 5' 末端の下流 8 ~ 13 nt、または非ターゲット鎖 (NTS、TS の反対側) 上のスペーサーの 3' 末端の上流 3 ~ 9 nt にわたる。mDdCBE も同様に捉えにくい編集ウィンドウを示す。こうしたsDdCBE と mDdCBE の編集ウィンドウを決定する要因は不明である。
DdCBEsの編集ウィンドウは捉えにくいだけでなく、無視できないオフターゲット(OT)効果のリスクもあり、病原性変異の精密モデリングや修正への応用を制限することになる。
したがって、DdCBEsの編集ウィンドウの決定因子を理解し、編集結果の予測可能性を解決し、編集精度をさらに高めることは、研究と臨床の両方の現場でDdCBEsを幅広く応用する上で不可欠である。
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[出典]
- 論文 “Structural insights into DdCBE in action enable high-precision mitochondrial DNA editing” Xiang J, Xu W, Wu J [..] Chen J, Yang B. Mol Cell. 2025-09-10. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2025.08.016 [所属] ShanghaiTech University, Shanghai Clinical Research and Trial Center;グラフィカルアブストラクト
- News “ShanghaiTech scientists take major step forward in high-precision mitochondrial DNA editing” 上海科技大学. 2025-09-11. https://www.shanghaitech.edu.cn/eng/2025/0911/c1260a1114963/page.htm
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