[注] タンジン(丹参; DanshenSalvia miltiorrhiza )は中国伝統の医薬(中医薬)である。なお、漢方薬は日本で独自に発展した生薬を利用した医薬である [参考: 「日本漢方」と「中医学」との違いとは. マイナビ薬読. 2023-02-28].
丹参は、心血管疾患および脳血管疾患に顕著な治療効果を持つ中医薬として広く知られている。コンパクトなゲノムと短い世代周期といった優れた特性から、研究用薬用モデル植物として広く利用されてきた。しかしながら、植物体レベルでのゲノム編集ツールの効率が低いことが、基礎研究や代謝工学の発展を阻害してきた。
中国中医学科学院中医学資源センターを主とする中国の研究チームは今回、内因性SmRPS5A プロモーター駆動型tRNA-gRNA CRISPR/Cas9マルチプレックス・ノックアウトシステムを確立し、T0植物において、従来の毛状根/プロトプラスト・ベースの手法を凌駕する、極めて高い編集効率(単一標的で平均90%以上、二重標的で平均70%以上、三重標的で平均60%以上)とホモ接合変異率(>20%)を達成した。
このシステムを利用して、SmOPR3 遺伝子をノックアウトすると、雄性不妊表現型が直接誘導された。トランスクリプトーム解析および代謝フラックス解析の結果、SmOPR3 の欠失はJA(jasmonic acid / ジャスモン酸)シグナル伝達を阻害し、タンシノン濃度を16~66%減少させる一方で、競合する遺伝子(SmCPS3 / SmCPS4 )の二重ノックアウトはタンシノン蓄積を促進することが明らかになった。さらに、CRISPRを介したコアパスウェイ遺伝子(SmCPS1 / SmKSL1 )の除去は、タンシノン生合成を完全に阻害し、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)フラックスを代替経路に誘導した。
これらの成果を組み合わせ、タンジンの高効率マルチプレックス編集プラットフォームを確立し、JAが発生調節因子と代謝統合因子という二重の役割を担っていることを実証し、「プッシュ・プル・ブロック」型代謝工学戦略の有効性を実証した。
この研究は、CRISPRシステムをベースに、薬用植物における精密育種と代謝工学の普遍的な枠組みを確立し、タンジンを合成生物学応用の有望なモデルとして位置付けた。
[出典] "Efficient tanshinone metabolic engineering in Salvia miltiorrhiza through modified multiplex CRISPR/Cas9 system" Zheng H, Yao Q, Liu Q [..] Yu M, Huang L. Chem Eng J. 2025-09-19. https://doi.org/10.1016/j.cej.2025.168709 [所属] National Resource Center for Chinese Materia Medica CACMS, Beijing University of Chinese Medicine, Shanghai Jiao Tong University, Inner Mongolia Minzu University, Shunfeng Biotechnology (Hainan) Co Ltd.
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