CRSIPR/Cas9 GEによるヒト疾患の治癒への期待が高まっている。世界初のCRISPR/Cas9遺伝子治療法であるCasgevyは、体外で編集された造血幹細胞の自家移植を介して、異常ヘモグロビン症の治療法として承認された。しかしながら、固形組織の体外ゲノム編集は、動物実験では十分に予測できなかった臓器不全や死亡という問題を抱えている。ゲノム編集のような個別化治療法のための信頼性の高い前臨床ツールの欠如は、依然として重大な未充足ニーズ (unmet needs)である。
ゲノム編集の前臨床安全性試験は、ヒトゲノムを有し、ヒトの反応を再現する複雑な組織モデルから恩恵を受ける可能性がある。腎臓は治験薬による毒性反応に感受性が高いため、ヒト幹細胞由来の腎臓オルガノイドを用いた研究は、臨床試験に有益な情報を提供し、患者の転帰を改善する可能性がある。Harvard Medical SchoolのRyuji Morizan准教授が率いる研究チームは今回、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関与するDMD遺伝子変異を標的とするアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いたCRISPR/SaCas9 GEの前臨床試験プラットフォームとしての腎臓オルガノイドを検証した。
AAVは、組織指向性を示す多様な血清型、最小限の病原性、そして長期的な遺伝子発現能力により、遺伝子治療における主要な送達システムとなってきた。既存の AAV 中和抗体の血清学的有病率が一貫して高いにもかかわらず、さまざまな血清型に対して、また多様な民族的背景にわたって、多数の AAV 血清型が FDA 承認の遺伝子治療に利用されてた。しかし、2022年に発表された255件のAAVベースの遺伝子治療試験のレビュー によれば、使用されたAAV血清型や投与経路に関係なく、11人の患者が死亡したとされている [#]。
CRISPR-AAVと空ベクターAAVの送達結果を、免疫染色、T7EIアッセイ、STARmap (spatially-resolved transcript amplicon readout mapping) [Wang et al., Science 2018]などで比較解析した結果、ゲノム編集とは独立にAAV自体が引き起こす事象が明らかになった。
すなわち、細胞内でDNAを放出するAAVの脱殻から核ストレス、遺伝毒性、そして尿細管損傷のバイオマーカーでありNF-κBカスケードの活性化因子であるIL-1βおよびIL-6もオルガノイド上清中で検出され、AAVの導入が腎毒性反応の主な誘因であることが示された。 また、NF-κBシグナル伝達の中核を担うIKKキナーゼ複合体の強力な阻害剤(IKKi)を。AAV導入中に同時投与することで、尿細管損傷が抑制されることも明らかになった。別の臓器を標的とする場合でも、IKKiはオフターゲットの腎臓向性によりAAVの腎毒性を防ぐ可能性がある。
さらに、尿細管症は主に600を超える単一遺伝子性腎疾患で構成されており、小児の慢性腎臓病の50%、成人の非糖尿病性慢性腎臓病の30%を占めているため、腎臓オルガノイドは、遺伝子治療ツールの安全性試験以外にも、オンターゲット有効性試験に最適な前臨床プラットフォームである可能性がある。
[#] "rAAV immunogenicity, toxicity, and durability in 255 clinical trials: a meta-analysis" Shen W, Liu S, Ou L. Front Immunol. 2022-10-27. https://doi.org/10.3389/fimmu.2022.1001263 [所属] Obio Technologies (中国), Avirmax Inc (米国), Genemagic Biosciences, University of Minnesota
[出典] "AAV for gene therapy drives a nephrotoxic response via NFκB in kidney organoids" Gupta N [..] Morizane R. Sig Transduct Target Ther. 2025-08-08. https://doi.org/10.1038/s41392-025-02336-2 [所属] Harvard Medical School (Nephrology Division/Mass General Brigham; Massachusetts General Hospital)
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