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 近年、塩基エディターを利用して疾患の原因となる遺伝子変異を生体内で修正する治療法の可能性が広がっている [#1, 2, 3]フィラデルフィアを拠点とする研究者達を主とする研究チームはこれまでに、出生後または出生前のモデルマウスにおいて、塩基エディターを利用して2種類の疾患の責任変異を修正可能なことを実証してきた。
 1 つはフェニルケトン尿症 (PKU) のヒト化モデルマウスで再発性の PAH P281L 変異体または PAH R408W 変異体の修正であった [#4,5]PKU はフェニルアラニン水酸化酵素 (PAH) の不全によって血中フェニルアラニンのレベルが上昇する代謝異常症である。もう一つは、遺伝性チロシン血症1型(HT1)モデルマウスの例である。HT1は、フマリルアセト酢酸水酸化酵素(FAH)の欠陥に起因する毒性代謝物によって引き起こされる代謝疾患であり、上流の4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPD)酵素を阻害することで治療可能である [#6]研究チームはHT1モデルマウスにおいて、HPD 遺伝子のマウスホモログを不活性化した。
 研究チームは今回、塩基エディターによる、PKU、HT1、および、弾性線維性仮性黄色腫(PXE)の生体内遺伝子治療を目指して、ヒト肝細胞において (in cellulo)、それぞれ、再発性PAH P281LバリアントとPAH R408Wバリアントの修正、HT1の修飾遺伝子HPD の2つの部位いずれかの破壊、および、PXEに関与する肝臓で最も多く発現するATP結合カセットサブファミリーCメンバー6(ABCC6)のR1164Xバリアントを修正に最適な臨床リードガイドRNA (gRNA)を探索した。
 塩基エディターとしては、A-to-G塩基変換を実現するABEの中で、バイスタンダー編集のリスクが抑制される編集ウィンドウが最も狭いバージョンであり、臨床試験でも利用されているABE8.8-m [#7] を採用した。
 gRNAの設計にあたっては、これまでに報告されている戦略、すなわちスペーサー配列の特定の位置をDNAヌクレオチドに置換する一連のハイブリッドgRNAのオフターゲット効果を体系的に評価した。その結果、ハイブリッドgRNAは、予想外にも、編集ウインドウ内の標的以外の塩基を編集するバイスタンダー編集も低減する可能性があることが観察された。
 重要な点として、脂質ナノ粒子で最適化した塩基エディターを送達することで、PKUおよびPXEヒト化マウスモデルにおいて、リードとなるPAH P281L修正およびABCC6 R1164X修正ABE8,8-m/gRNAの組み合わせによるオフターゲット編集をin vivoで抑制するハイブリッドgRNAが、in vivoでの編集効率を損なうことなく効果を発揮し、しかも、ハイブリッドgRNAは肝臓において望ましい修正編集を有意に増強すると同時に、望ましくないバイスタンダー編集を抑制することを、発見するに至った。
 PAH R408Wバリアントの修正については、SpRYをベースとするABE8.8-mを利用してPAMの制約を緩和することで、実現し、HPD  遺伝子の不活性化においても、ABE8.8-mとハイブリッドgRNAの戦略が成功した。
[引用crisp_bio記事と論文]
  1. [20250918更新] 患者 (新生児) のゲノム配列決定から6ヶ月でカスタマイズした塩基エディターの脂質ナノ粒子製剤による希少遺伝性疾患治療例が報告された(世界初)
  2. [20250710更新] 個別化遺伝子編集医療は歴史を作ったが、それはまだ始まったばかりだ
  3. 2025-06-18 Verve Therapeutics社、単回投与降圧剤候補である生体内塩基編集剤VERVE-102の第1b相試験から良好な初期データを発表
  4. Rapid and definitive treatment of phenylketonuria in variant-humanized mice with corrective editing" Brooks DL [..] Musunuru K, Alameh MG, Wang X. Nat Commun. 2023-06-10;ABE8.8
  5. "A base editing strategy using mRNA-LNPs for in vivo correction of the most frequent phenylketonuria variant" Brooks D [..] Musunuru K, Ahrens-Nicklas RC, Alameh MG, Wang X. HGG Adv 2024-01-11. 
  6. "In utero CRISPR-mediated therapeutic editing of metabolic genes" Rossidis AC, Strategies JD, Chadwick AC, Hartman HA [..] Musunuru K, Peranteau WH. Nat Med. 2018-10-08. 6;BE3
  7.  [20200414更新] Beam Therapeutics、ABE7.10をABE8へと進化
[出典] "Improved specificity and efficiency of in vivo adenine base editing therapies with hybrid guide RNAs" Whittaker MN, Testa LC [..] Musunuru K, Alameh MG, Peranteau WH, Wang X. Nat Biomed Eng. 2025-10-26. https://doi.org/10.1038/s41551-025-01545-y [所属] Perelman School of Medicine/UPenn, University of Philadelphia, Children’s Hospital of Philadelphia, George Mason University, Agilent Technologies Inc., Thomas Jefferson University
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