出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、様々な重要な細胞プロセスを研究するための優れたモデル生物である。その特定の単一または複数の遺伝子座を標的とするノックインやノックアウトにはこれまで、遺伝子に特異的な相同性を持つ栄養選択や薬剤耐性の選択マーカーカセットを相同組換えによってゲノムに組み込みPCRを利用するアプローチが採られてきた。これらの方法は簡便で費用対効果が高いものの、複数の編集が必要な場合、マーカーの種類が限られていることが、制約になっていた。近年は、CRISPR-Cas9技術により、選択マーカーを必要としない酵母ゲノム編集が可能になったが、必要な編集ごとに固有のガイドRNAとドナーテンプレートを設計およびテストするための追加の試薬と長いプロトコルが課題となっている。
University of North Carolina at Charlotteの研究チームは今回、PCR)に基づく選択マーカーを用いた従来の遺伝子操作技術と、その後CRISPR-Cas9を用いた除去技術を組み合わせることで、マーカーフリーで酵母ゲノムを編集するための極めて効率的で経済的な方法を開発した [Figure 1引用右下図参照]。
(a) Longtine et al. [Yeast 1998]の従来の手法を用いて改変された遺伝子には、選択マーカーの上流および下流にF1配列とR1配列が残存している。CRISPRプラスミドpJG01またはpJG02とF1-R1ドナー修復テンプレートを用いた形質転換により、選択マーカーが除去される。これらの手順を順次繰り返すことで(同一の選択マーカーを再利用可能になり)、多重なマーカーを用意することなく多重な遺伝子編集を行うことができる。(b) pJG02のガイドRNA(gRNA)は、すべてのpFA6a-MX6カセットに存在するAshbya gossypii???プロモーター領域を標的とするため、マーカーの多重除去が可能となる。 pJG02とF1-R1ドナー修復テンプレートを、MX6ベースの複数の遺伝子欠失を有する酵母株に形質転換すると、全てのMX6マーカーが同時に除去される。
(c) BY4741/2欠失コレクションは、MX6選択マーカ(KanMX6)の上流と下流にU2およびD2配列を残存している。CRISPRプラスミド(pJG02)とU2-D2ドナー修復テンプレートを用いた形質転換により、選択マーカーが除去される。
このアプローチにより、設計の労力が大幅に削減され、複雑な複数遺伝子変異体の構築を効率化し、酵母ゲノム工学における選択マーカーの利用の柔軟性を高めた。実証実験では、多くの生化学研究や膜輸送研究の前に通常不活性化されるPRC1???、PEP4、およびPRB1???液胞プロテアーゼのマーカーフリーでの除去が実現し、これらの新しいツールの有効性が示された。
[出典]
- "Marker-free genomic editing in Saccharomyces cerevisiae using universal donor templates and multiplexing CRISPR-CAS9" Grissom JH, Moody SE, Chi RJ. Yeast 2024-08-23/Sep. https://doi.org/10.1002/yea.3977 [所属] University of North Carolina at Charlotte
"Protocol for marker-free genome editing in Saccharomyces cerevisiae using universal donor templates and multiplexed CRISPR-Cas9" Hemani D, Grissom JH, Chi RJ. STAR Protoc. 2025-12-23/12-26. https://doi.org/10.1016/j.xpro.2025.104280 [所属] University of North Carolina at Charlotte [右図はGraphucal abstractから引用]
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