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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)は、自家細胞を用いた治療、疾患モデル化、創薬など、多くの刺激的な応用において大きな可能性を秘めている。しかし、iPSCの潜在能力を最大限に引き出すには、細胞を高精度かつ効率的に遺伝子改変する能力が不可欠である。疾患モデル化の観点では、患者由来のiPSCにおける変異の修正や、健康なiPSC株への特定の遺伝子変異の導入が必要となる場合がある。実際、十分に特性が解析されたhPSCクローンに特定の遺伝子変異を導入することで、その機能的影響を完全に同質遺伝子的な状況で研究することが可能になり、遺伝的背景の違いから生じる大きな変動を排除することができる。
 CRISPR-Cas9などの技術はゲノム工学のワークフローに革命をもたらし、高精度かつ高効率でゲノムを編集する能力を提供しているが、ヘテロ接合改変(目的の編集が一方のアレルのみに適用される)を達成することは依然として困難である。これは、CRISPR/Cas9がDNA二本鎖切断(DSB)を非常に効率的に生成することに起因しており、通常、特定の標的遺伝子座の両方のアレルに意図された編集(ノックイン)または意図されない編集(インデル)を含む細胞が生成される。
 オーストラリアの研究チームは今回、DSBを必要としないプライム編集(PE)を利用して、10以上の異なる遺伝子座にヘテロ接合性編集を導入し、その後の精製や薬剤選択のステップを必要とせずに、最大40%のノックイン効率を達成した。さらにPEは、エンドヌクレアーゼベースの編集手法では困難な、パラロガス遺伝子へのヘテロ接合性編集の正確な導入も実現した。
 さらに、PEをエピソーム・リプログラミングと組み合わせることで、皮膚線維芽細胞または患者の血液サンプルから直接、ヘテロ接合性編集を有するiPSCクローンを誘導できることも実証した。
 これらの知見は、複雑な遺伝子改変を持たせたiPSCクローンを作製するための効果的な戦略としてのPEの有用性を浮き彫りにするものである。
[出典] "Efficient Installation of Heterozygous Mutations in Human Pluripotent Stem Cells Using Prime Editing" Suter A [..] Howden SE. CRISPR J. 2025-09-24. https://doi.org/10.1177/25731599251380122 [所属] The Royal Children's Hospital, Melbourne (AU), Novo Nordisk Foundation Center for Stem Cell Medicine, University of Melbourne, Monash University
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