[注] 改変型tRNAは、病原性ナンセンス変異の原因である未成熟コドンをリードスルーしネイティブの終止コドンはリードスルーしないように改変されており、スプレッサーtRNA(sup-tRNA)と称されている (本記事末尾の[*]の項]を参照);LNPは脂質ナノ粒子の略称
塩基編集(BE)やプライム編集(PE)といった精密ゲノム編集技術は、ほとんどの病原性遺伝子変異を精密に修正できるが、変異に対して新たな治療薬を開発する必要があるため、開発から承認を得るまで、膨大な時間をコストを要することから、広範な臨床応用が阻害されている。
未熟終止コドン(premature termination codon: PTC)によって引き起こされる疾患に対しては、サプレッサーtRNA(sup-tRNA)[*] がより汎用的な戦略となる。しかしながら、sup-tRNAを治療に用いる既存のアプローチは、生涯にわたる投与を必要とするか、効力が限られているため、潜在的に毒性のある過剰発現が必要となる。
BEとPEを発明したDavid R. Liu博士が率いる研究チームは今回、プライム編集を用いて不要な内因性tRNAを最適化されたsup-tRNAへと恒久的に変換することで、疾患非依存的にナンセンス変異を救済する戦略である、PEを介した未熟終止コドンのリードスルー(Prime Editing-mediated Readthrough of premature Termination codons:PERT)を実装した。
418種類全てのヒトtRNAの数千の変異体を反復スクリーニングした結果、sup-tRNAとしての役割が最も強いtRNAが同定された。プライム編集因子を最適化し、改変したsup-tRNAを過剰発現なく単一のゲノム座位に導入することで、バッテン病、テイ・サックス病、ニーマン・ピック病C1型、および嚢胞性線維症のヒト細胞モデルにおいて、未成熟終止コドンの効率的なリードスルーとタンパク質の救済が観察された。
内因性マウスtRNAをsup-tRNAに変換する単一のPEをin vivoで送達することで、リソソーム蓄積症であるハーラー症候群(ムコ多糖症I型)モデルにおいて疾患病態が広範囲に救済された。
PERTは、検出された天然終止コドンのリードスルーを誘導せず、また、顕著なトランスクリプトミクスやプロテオームの変化も引き起こさなかった。
こうして、PERTでは、単一の製剤で1回限りの治療が可能となり、多様な遺伝性疾患を持つ多くの異なる患者コホートにメリットをもたらす可能性がある。例えば、嚢胞性線維症の患者約 8,000 人、シュタルガルト病 の患者 252,000 人、フェニルケトン尿症の患者 31,000 人、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者 43,500 人はそれぞれ CFTR、ABCA4、PAH、DMD にナンセンス変異を有しており、原理的には、さらなる最適化を行った後、一般的な PERT製剤で治療できる可能性がある。
[出典]
- 論文 "Prime editing-installed suppressor tRNAs for disease-agnostic genome editing" Pierce SE, Erwood S [..] Liu DR. Nature. 2025-11-19. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09732-2
- ニュース "Single prime editing system could potentially treat multiple genetic diseases" Zusi-Tran K. Broad Institute. 2025-11-19. https://www.broadinstitute.org/news/single-prime-editing-system-could-potentially-treat-multiple-genetic-diseases
[*] sup-tRNAとは
[出典] “Engineered tRNAs suppress nonsense mutations in cells and in vivo” Albers S [..] Sorscher EJ, Chivukula P, Ignatova Z. Nature 2023-05-31. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06133-1[所属機関] University of Hamburg (ドイツ), Arcturus Therapeutics (米国), Emory University, Children’s Healthcare of Atlanta, University of Alabama at Birmingham, Massachusetts General Hospital, Harvard-MIT Health Sciences and Technology.
遺伝性疾患につながるナンセンス変異は、tRNAによって解読されるセンスコドンを未熟終結コドン(PTC)に変換し、しかるべきタンパク質への翻訳を突然終結させる。このナンセンス変異を抑制する(supress)アプローチとして、「改変されたアンチコドンを持つ天然tRNAを用いて、新たに出現したPTCと塩基対を形成させて、翻訳を促進する(PTCをリードスルーさせる)」ことが考えられる。しかし、tRNAを用いた遺伝子治療は、臨床効果と安全性の最適な組み合わせが得られておらず、現在、ナンセンス変異を持つ患者に対する治療法は存在しない。
ドイツと米国の研究チームは今回、天然tRNAの配列を、それらが運ぶアミノ酸の物理化学的性質に合わせて個別に微調整することにより、
効率的な抑制tRNA(sup-tRNA)に改変するアプローチを設計・実装した [Fig. 1引用右図参照]。
効率的な抑制tRNA(sup-tRNA)に改変するアプローチを設計・実装した [Fig. 1引用右図参照]。- マウスにsup-tRNAを静脈内および気管内に脂質ナノ粒子(LNP)製剤として投与することで、ナンセンス変異を有する機能性タンパク質の産生が回復することが確認された。
- リボソームプロファイリングにより、LNP-sup-tRNA製剤は、内因性のネイティブ終止コドンにおいて識別可能なリードスルーを起こさなかったことが確認された。
- 嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御遺伝子(CFTR)における臨床的に重要なPTCにおいて、sup-tRNAは細胞系および患者由来の鼻腔上皮における発現と機能を回復させ、気道容積の恒常性を回復させた。
これらの結果は、sup-tRNAが、高い分子安全性プロファイルと標的PTC抑制における高い有効性を備えたtRNAベースの治療法足り得ることを示している。
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