CRISPR–Cas適応免疫システムは、外来DNAまたはRNAを標的とする配列特異的なメカニズムを提供し、ゲノム編集やDNA/RNA検出において広く利用されている。その中で、タイプV CRISPR–Casシステムは ["タイプV関連crisp_bio記事"の項参照]、RNA誘導性RuvCドメインを含む単一のエフェクター、Cas12を特徴としている。
中国農業大学の研究チームは、微生物由来の大規模ゲノムおよびメタゲノムデータの包括的マイニングから ["補足"の項参照]、867~936アミノ酸 (aa) からなる3つのメンバーからなる、クラス2 CRISPR–Casエフェクタースーパーファミリー(Casδ)を発見した:Casδ-1 (882 aa); Casδ-2 (935 aa); Casδ-3 (1,003 aa)
生化学分析から、3つのメンバーの中でCasδ-1が、5′-RYR-3′プロトスペーサー隣接モチーフ(R=A/G; Y=T/CT)を特異的に認識する単一のRNA誘導性エンドヌクレアーゼとして機能することが明らかになった [Figure 1引用右図参照]。- Casδ-1は、Cas12aと同様に、強力な二本鎖DNA切断活性と標的存在下で活性化するトランス切断活性(コラテラル活性)を示した。
- Casδ-1は種を超えて効率的なゲノム編集を実現した。ヒト細胞で最大60%の挿入欠失率を達成し、2つの農業的に重要な単子葉植物(Oryza sativaとZea mays)のホモ接合性ノックアウト系統を樹立した。
- AlphaFold3による構造予測からCasδ-1は、C末端に明確なループ構造を有していることが見えてきた。
この構造はCas12nとCas12ファミリーの祖先とされているトランスポゾンTnpBでも保存されているが、他の既知のCas12サブタイプには見られない [Figure 5引用右図 E 参照]。一方で、Casδ-1のC末端ループを除去するとその切断活性が有意に低下したが、AcCas12nの対応する領域を切断してもその切断活性に有意な低下は見られなかった。
Cas12ファミリーの配列多様性と進化的関係を調査するために、メンバーのアミノ酸配列をEvolutionary Scale Modeling 1b(ESM-1b)深層学習モデルに入力し、高次元の特徴表現を取得し、t-SNEを用いて2次元に投影した。この可視化により、
祖先ヌクレアーゼ(TnpB、Cas14(別名Cas12f)、およびCas12m/n)に始まり、中間体(Casδ、Cas12j、およびCas12h)を経て、成熟エフェクター(Cas12a、Cas12b、およびCas12c)の多様化に至る一貫した進化の軌跡が見えてきた [Supplementary Figure 6引用右図参照]。
祖先ヌクレアーゼ(TnpB、Cas14(別名Cas12f)、およびCas12m/n)に始まり、中間体(Casδ、Cas12j、およびCas12h)を経て、成熟エフェクター(Cas12a、Cas12b、およびCas12c)の多様化に至る一貫した進化の軌跡が見えてきた [Supplementary Figure 6引用右図参照]。[補足] Casδの同定プロセス
- Joint Genome Institute (JGI) データベース [NAR, 2019]から、微生物のメタゲノムアセンブリ 4341 件を収集した。
- CRISPR アレイを、Piler-CR (v1.06) [BMC Bioinformatics, 2007-1] および CRT [BMC Bioiformatics, 2007-2にて同定した。
- CRISPR アレイから 10 kb 以内の配列に、Prodigal (v2.6.1) [BMC Bioinformatics 2010] を適用して、CRISPRアレイの近傍のタンパク質を同定した。
- 機能的ポテンシャルの低いものを除外するため、200 アミノ酸未満のタンパク質を除外。
- その上で、HMMER (v3.3.1) [NAR 2018] を介してPfam [NAR 2021] データベースを参照することで、CRISPR 関連タンパク質(CRISPR associated)タンパク質を同定し、RuvC ドメインを含む候補 Cas12 タンパク質を識別した。MAFFT (v7.526) [Mol Biol Evol 2013] を使用して、一連のタイプ V CRISPR-Cas エフェクターとのアラインメントを行なった。
[タイプV関連crisp_bio記事]
[注] crisp_bioを"タイプV"で検索してヒットした180件余りから抜粋
- 2018-10-19 メタゲノムからssDNAをトランス切断するCas14ファミリーを発見しDETECTRへ展開.
- 2022-11-12 イネにおけるCRISPR-Cas12bゲノム編集システムのオンターゲットおよびオフターゲット解析 : Cas12bは旧名C2c1
- 2024-12-04/12-30 [総説] CRISPR-Cas12とトランスポゾン関連ホモログの生物学と応用.
- 2025-03-29 [CRISPR101] CRISPRシステムのタイプ.
- 2025-04-14 タイプ V CRISPRシステムの新たな12のサブタイプとバリアントの初期特性評価.
- 2025-07-08 コンパクトなタイプV CRISPR-Cas12nエフェクター酵素の機構とエンジニアリング
- 2025-10-04 タイプV CRISPRシステムの起源となる機能的なRNA分離メカニズムを解明.
- 2025-11-11 希少なバリアントも含むCRISPR-Casシステム進化分類体系最新版 (33ページ).
[出典] "Casδ, an evolutionary transitional CRISPR system enables efficient genome editing across animals and plants" Yang Z, Yu M, Li P, Li Z [..] Chen J, Xin B, Lai J. Nucleic Acids Res. 2025-12-11. https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1358 [所属] China Agricultural University (State Key Laboratory of Maize Bio-breeding, Key Laboratory of Genome Editing Research and Application, ...)
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