複雑な微生物表現型は、多様な遺伝子制御ネットワークの複合的な活性によって生じる。したがって、病原微生物の薬剤耐性の克服や産業微生物の性能向上を目的とするゲノム編集では、多重な遺伝子や遺伝子間ネットワークを標的とする必要があった。近年、CRISPR-Cas GEの登場によって、そうした操作が可能になってきた。
カナダのゲルフ大学の研究チームは今回、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)において、シンプルなマルチプレックスcrRNAアレイを構築することで、複数の遺伝子を標的として誘導的に過剰発現または抑制するための、CRISPR-dCas12aシステムを開発した。研究チームは、これはC. albicansにおいて複数の標的遺伝子を同時に過剰発現または抑制することを可能にする初のシステムとしている [グラフィカルアブストラクト引用右下図参照]。
HyperCas12a [*1] の標的核酸配列切断活性を失活させたHyperdCas12aをベースとするCRISPRaシステムにおいて、標的遺伝子のプロモーターを複数のガイドRNA(crRNA)でタイリングすることで、一貫して従来よりも最大300倍近くまで高い過剰発現レベルを達成した。さらに、CRISPRアレイにおいて標的crRNAの上流に非標的crRNAを挿入することが、オンターゲット活性のレベルを調整するための効果的な戦略であることも発見した。- 同様に、HyperdCas12aをベースとしたCRISPRiシステムを介して、従来のツールでは達成できなかった遺伝子抑制レベルを実現した。
- さらに、Tet-Offシステムを用いることで活性化と抑制の両方を可逆的にダウンレギュレーションまたは完全にサイレンシングできることも実証した。
- こうした新たなプラットフォームを利用して、薬物排出経路とエルゴステロール生合成経路における遺伝子の組み合わせを変化させることで、薬剤耐性回路における重要な冗長性と相乗効果を明らかにした [*2]。
こうして新たな遺伝子操作プラットフォームは、C. albicansにおける多様な表現型に関与する遺伝子相互作用のメカニズムを解明することを可能にするコンビナトリアル変異体を迅速に作製するための効率的なシステムであることが実証されたが、C. albicansに限らず他の微生物にも展開可能である。
[*] 補足
1. HyperCas12a関連crisp_bio記事
1. HyperCas12a関連crisp_bio記事
- 2022-04-18 効率の良い生体内多重遺伝子制御 (CRISPRa/i)を実現するハイパーCas12aを導出
- 2022-06-09/08-08 dCas12a版ABE8eをベースとするスケーラブルな生体シグナル記録システム
- 2024-07-16 高効率なCas12a改変体を利用することで, 高い多重度のエピゲノム編集スクリーンを実現
C. albicans の抗真菌薬耐性表現型を媒介する遺伝子相互作用を解析し、まず、アゾール系抗真菌薬耐性に関連する多剤トランスポーターをコードする CDR1 (Candida drug resistance 1)、CDR2、およびMDR1 をCRISPRaで過剰発現させた。また、アゾール系抗真菌薬の標的であるエルゴステロールの生合成に関与するERG6 とERG251 をCRISPRiで抑制した。
これらの遺伝子の組み合わせを調節した場合の表現型の結果を決定するために、CRISPRa排出ポンプ株の、アゾール系抗真菌薬の一種であるフルコナゾールに対する耐性と寛容のレベルを評価した。
その結果、CDR1 の過剰発現にCDR2単独またはCDR2 とMDR1 の双方と組み合わせで達成されたIC50(「耐性」)およびMIC80を超える増殖(「寛容」)は、CDR1単独の過剰発現よりも高くないことが、観察された。また、個々のCRISPRa株とCDR1 + CDR2 + MDR1複合CRISPRa株のIC50の期待値と実測値の差は有意であった。これは、C. albicans におけるフルコナゾール薬剤排出ネットワークに機能的な冗長性が存在する可能性、そして薬剤排出の増強のみによって細胞がフルコナゾールに対する感受性を低下させるには限界がある可能性を示唆した。
その結果、CDR1 の過剰発現にCDR2単独またはCDR2 とMDR1 の双方と組み合わせで達成されたIC50(「耐性」)およびMIC80を超える増殖(「寛容」)は、CDR1単独の過剰発現よりも高くないことが、観察された。また、個々のCRISPRa株とCDR1 + CDR2 + MDR1複合CRISPRa株のIC50の期待値と実測値の差は有意であった。これは、C. albicans におけるフルコナゾール薬剤排出ネットワークに機能的な冗長性が存在する可能性、そして薬剤排出の増強のみによって細胞がフルコナゾールに対する感受性を低下させるには限界がある可能性を示唆した。
[出典] "HyperdCas12a-based multiplexed genetic regulation in Candida albicans" Gervais NC , Rogers RKJ , Robin MR , Shapiro RS. Nucleic Acids Res. 2025-12-22. https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1402 [所属] University of Guelph (カナダ)
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