(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/03/01

  • Bart De Strooper (VIB-Leuven)とEric Karran (Alzheimer Research UK)の手になる詳細なレビュー.
  • アミロイド仮説(amyloid cascade hypothesis)の上に、アルツハイマー病(AD)に関する分子生物学、病態生理学、ならびに、臨床研究から膨大な知見が蓄積され、ADの予防と治療への期待が高まってきているが、その一方で、知見が蓄積されたが故に、AD研究発展のカタパルトであったアミロイド仮説が揺らいでいる.
  • アミロイド仮説のAβから認知症までの直線的なカスケードを探る研究から、Aβと神経毒性を直接結びつける分子機構と受容体が少なくとも10種類提案されている[レビュー図1 Aβ Receptors and Aβ Toxicity Mechanisms 参照].しかし、これらのデータの多くが、非生理学的に高濃度のAβや、APPを極めて過剰に発現しているトランスジェニックマウスでの実験に由来するため、ヒトにおいて、その10種類がADの発症にどのようにどの程度関わっているか判断することが困難である.
  • 一方で見方を変えると、このように多数の分子機構・受容体が見出されてきたことは、異なる機構あるいは同一の機構でさえも、AD発症過程の各フェーズで異なる働きをしているとも言える.
  • 著者らは、AD発症過程を、生化学的変化が起こるフェーズ(以下、生化学的フェーズ)、細胞に変化が起こるフェーズ(以下、細胞フェーズ)、および、臨床的症状が現れるフェーズ(以下、臨床フェーズ)の3つのフェーズ[レビュー図2 The Biochemical, Cellular, and Clinical Phases of AD 参照] の階層で捉えている.
  • 今回のレビューは細胞フェーズに注目し、AD発症過程の中で長期にわたる細胞フェーズが、アストロサイト、ミクログリア、および、脳血管のフィードバック反応とフォードフォーワード反応がからみあう複雑なフェーズであることを示す研究成果を集約.すなわち、神経細胞単体からではなく、神経細胞の周囲の細胞・組織も含むneurovascular unit(NVU)とglioneuronal unitから細胞フェーズを見た.
  • 細胞フェーズにおいて、代償的フィードバック機構が機能する初期段階が不可逆的な神経変性へと移行する決定的な局面を、単一細胞解析によって明らかにしていく方向性を提言.
  • [レビューの構成] アミロイド仮説;ADの生化学的フェーズにおけるタンパク質形成異常と細胞の恒常性維持機能;細胞フェーズの初期にAβ(およびタウ)の除去が不全になる機構;NVUと血管仮説(Aβは血管病変の原因であり結果である);細胞フェーズにおける神経細胞と神経回路の変化;アストロサイトが細胞フェーズの主役(ヒトの益にも害にもなる)[レビュー図3 Molecular and Cellular Links btween Astroglia and AD ] ;細胞フェーズにおけるアストロサイトの活性化・変性・萎縮;ミクログリアと炎症(AD抑制か亢進か);細胞フェーズにおけるオリゴデンドロサイトの役割;システム生物学でADにおける細胞応答を解明する;細胞レベルの分解能(例 アストロサイトとミクログリア)と時間分解能を有する解析が必要;将来展望:単一細胞解析と細胞ネットワーク解析