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 メープルシロップ尿症(Maple Syrup Urine Disease:MSUD)は、肝臓分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素(branched-chain α-ketoacid dehydrogenase:BCKDH)複合体の活性低下によって引き起こされる遺伝性代謝疾患であり、3種類の分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids :BCAA)とそれぞれのα-ケト酸の毒性蓄積を引き起こし、重度の神経毒性、昏睡、さらには死に至ることもある。
 北京と済南を拠点とする中国の研究チームが、患者由来のiPSC由来肝オルガノイド(以下、HO (Hepatic Organoids))を樹立し、その特性を解析するとともに、アデニン塩基エディター(ABE8e)を用いて、HOにおけるBCKDHB(分岐鎖ケト酸脱水素酵素E1、βポリペプチド)遺伝子の変異(T322I)を修正し、qRT-PCRおよびウェスタンブロット解析により、BCKDHA(分岐鎖ケト酸脱水素酵素E1、αポリペプチド)およびBCKDHBの発現レベルを評価した。塩基編集の効果は、バルクRNAシーケンシングおよびシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-Seq)を用いて包括的に解析した。
  • 免疫蛍光法およびRT-PCR法を用いて、HO細胞において、一連の肝芽細胞特異的タンパク質が高発現することが明らかになった。
  • 機能実験の結果、これらのHO細胞は、グリコーゲン蓄積、低密度リポタンパク質(LDL)の取り込み、インドシアニングリーン(ICG)の取り込みと放出といった肝細胞の特徴を再現し、また、HO細胞からのALBおよび尿素の定量も可能であった。 
  • qRT-PCR、ウェスタンブロット、免疫蛍光法によって、MSUD-HOにおけるBCKDHAおよびBCKDHBのレベルは、対照群と比較して劇的に低下していた(P < 0.01)。
  • ディープシーケンシングおよび全ゲノムシーケンシング(WGS)により、患者iPSC由来HOにおけるBCKDHB変異の修正において、オフターゲット効果は検出されず、高いオンターゲット遺伝子編集が達成されたことが実証された。
  • 修正されたMSUD-HOでは、BCKDH酵素機能が回復し、BCAAレベルが低下した。
  • トランスクリプトミクスから、BCKDHB変異を有するMSUD-HOは、肝ミトコンドリア機能に関連する代謝調節因子のmRNAレベルが低下しているが、修正されたMSUD-HOはABE8e修正後にこれらのプロセスを回復させたことが示された。
  • 遺伝子編集後のBCKDH機能回復効果は、scRNA-Seq解析によっても確認された。
[出典] "Adenine base editing rescues disrupted BCKDH function and reduces BCAAs toxic accumulation in maple syrup urine disease patient iPSC-hepatic organoids" Zhang H, Wan Z [..] Jin X, Ma X, Liu G. Stem Cell Res Ther. 2025-09-26. https://doi.org/10.1186/s13287-025-04630-w [所属] Children's Hospital Affiliated to Shandong University (CN), Shandong Provincial Clinical Research Center for Children's Health and Disease, National Research Institute for Family Planning, Peking Union Medical College CAMS, National Human Genetic Resources Center
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