CRISPR-Cas3は、"Cas9はスイスアーミーナイフ、Cas3は自走するシュレッダー”と言われるように、Cas9とは異なる機構を介して機能するゲノム・エディター(GE)であり、小さなインデル(挿入欠失)ではなく方向性のある長い欠失を、通常PAM配列の上流に生成する。また、標的を認識する配列が比較的長い。このため、CRISPR-Cas3 GEでは、インフレーム変異に誘導される機能性残存タンパク質のリスクやオフターゲット編集のリスクを回避できる可能性がある。
CRISPR-Cas3システムの研究開発を精力的に続けている東京大学医科学研究所真下智二教授 (*)らは今回、トランスサイレチン遺伝子(TTR)の変異が原因となりTTRがアミロイドを形成し、全身の臓器に沈着することで機能障害を引き起こす全身性アミロイドーシスの一種であるトランスサイレチン型アミロイドーシス [難病情報センター 全身性アミロイドーシス(指定難病28)] に対して、CRISPR-Cas3による治療可能性を報告している。
(*) [CRISPR-Cas3関連crisp_bio記事]のセクションで、冒頭に"#"が付されているcrisp_bio記事を参照
研究チームは、マウス肝細胞癌由来Hepa1-6細胞、in vivo マウス肝臓細胞、ヒトHepG2細胞において、プラスミドおよび/またはmRNA-LNP送達を用いて、その効率と特異性を検証した。オフターゲット効果は、ショートリードおよびロングリード技術を用いた全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて包括的に解析した。ヒト細胞における検証は、CRISPRーCas9をベースとするNTLA-2001(nex-z; ネキシグラン・ジクルメラン )(**)を利用して、Cas3とCas9による編集結果を比較した。
(**) [ATTRアミロイドーシスのCRISPRーCas療法関連crisp_bio記事]のセクションで、冒頭に"NTLA-2001"と付されているcrisp_bio記事参照
- ガイドRNAの最適化を経て、in vitroでTTR 遺伝子座位で58.9%±0.5%の編集を達成し、TTRタンパク質の発現を消失させる大きな欠失を誘導した。
- Cas3は、複数のオフターゲット部位でインデルを誘導したCas9とは対照的に、再現性のあるオフターゲット変異を起こさずに、主として、75kbまでの方向性のある欠失を生成した。
- 生体内では、脂質ナノ粒子をベースとした単回投与により、肝臓において、48.7%±1.1%の編集効率が達成され、血清TTR値は80.1%±4.6%減少した。ただし、欠失サイズはin vitroでの結果を大きく下回る21kbに限定された。
- 変異型ヒトTTR(hTTR; V30M)タンパク質を発現させたヒト化モデルマウスにおいて、Cas3による編集は、インフレーム変異を伴わずに血清TTR値を減少させ、心臓へのTTR沈着やマクロファージへの浸潤を顕著に減弱させた。
NTLA-2001などのCas9ベースの治療法が依然としてATTRの臨床ベンチマークとなっているが、本研究は、Cas3を独自の補完的ゲノム編集アプローチとして評価する初期段階にあたる。
[出典] "CRISPR–Cas3-based editing for targeted deletions in a mouse model of transthyretin amyloidosis" Ishida S [..] Mashimo T. Nat Biotechnol. 2026-01-05. https://doi.org/10.1038/s41587-025-02949-6 [所属] 東大医科研, 北大, 兵庫県立医大, 東京科学大, 名古屋大, 信州大, C4U Corporation, Transgenic Inc,Transgenic Group Inc, RIKEN SPring-8.
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