神経膠芽腫(GBM)は、成人に多くみられる原発性脳腫瘍であり、致死率も高い。治療失敗の一因として、一部の神経膠芽腫幹細胞(GSC)が高度な異質性と可塑性を示すことが挙げられている。GSCは、発生段階期(developmenta: Dev)と損傷応答/間葉系・期(injury response: IR)の2つの状態の間で転写勾配を形成しており、IR期のGSCはより侵襲的な挙動を示す。これまでの研究でGSCの適応度に関連する遺伝子は同定されているものの、Dev期およびIR期におけるGSCの確立と維持に必要な遺伝子は未だ十分に解明されていない。
トロント大学のStephane Angers教授が責任著者となっているカナダからの論文は、GSCのIR状態の制御因子を同定するため、患者由来GSCにおいて、IRマーカーCD44の細胞表面発現に基づき、表現型に基づくゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニングを行った結果を報告している。
- ヒストンアセチル基転移酵素活性 (HAT活性)を有する転写共役因子であるEP300がIR期の調節因子として同定され、CRISPR-Cas9 KOとA-458阻害剤処理、RNA-seq、CUT&RUN、浸潤アッセイ、スフィア形成アッセイ、およびマウスGBMモデルを用いて、EP300の活性化が表現型に及ぼす影響を解析した。
- EP300の活性化は、CD44細胞表面発現の減少と、エピゲノムの制御異常によるIR転写状態のアイデンティティの喪失につながることが明らかになった。機能解析により、このアイデンティティの喪失は、GSCにおける自己複製能および浸潤能の低下、ならびにマウスGBMモデルにおける腫瘍の発生および進行の遅延と一致することが示された。
これらの結果を総合すると、EP300はGSCにおけるIR状態のアイデンティティの重要な制御因子であり、GBMにおける侵襲性細胞状態を標的とした治療のメカニズム的基盤を提供する。
[関連crisp_bio記事]
- 2019-08-29/2121-05-02 EB300短縮型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞株に特有な遺伝子の合成致死関係を、WGS, RNA-seq, および経時的ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーンにより同定- DLBCLの個別化療法へ https://crisp-bio.blog.jp/archives/19632520.html
[出典]
- "Epigenetic maintenance of the Injury Response state in Glioblastoma Stem Cells" Molaei F [..] Angers S. Neuro-Oncology Advances. 2026-01-10. https://doi.org/10.1093/noajnl/vdag002 [所属] Donnelly Centre for Cellular and Biomolecular Research, University of Toronto (Leslie Dan Faculty of Pharmacy; Centre for Molecular and Systems Biology; Molecular Genetics; Biochemistry; Chemical Engineering and Applied Chemistry; Institute for Biomedical Engineering; Chemistry; Developmental and Stem Cell Biology Program and Sonia Labatt Brain Tumor Research Centre; Neurosurgery), Mount Sinai Hospital
コメント