crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

エピトランスクリプトームとm6A
 エピトランスクリプトームの修飾(RNAの修飾)は、遺伝子発現を調節し、多様な生理学的プロセスに不可欠である。最も一般的なmRNA内部の修飾である N6-メチルアデノシン (m6A) は、複数のタンパク質で構成されるメチルトランスフェラーゼ複合体(ライター)によって付加され(マークされ)、脱メチル化酵素(イレーサー)によって除去され、まざまなm6A結合タンパク質(リーダー)をリクルートすることで、mRNAに作用する。
 m6A は mRNA に加えて特定のノンコーディング RNA (ncRNA) 上にも存在し、他のエピジェネティック・マークとのクロストークや ncRNA の調節を介して転写制御にもう一つの層を追加する。
 近年、エピトランスクリプトームを研究するエピトランスクリプトミクスの分野は大きく進展してきたが、転写レベルと転写後レベルの双方で緻密に調整されているm6A の部位特異的機能については、完全には解明されていない。
癌とm6A
 癌において、m6Aを制御するコアとなる因子は複雑で、時に矛盾する役割を担っている。最近の研究では、m6A修飾パターンを乱す可能性のある同義変異とミスセンス変異が腫瘍形成に影響を与えることが同定され [Lan et al., Cell 2025]、部位特異的制御の機能的および治療的可能性が強調されている。
 一方で、一塩基分解能のm6A検出技術の進歩にもかかわらず、トランスクリプトーム・ワイドでのm6A部位の包括的な機能アノテーションは依然として困難である。
CRISPR-dCasを介したエピトランスクリプトーム解析
 北京大学-清華大学生命科学研究センターに籍を置く研究者達を主とする研究チームは今回、不活性化したCas13b(dCas13b)にイレーサの一種であるFTO(Fat Mass and Obesity-Associated)を組み合わせた人工因子を介したスクリーニングにより機能的m6A 部位を検出するアッセイ法を開発し、FOCAS(functional m6A sites detection by CRISPR-dCas13b-FTO screening)として発表した [グラフィカルアブストラクト参照]
 FOCASはゲノムに干渉することなく、正確にm6Aを脱メチル化し、mRNAとncRNAの双方におけるm6Aの機能を同時に解析することを可能にした。
  • FOCASを4つのヒト癌細胞株(SMMC-7721, HepG2, HCT116, および HeLa)に適用した結果、4,475個のm6A修飾遺伝子が同定されたが、そのほとんどは、これまで認識されていなかった癌関連遺伝子であった。
  • FOCASは、個々の遺伝子におけるm6Aのコンテクストとリーダーに依存する作用を明らかにし、同一の遺伝子内の異なるm6A部位が、相補的または相反する細胞機能を発揮するなど、制御の複雑さを浮き彫りにした。また、m6Aによる細胞生存制御は、癌全般に普遍的であると同時に組織特異性も示すことが明らかになった。
  • さらに、m6Aによって調節される転写制御ネットワークも明らかにされ、SMMC-7721細胞では、広範なエピトランスクリプトームとトランスクリプトームの間のクロストークも明らかになった。
 総じて、FOCASはm6Aの機能解析のための強力かつ偏りのない枠組みを提供し、その動的な制御ロジックと治療の可能性を示した。
[出典] "FOCAS: Transcriptome-wide screening of individual m6A sites functionally dissects epitranscriptomic control of gene expression in cancer" Zhang X (张薪泞), Zhang Y (张艺凡) , Liu X (刘欣宇) [..] Liu J (刘君). Cell 2025-12-31. https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.11.037 [所属] Peking-Tsinghua Center for Life Sciences (中国), Beijing Advanced Center of RNA Biology (BEACON), Changping Laboratory, Tongji University, Sycamore Research Institute of Life Sciences, Dept Genetics/Stanford University School of Medicine (米国)
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット