ゲノム・エディターとしてのCRISPR関連トランスポザーゼ (CAST) の特徴と課題
CRISPR 関連トランスポザーゼ (CAST) は、ゲノム編集ツールボックスに最近追加された強力なツールである [#1, 2, 3]。従来の CRISPR-Cas9 システムは、標的細胞のDNA二本鎖切断(DSB)を経てゲノム・エディターとして機能するが、このプロセスは細菌ではしばしば致命的になる [#4]。対照的に、CAST は RNA 誘導ターゲティングとトランスポゾン 7 (Tn7) 様転移を組み合わせることで、DSBを経ることなくプログラム可能な大規模な挿入を可能にする。また、微生物におけるゲノム編集の標準的な代替手段である相同組み換えは長い相同アームを必要とするが、CAST は、同時編集のために多重化できる 24~32 塩基対 (bp) の短いガイド (CASTのシステムによって異なる) だけでプログラムできる [#5, 6]。
現在発見され試験されている CAST のうち、単一の Cas コンポーネント (タイプ V) と複数の Cas コンポーネント (タイプ I) を持つものこのグループの中で、I-F型コレラ菌CAST( CAST)Tn6677は、細菌ゲノム編集 [#6]、微生物群集の操作 [#7]、さらにはヒトゲノムの改変 [#8] のための貴重なプラットフォームとして提案されている。
Vch CASTはゲノム編集のツールとして確立されたが、幅広い生物種において効率的な編集を達成する上では、限界に直面している。例えば、産業的に重要な種であるコリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、Vch CASTの編集効率は0~0.027% [#9]、複雑な腸マイクロバイオーム・サンプルにおいて、接合法で導入されたVch CASTの編集効率が0.001% [#7] と低いことが示されており、in situマイクロバイオームにおける有用性は著しく制限されている。これらの低い効率は、環境、産業、および治療におけるゲノム編集アプリケーションにおけるVch CASTの可能性を制限しており、最適化の必要性を浮き彫りにしている。
Vch CASTの活性を制御する宿主因子について知られていること
Vch CASTのより広範かつ効率的な利用は、その機能を促進または制限する宿主因子の理解によって促進される。例えば、カゼイン分解性・ミトコンドリアマトリックス・ペプチダーゼ・シャペロン・サブユニットX(ClpX)の添加は、ヒト胎児腎臓293T細胞においてVch CASTの機能を促進することが明らかにされている [#8]。しかし、細菌においては、ClpXはVch CASTの機能に必須ではないことが示唆されている。細菌においては、組込み宿主因子(Integration Host Factor: IHF)と、それよりは程度は低いが逆転刺激因子(Factor for Inversion Stimulation: FIS)のみが、Vch CASTの機能に影響を与えることが知られている [#10]。さらに、CAST編集効率は内因性宿主と大腸菌受容体間で異なることから、CASTの統合には未解明の分子要件が他にも存在する可能性が示唆されている [#11]。こうして、Vch CAST転移の活性化因子と阻害因子を体系的に同定する大きな機会が残されている。
研究成果:Vch CAST活性化因子のゲノムエディターとしての可能性
UC BerekeleyのInnovative Genomics Instituteを主とする米国の研究チームは、Vch CASTの活性に影響を及ぼす宿主因子を同定することを目的として、
大腸菌RB-TnSeq(Random Barcode Transposon Sequencing)ライブラリ [#12, 13] を用いて、Vch CASTの活性に影響を及ぼす宿主因子のゲノムワイドスクリーニング [Fig. 1引用右図 A 参照]を初めて実施し、Vch CASTの転移に影響を及ぼす15個の遺伝子が同定された [Fig. 1引用右図 B 参照]。これらのうち7個の因子はVch CAST活性を向上させることが検証され、2個の因子は阻害活性を示した。相同組換えエフェクターであるRecDとRecAの同定に基づき、
大腸菌RB-TnSeq(Random Barcode Transposon Sequencing)ライブラリ [#12, 13] を用いて、Vch CASTの活性に影響を及ぼす宿主因子のゲノムワイドスクリーニング [Fig. 1引用右図 A 参照]を初めて実施し、Vch CASTの転移に影響を及ぼす15個の遺伝子が同定された [Fig. 1引用右図 B 参照]。これらのうち7個の因子はVch CAST活性を向上させることが検証され、2個の因子は阻害活性を示した。相同組換えエフェクターであるRecDとRecAの同定に基づき、
λ-Red遺伝子をVch CASTベクターに組み込むことで [Fig. 3引用右図参照]、高い標的特異性と類似した挿入配列を維持しながら、モデル微生物の大腸菌では55.2倍、Pseudomonas putida とKlebsiella michiganensis では、それぞれ5.6倍と10.8倍の編集効率の向上が見られ、λ-RedとCASTを融合したゲノム・エディターが産業、環境、医療分野に関連する他の細菌への効率的な組み込みに展開可能なことが示された。[出典]
- "Identification of proteins influencing CRISPR-associated transposases for enhanced genome editing" Song LT, Alker ATP [..] Rubin BE. Sci Adv. 2026-01-01. https://doi.org/10.1126/sciadv.aea1429 [所属] UC Berkeley (Innovative Genomics Institute; Comparative Biochemistry; Biomedical and Pharmaceutical Sciences; Molecular and Cell Biology; Biological Sciences, California Institute for Quantitative Biosciences,), Gladstone Institutes, UCSF, Lawrence Berkeley National Laboratory (Environmental Genomics and Systems Biology Division; Molecular Biophysics and Integrated Bioimaging Division), HHMI, University of Wisconsin-Madison
[#] 参考crisp_bio記事と論文
- crisp_bio 2019-06-08/2022-10-15 CAST: Cas12kとトランスポザーゼの協働によりドナーDNAを効率よくノックイン. https://crisp-bio.blog.jp/archives/18164585.html
- Review "Natural and Engineered Guide RNA–Directed Transposition with CRISPR-Associated Tn7-Like Transposons" Hsieh SC, Peters JE. Annu Rev Biochem. 2024-07-02/Aug. https://doi.org/10.1146/annurev-biochem-030122-041908;
右図はFigure 3から引用したTn7と5種類のCASTの構成比較図 - crisp_bio 2025-05-25 [総説] CRISPR関連トランスポゾン (CAST) の潜在能力を解き放つ:構造から機能まで. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38627263.html
- CRISPRメモ_2019/06/13-2 [第9項] [レビュー]CRISPRによるバクテリアゲノム編集に対する障害
- crisp_bio 2025-03-19 プログラム可能なV-K型CASTを用いたヒトゲノムへの治療用カーゴの組み込み https://crisp-bio.blog.jp/archives/38125326.html
- crisp_bio 2020-07-21/2024-01-17 INTEGRATE: Tn様トランスポゾンをベースとして、バクテリアゲノム編集の効率化と多重化を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23669855.html
- crisp_bio 2020-07-19/2021-12-09 マイクロバイオームから分離培養することなくin situでの標的バクテリア遺伝子編集を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23646667.html
- crisp_bio 2023-04-09 タイプI-F CASTを利用しDSBを回避しつつヒト細胞内における大規模DNA配列ノックインを実現 https://crisp-bio.blog.jp/archives/32022537.html
- "RNA-Guided DNA transposition in Corynebacterium glutamicum and Bacillus subtilis" Siqi Yang [..] Sheng Yang. ACS Synth Biol. 2023-06-22/07-21. https://doi.org/10.1021/acssynbio.3c00193
- crisp_bio 2024-04-29 CASTに新たなキャスト https://crisp-bio.blog.jp/archives/32148017.html
- crisp_bio 2025-05-07 腸炎ビブリオRIMD2210633の病原性アイランドVpaI-7に位置するCRISPR/Cas転座システムの制御と機能に関する知見. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38484556.html
- "Rapid quantification of mutant fitness in diverse bacteria by sequencing randomly bar-coded transposons" Wetmore KM [..] Deutschbauer A. mBio. 2015-05-12.https://doi.org/10.1128/mbio.00306-15
- "The bare necessities: Uncovering essential and condition-critical genes with transposon sequencing" Shields RC, Jensen PA. Mol Oral Microbiol. 2019-03-01/Apr. https://doi.org/10.1111/omi.12256
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