原核生物とファージ、プラスミド、トランスポゾンなどの可動性遺伝要素(MGE)は、進化的軍拡競争(evolutionary arms race)を続けてきた。近年では、細菌とアーケアが帯びているCRISPRーCasシステムの発見に続いて、ファージが帯びているanti-CRISPRタンパク質 (Acrs)が発見され、両者の関係が精力的に研究されている。その中で最近、ノンコーディングRNAを介したanti-CRISPRシステム"RNA anti-CRISPR (Racr)"が発見され注目を集め始めた [#1, 2]。
Racrは、CRISPRアレイに見られる反復配列を模倣することで、タイプI-F CRISPR-Casシステムを阻害するシステムとして発見された [#1]。中国医学科学院北京協和医学院病原微生物学研究所を主とする中国の研究チームは今回、Pectobacterium atrosepticum 由来のタイプI-F crRNA誘導監視複合体(Csy複合体)と、Racrの一種であるRacrIF1 [#1] 誘導性の異常なサブ複合体3つのクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)構造を決定し、
さらに、Cas7fタンパク質が非特異的な核酸に結合し、異なるCas7コピーからなる右巻きの超らせんフィラメントを形成することを見出した。機構的には、RacrIF1は標準的なCRISPR複合体の5'ハンドルの対応する位置に見られる特異的なSコンフォメーションを欠き、代わりに周期的な「5 + 1」パターンを採る。このコンフォメーションはCas5f-Cas8fヘテロダイマーに深刻な立体障害をもたらし、それらの結合を阻害する。さらに、Cas7fは核酸に非特異的に結合し、Racrs分子に沿って無限の超らせんフィラメントを形成する可能性がある。このオリゴマー化によりCas6fとCas7fの結合が遮断され、機能的なCRISPR-Casエフェクター複合体の形成が阻害され、最終的には抗ウイルス免疫が阻害される。
総じて今回、Racrsを介したCRISPR -Casシステム阻害の構造基盤が明らかにされた。
[構造情報] EMDBとPDBから公開待ち
[#] 引用crisp_bio記事と論文
- 2023-10-29 ;"Bacteriophages suppress CRISPR–Cas immunity using RNA-based anti-CRISPRs" Camara-Wilpert S, Mayo-Muñoz D, Russel J, Fagerlund RD, Madsen JS, Fineran PC, Sørensen SJ, Pinilla-Redondo R. Nature 2023-10-18. ;ファージ・ゲノムには、SRU (solitary repeat unit) と呼ばれるCRISPRアレイに似た配列が見られることがある。不思議なことに、ファージに見られるほとんどのCRISPRアレイとは異なり、これらのSRUは一般的にCasタンパク質をコードする遺伝子を伴っていない。Camara-Wilpertらは、これらのSRUの役割を探り、それらが抗CRISPR機能を持つという仮説を検証した。
- 2025-04-27 CRISPR-Cas13を, そのcrRNAの構造を模倣することで阻害する,ノンコーディングRNAを発見 ;"RNA-mediated CRISPR-Cas13 inhibition through crRNA structural mimicry" Hayes VM, Zhang J-T [..] Jia N, Meek AJ. Science. 2025-04-24.
[出典] "RNA anti-CRISPRs deplete Cas proteins to inhibit the CRISPR-Cas system" Gao X, Zhu K, Zhang W, Wang L [..] Yu X, Zhu H, Cui S. Mol Cell. 2025-12-30. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2025.12.005 [所属] National Institute of Pathogen Biology/中国医学科学院北京協和医学院 (中国), Institute of Physics CAS, National Clinical Laboratory on Tuberculosis/Capital Medical University, U CAS, Yanan medical college of Yanan university;グラフィカルアブストラクト
[参考] タイプI-F CRISPR-Casに対する抗CRISPRタンパク質 (Acrs) に関連するcrisp_bio記事
- 2017-10-08 CRISPRサーベイランス複合体CsyのdsDNA結合と抗-CRISPRタンパク質による結合阻害の構造基盤
- 2020-03-21 AcrF9, AcrF8, およびAcrF6がタイプI-F CRISPR-Casシステムを阻害する構造基盤明らかに
- 2020-06-07 タイプI-F CRISPRシステムをanti-CRISPRタンパク質IF9 (AcrIF9)が阻害する構造基盤
- 2020-10-14 タイプI-F CRISPR-Casシステムをファージ由来のAcrIF11が阻害する構造基盤
- 2021-09-05 タイプI-F CRISPR-Casシステム (Csy複合体)を阻害するAcrIF14の一人二役.
- 2021-10-09 [レビュー] 抗CRISPRタンパク質 (Acrs)によるタイプI-F CRISPR-Casシステムの不活性化の構造基盤
- 2022-04-08 Anti-CRISPRdb v2.2: 抗CRISPRタンパク質データベースAnti-CRISPRdb拡充.
- 2022-04-23 抗CRISPRタンパク質AcrIF24がタイプI-F CRISPRシステム (Csy複合体)を不活性化する構造基盤.
- 2024-08-08 CRISPR-Cas複合体のサブユニットを引き剥がす抗CRISPRタンパク質AcrIF25を発見.
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