crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

環状RNA生成モデル 環状RNAは、直鎖状エクソンのバックスプライシング(BSJ)によって形成されるRNA分子であり、これまでに数千種類が同定されている。[右図はWikipediaから引用した環状RNA生成機構のモデル図]。しかし、その発現レベルが比較的低いことと、何よりも環状RNAが由来するゲノム領域から生成される直鎖状mRNAと配列がほぼ重複し両者の識別が困難なことから、機能が特定されている環状RNAはごく僅かである。
 近年、環状RNAの機能解析のアプローチとして、従来のRNAiによるノックダウンに加えて、バックスプライシングによって形成される特定のジャンクションを直接に標的可能であり、ひいては、環状RNAアイソフォームの選択的分解を期待できるCRISPR-Cas13システム、特に比較的小型なCas13dによる解析の試みが広がりつつある [#1, 2]。これに対して、スタンフォード大学医学部遺伝学科に籍を置く研究者チームは今回、Cas13dによるアプローチも、直鎖mRNAに対するオフターゲット活性に起因する擾乱を回避できず、また、BSJに由来する接合部の設計に制約があることから、環状RNAのハイスループットかつ高信頼性な機能解析に展開するには限界があるとした。
  • ENCODE Tier 1細胞株に位置付けられているK562において、高発現している900個の環状RNAを用いて必須性スクリーニングを実施し、Cas13dを介した環状RNAノックダウンの限界を評価した。
  • 特定の環状RNAを標的とするsgRNAは、環状RNA以外の直鎖状アイソフォームに対して一貫したオフターゲットのノックダウン効果を示すことが観察された [Figure 5引用左下図とグラフィカルアブストラクト引用右下図左側;Figure 5は、わずか3塩基共有によって環状RNA編集にオフターゲット直鎖状RNA編集が重なるモデル図]。

    環状RNA GA環状RNA Fig. 5
  • 他の細胞種を対象とした既存のCas13dスクリーニングの再解析でも、同様のオフターゲット効果が認められた。
  • sgRNA の有効性を予測する 2 つの独立した機械学習モデル [#3, 4] を使用して 環状RNA ジャンクションの全体的な標的化可能性を評価したところ、BSJ のかなりの部分(ひいてはsg RNA候補)が Cas13d の基質としてうまく機能しないと予測された。[グラフィカルアブストラクト引用右上図右側]
  • このsgRNA設計上の制約を考慮した上で、スクリーニングで試験可能な346個の環状RNAを評価したところ、細胞増殖に検出可能な効果を示したものは0個であった。
  • Cas13dには「sgRNAの標的RNAの存在下で発揮する、RNAを非選択的にRNAをトランス切断するコラテラル活性」が細胞増殖を指標とするスクリーニング結果を擾乱するリスクも伴う
 これらの知見から、今後の環状RNAスクリーニングに当たっては、RNAを標的とする他のCRISPR -Casエフェクターの利用、環状RNAを標的するに最適なsgRNAの設計法の利用、スクリーニング結果の読み出しに使用する表現型の改良、などにより、オフターゲット効果がもたらす見かけ上の機能を慎重に排除していく必要がある。
[#] 参考crisp_bio記事
  1. 2020-12-10 CRISPR-Cas13システムにより機能性環状RNAをスクリーニング. https://crisp-bio.blog.jp/archives/24991341.html
  2. 2021-01-27 機能性circRNAsの同定にはshRNAよりは最適化したCRISPR/Cas13dを選択すべし. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25422383.html
  3. 2023-07-06 深層学習を利用して、CRISPR-Cas13dのガイドRNAsのオンターゲットとオフターゲットでの活性を予測. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32721459.html
  4. 2022-07-21/12-16 RNAターゲッティングの最適化のための深層学習とCRISPR-Cas13dオーソログの発見. https://crisp-bio.blog.jp/archives/29692839.html
[出典] "Junction-targeting designs limit the application of CRISPR-Cas13d in circular RNA perturbation studies" Lee-Yow YC [..] Chang HY, Engreitz JM. Nucleic Acids Res. 2026-01-08. https://academic.oup.com/nar/article/54/1/gkaf1447/8417327https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1447  [所属] Stanford University School of Medicine (Genetics; Center for Personal Dynamic Regulomes), Betty Irene Moore Children's Heart Center, Stanford Cardiovascular Institute (HHMI; Stanford Cardiovascular Institute), Broad Institute (The Novo Nordisk Foundation Center for Genomic Mechanisms of Disease; Gene Regulation Observatory)
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット