世界の一部の地域では、献血された血液や血小板などの血液成分は、患者に輸血される前に紫外線(UV)とリボフラビン(ビタミンB2としても知られる)で浄化されている。ミラソル法として知られるこの技術は、様々なウイルス、細菌、寄生虫を無害化する"Pathogen Reduction Technology(病原体不活性化技術)"技術である。現在、この手法を癌治療に応用し、腫瘍細胞を不活化してから体内に再導入することで、有益な免疫反応を誘発する試みが進められている。この手法は既にマウスとイヌで試験されており、今月(2026年1月)には卵巣がん患者を対象とする第1相試験 (*) が開始される予定である。
(*) NCT06366490: Safety and Immunogenicity of Innocell Autologous Cellular Immunotherapy in Recurrent Epithelial Ovarian Cancer
コロラド州立大学の感染症研究センターのRay Goodrichセンター長は「他の治療法と組み合わせることで、再発を遅らせたり予防したりできると期待しています」と述べている。Goodrich氏は20年以上前にミラソル法の開発に携わり、2018年にはそれを癌治療に応用する企業PhotonPharmaを共同設立していた。
ルートヴィヒがん研究所ローザンヌ支部の癌ワクチン学者Lana Kandalaft教授によると、このワクチンは癌細胞全体を組み込むため、腫瘍のネオアンチゲン(健康な体細胞には存在せず、免疫系が認識できる癌に特異的な新規タンパク質)をすべて送達できることから、他のがんワクチンに共通する重大な課題、つまり最適な免疫刺激を得るためにどのネオアンチゲンを含めるべきかを予測するという課題を回避できる可能性がある。
しかし、懐疑的な研究者もいる。フレッド・ハッチンソンがんセンターの免疫学者で腫瘍内科医のLawrence Fong教授は、癌細胞全体を使ったワクチン開発の試みは長年にわたり失敗に終わっている」「科学者として、"Been there, done that"と言えるでしょう。」と述べている。
Goodrich氏は、1980年代後半、血液のHIV汚染が大きな懸念事項だった頃、大学院生として血液消毒法の研究を開始した。約10年後、彼と同僚たちは解決策にたどり着いた。それは、DNAとRNA分子に結合するリボフラビンを血液に混ぜ、その液体を紫外線にさらすことで、リボフラビンが微生物の遺伝物質と反応し、損傷を与えるというものであった。この方法により、病原体は増殖できなくなるが、血小板、赤血球、そして血漿中のタンパク質も損傷するため、患者は追加の輸血が必要になる可能性があります。この方法はヨーロッパ、カナダ、その他の国では承認されているが、血小板と血漿の消毒には他の技術を承認している米国では承認されていない。
ワクチンのアイデアは、Goodrich氏がミラソル処理を経た白血球が「不活化されているものの、無傷のままである」ことに気づいたことから生まれた。すなわち、患者の癌細胞から同様の"ゾンビ細胞"を生成し、それを再注入することで、腫瘍に対する免疫反応を誘発できるのではないかと推測し、また、紫外線処理された癌細胞は分裂できず、新たな腫瘍を形成できないため、このアプローチは安全であると結論付けた。
Goodrich氏は、自身のグループが初めてこの戦略を提案した際、「誰もが『どうかしている』と言った」と認めている。研究者たちは50年以上もの間、がん細胞全体を含むワクチンの開発に取り組んできたが、臨床試験まで至った製剤もあったものの、免疫反応は弱かった。ペット用のワクチンはあるものの、人間への使用は承認されていない。
癌細胞の増殖を阻止するためにこれまで用いられてきた放射線などの過酷な方法も、ネオアンチゲン(新抗原)の放出を引き起こしたとGoodrich氏は指摘し、紫外線を用いたアプローチは、これらの潜在的な免疫刺激物質を保存するため、より効果的であるはずだと主張する。
カリフォルニア州シティ・オブ・ホープで今月開始される、PhotonPharma社がスポンサーを務めるこの新たな臨床試験(NCT06366490)は、再発卵巣がん患者8名を募集することを目的としている。患者はまず手術で腫瘍を摘出する。その後、腫瘍細胞をリボフラビンと紫外線に曝露し、アジュバントと混合して、カスタムワクチンを作製する。参加者はワクチンを3回接種し、研究者らは副作用を確認し、免疫反応を測定する。
紫外線を用いたアプローチが従来の方法よりも強力な反応を引き起こすかどうかは「まだ疑問だ」「研究者らが提示した動物実験データを見ても、その可能性は低い」とFong氏は言う。ピッツバーグ大学の免疫学者Olivera J. Finn特別教授も懐疑的だ。ワクチンが免疫細胞を活性化したとしても、腫瘍は攻撃を巧みに阻止するとFinn氏は指摘する。
それでも、抗腫瘍免疫を誘導するために癌細胞全体を利用するというアイデアは魅力的であり、Goodrich氏のチームだけがこの研究を進めているわけではない。今年初め、Brenus Pharma社は、患者自身の細胞ではなく標準的な腫瘍細胞株から作製された、いわゆるghost cellの第1相試験 (**)を開始した。Ghost cellは増殖しないが、免疫細胞が認識する分子で標識された特徴的な腫瘍抗原を帯びている。同社の腫瘍専門医であるGeorge Alzeeb博士は、ゴースト細胞はすぐに入手できるため、がん患者は細胞の処理を待つ必要がなくなると述べている。
(**) NCT06934538: First-in-human Trial of STC-1010, an Immunotherapy, in Patients With Unresectable Locally Advanced or Metastatic Colorectal Cancer.
[出典] "Blood-cleansing method faces its first test as cancer vaccine" Leslie M. Science 2026-01-01 11:00 AM ET. https://doi.org/10.1126/science.zublg6o
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