crisp_bio

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 トランスサイレチン型アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)は、ミスフォールドしたトランスサイレチン(TTR)タンパク質の蓄積によって引き起こされる致死的な疾患である。CRISPR-Cas9によるTTR遺伝子のノックダウンはATTRアミロイドーシスの治療における有望な戦略であり、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)を標的とするIntellia Therapeuticsのネキシグラン・ジクロメラン/nexiguran ziclumeran(プロジェクトコード名 nex-z ; 開発コード名NTLA-2001)[#1] や、中国YolTech社のYOLT-201 [#2] として、それぞれ臨床試験が進められている。しかし、CRISPR-Cas9 GEによるATTRアミロイドーシス療法の有効性と安全性についてはさらなる研究が必要である。CSPC Pharmaceutical Group Limited石薬集団)に復旦大学が加わった中国の研究チームは今回、そうした問題意識から行ったSpCas9を用いたTTR遺伝子編集に関するシステマティックな研究の結果を報告している。
[#] 引用crisp_bio記事
 野生型のSpCas9一連の高忠実度な変異型Cas9(SpCas9-HF1, SpCas9-HF4, およびHiFiCas9)のいずれもが、広範なオフターゲット編集を伴っていた。研究チームは編集の忠実度を向上させるため、構造解析を行い、新たに一連のSpCas9バリアントを設計した。その中で、オンターゲット編集活性をほぼ維持しつつ、オフターゲット編集と染色体転座を極めて低レベルに抑制する極めて高い高忠実度を示すバリアントSpCas9-Mut5に至った。
 このSpCas9-Mut5はアデニン塩基エディター(ABE)システムと互換性があり、ABEのオフターゲット編集も著しく低減し、編集ウィンドウを狭めた。SpCas9-Mut5は、TTR遺伝子に加えて、他の疾患の関連遺伝子の編集にも展開可能であり、SpCas9-Mut5をベースとするABEによる正確な塩基編集を期待できる。
[論文のRESULTSセクションの構成]
  • CRISPR-Cas9 system can target multiple sites within the TTR gene
  • CRISPR-Cas9 editing induces genome-wide off-target mutations
  • LNP compositions affect gene editing efficacy
  • The fidelity of SpCas9-HF1 is affected by the ratio of sgTTR-1 to mRNA
  • Rational design of SpCas9 variants
  • SpCas9-Mut5 is a superfidelity variant
  • SpCas9-Mut5 has long-term knockdown ability
  • SpCas9-Mut5 can efficiently edit the TTR gene of cynomolgus monkeys
  • SpCas9-Mut5 efficiently edits multiple human genes
  • SpCas9-Mut5 exhibits enhanced safety profile for gene editing
  • SpCas9-Mut5 enhances the fidelity of ABE
  • SpCas9-Mut5 narrows down the editing window of ABE
[詳細]
ガイドRNAの比較
 はじめに、CRISPR-Cas9システムのTTR 遺伝子ノックダウン能力を実証するため、野生型と変異型のSpCas9に組み合わせるsgRNA候補5種類(sgTTR-1, sgTTR-2, sgTTR-3, sgTTR-4, およびsgTTR-5)を評価した。5種類はそれぞれTTR遺伝子のAAAGGCTGCTGATGACACCT(NTLA-2001で開発されたものと同一)、ATACCAGTCCAGCAAGGCAG、AGTGAGTCTGGAGAGCTGCA、TCACAGAAACACTCACCGTA、TTTGACCATCAGAGGACACT領域を標的として設計された。
 これらのsgRNAはすべて、野生型Cas9と共導入したHEK293T細胞にて編集活性を示した。次に、HepG2細胞に共導入することで、TTRタンパク質発現レベルが低下することが確認された。特にsgTTR-1、sgTTR-2、およびsgTTR-3を導入した細胞で顕著に低下した。
 オフターゲット編集活性については、Cas-OFFinderプログラムで予測したところ、sgTTR-3を導入したSpCas9システムは、sgTTR-1およびsgTTR-2と比較して、はるかに多くのオフターゲット編集を引き起こすことが示唆されたことから、sgTTR-3はその後の研究では使用しなかった。
 WT SpCas9のTTR遺伝子編集能力を確認した後、ウェスタンブロット法により、SpCas9-HF1およびSpCas9-HF4とWT SpCas9の編集効率を比較した。sgTTR-1誘導下では、WT SpCas9とこれら2つのバリアントはいずれも、HepG2細胞におけるTTRタンパク質発現を劇的に減少させた。sgTTR-2誘導下では、WT SpCas9のTTR減少効率はSpCas9-HF1よりも相対的に低かったものの、SpCas9-HF4よりも高かった。これらの観察結果を総合すると、CRISPR-Cas9システムはTTR 遺伝子内の複数の部位を標的とすることができ、編集効率は部位によって異なることが示唆された。
SpCas9バリアンとの合理的設計
 野生型と既存の変異型SpCas9は試験した全ての条件下で意図しないゲノムワイドなオフターゲット編集を誘導し、高忠実度(high fidelity)バリアントであるSpCas9-HF1も例外ではなかった。SpCas9-HF1はSpCas9の4重変異体であり、Asn497、Arg661、Gln695、およびGln926がAla残基に置換されている。これらの変異は、sgRNAおよびオフターゲットDNAによって形成されるヘテロ二本鎖とSpCas9との結合親和性を低下させるために導入された。SpCas9の忠実度をさらに高めるため、詳細な構造解析を行ったところ、 Gln695と同様に、Lys526、Asn692、およびHis698の側鎖も、報告されているSpCas9-sgRNA-標的DNA複合体構造(PDB_ID:5FW3)において標的DNA鎖のバックボーンに近いことを発見した。Arg895とArg919の側鎖は、sgRNA鎖のバックボーンを指している。
 Targeting transthyretin by one Cas9 variantこれらの構造的観察に基づき、それぞれ異なる数の残基がAlaに置換された6つのSpCas9バリアントMut1-Mut6)を設計した [Fig. 2 引用右図参照]。これらの新しく設計されたSpCas9バリアントを全て、sgTTR-1と組み合わせて、TTRヒト化マウスで編集活性を評価したところ、いずれも、TTRタンパク質を効果的に低減し、特に、Mut2, Mut4, Mut5, およびMut6は、TTRタンパク質を88.6~93.4%減少させた。
 新たなSpCas9バリアンとの忠実度については、HepG2細胞にて検証し、 WT SpCas9、SpCas9-HF1、および他のすべての新たなバリアントと比較して、SpCas9-Mut5は最も少ないオフターゲット編集を誘導することが明らかになった。オフターゲット編集部位6箇所は2番染色体、6番染色体、17番染色体、19番染色体、20番染色体、および22番染色体に分布していたが、すべての部位がイントロンまたは遺伝子間領域に位置しており、ゲノム安全性への影響は最小限であることが示唆された。
SpCas9-Mut5の効果
 新たなバリアントに中で標的部位での編集活性が極めて高く、オフターゲット編集活性がミニマムであったSpCas9-Mut5は、モデルマウスでTTRを長期間ノックダウンすることに加えて、カニクイザルにおいても有害な影響を示すことなくTTR 遺伝子エディターとして機能し、ATTRアミロイドーシスの効果的な治療戦略足り得ることが示唆された。SpCas9-Mut5はまた、TTR 遺伝子に加えて、VEGFAEMX1TRACZC3H12Aなど、他の複数の遺伝子に対しても強力な編集活性を示した。
 SpCas9-Mut5はHEK293T細胞におけるABE8eのオフターゲット編集活性も効率的に低減した。さらに、SpCas9-Mut5を利用したABE(ABE8e-mut5)は編集ウィンドウが狭く、意図しないバイスタンダー変異を大幅に低減した。 ABE8e-mut5は、高い忠実度と低いバイスタンダー変異活性の両方が安全性プロファイルの向上に寄与しており、G-to-A変異によって引き起こされる疾患の治療における優れた候補エディターである。
 こうして、本研究は、TTR編集に有効な高忠実度SpCas9バリアントを同定するだけでなく、より安全な塩基エディターを設計するための強固な基盤を提供するに至った。
[出典] "Targeting transthyretin by one Cas9 variant with superfidelity and broad compatibility" Qi S, Wei L [..] Gan J, Li C, Su X. Sci Adv. 2026-01-02. https://doi.org/10.1126/sciadv.adu6505 [所属] CSPC Pharmaceutical Group Limited (中国), Shanghai Sci-Tech Inno Center for Infection & Immunity/Fudan University, 
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