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 ゲノム変異が癌の発生、進行、そして維持をドライブする。癌のゲノム基盤の理解は、癌の生物学的側面への知見をもたらすだけでなく、標的治療法の開発も促進する。癌のドライバー変異は、点変異から大規模な染色体再編成まで多岐にわたり、ゲノムのコード領域と非コード領域の双方にわたる。点変異は、様々な癌種においてドライバー変異の重要な要素であることが明らかになっている。大規模ゲノム研究では、個々の腫瘍には通常約2~8個のドライバー変異が認められ、その大部分は点変異であることが示されている。コーディング領域の点変異のうち、約25%~30%はアミノ酸配列を変化させない同義変異であり、これらの変異が癌形成にどのように寄与するかについて探究されている。
 近年、エピトランスクリプトーム修飾、特にRNA N6-メチルアデノシン(m6A)が癌の発生と進行に極めて重要な役割を果たしていることを示唆する報告が続いている。m6Aの動的な変化は、RNAの安定性、スプライシング、翻訳、および転座に影響を及ぼし、ライター (writer)、イレイサー (eraser)、リーダー (reader)(WER)と呼ばれる一連のタンパク質によって制御されている。
 m6A WERの調節不全は、さまざまな癌種で報告されている。例えば、急性骨髄性白血病(AML)では、ライターのメチルトランスフェラーゼ様3(METTL3)が異常に過剰発現しており、MYC、BCL2、PTEN、Sp1転写因子、Sp2転写因子などのmRNAの翻訳をm6A依存的に亢進することで白血病の進行を促進する。METTL3を標的とする選択的低分子触媒阻害剤であるSTM2457 [Yankova et al., Nature 2021] は、in vitroで白血病細胞を根絶し、前臨床モデルでAMLの進行を遅らせる効果があることが実証されている。同様に、m6AリーダーであるYTH N6-メチルアデノシンRNA結合タンパク質F2(YTHDF2)の高発現は、神経膠芽腫細胞の増殖、浸潤、腫瘍形成を促進し、予後不良と関連している。
 神経膠腫患者においては、m6A機構の調節異常が腫瘍形成に及ぼす影響は明確に示されている。一方、体細胞変異が、例えば修飾部位を変化させるなどして、m6A依存性mRNAプロセシングの調節異常に寄与するかどうかは、未だ解明されていない。
 西湖大学や浙江大学医学院などに籍を置く中国の研究者達は、m6A修飾のパターンを乱す可能性のある癌ゲノム中の変異を12,849個同定し [論文Figure 1 A/B 参照]、”m6A disruption mutations (m6A-DM)”と命名した。これらは同義変異m6A-DM(sm6A-DM)またはミスセンス変異m6A-DM(mm6A-DM)のいずれかであり、前者は CDKN2A や BRCA2 などの癌抑制遺伝子に多く見られた。
 研究チームは、先行研究 [*] で開発していたdCasRxをベースとするm6Aエディター(dCasRx-METTL3; dCasRx-ALKBH5) を用いて、特定のsm6A-DM部位におけるm6Aレベルの操作がmRNAの安定性に影響を与えることを実証した [グラフィカルアブストラクト参照]。さらに、CDKN2A sm6A-DMを癌細胞に導入すると腫瘍の増殖が促進され、BRCA2 sm6A-DMは腫瘍のポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害剤(PARPi)に対する感受性を高めた。
 総じて、sm6A-DM が潜在的な発癌ドライバーであることが示され、同義変異が腫瘍形成に寄与するメカニズムが明らかにされ、癌におけるドライバー変異に関する理解が深められるに至った。
 2026-01-04 12.42.11[*] Epitranscriptomic editing of the RNA N6-methyladenosine modification by dCasRx conjugated methyltransferase and demethylase” Xia Z [..] Xie Q. Nucleic Acids Res. 2021-06-28 [右図はFigure. 1から引用]
[エピトランスクリプトーム関連crisp_bio記事]
[出典] "Synonymous mutations promote tumorigenesis by disrupting m6A-dependent mRNA metabolism" Lan Y, Xia Z, Shao Q [..] Chen D, Dou Y, Xie Q. Cell 2025-04-03. https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.01.026 [所属] Westlake Laboratory of Life Sciences and Biomedicine, Westlake University, Zhejiang University School of Medicine, Fudan University

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