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 バクテリオファージは、細菌のCRISPR-Casシステムが提供する適応免疫に対抗するために、抗CRISPR(Acr)タンパク質を進化させてきた。現在、120を超えるAcrファミリーが、それぞれ多様な阻害機構を介して、12種類近くのCRISPR-Casシステムに対抗していることが、知られている。阻害機構としては、CRISPR-Cas複合体の組み立て阻害、標的DNA/RNAへの結合阻害、標的DNA/RNAの切断阻害、Casエフェクターの翻訳後修飾によるCPISPR-Casシステムの不活性化、セカンドメッセンジャー分子の酵素修飾または分解などが、知られている。
 ハルビン工業大学と西湖大学の研究チームが今回、SpyCas9-sgRNA複合体に結合した抗Cas9タンパク質AcrIIA27の構造を、クライオ電顕法で再構成し、新たな抗Cas9阻害機構を報告している。
 AcrIIA27は、SpyCas9上のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)DNA結合ポケットに近接している溶媒に露出されたsgRNAのリン酸骨格(PAM-proximalまたはTAM-proximal RNA: PTP RNA)と相互作用することで、SpyCas9のエンドヌクレアーゼ活性を阻害し、基質DNAの認識を阻害する。すなわち、AcrIIA27は、CRISPR RNA(crRNA)と直接相互作用することでSpyCas9をはじめとする多様なCas9相同遺伝子に抗する最初のAcrタンパク質であることが明らかになった。
 さらに、重要な点として、PTP RNAを切断することで、ヒト細胞におけるCRISPR-Cas9システムとIS607 TnpBシステムの両方のゲノム編集レベルが向上することも明らかになった。
[構造情報]
  • EMD-63180 / PDB 9LKJ: Structure of SpyCas9-sgRNA-AcrIIA27 (2.68 Å). 
[出典] 
  • "An anti-CRISPR targets the sgRNA to block Cas9 and guides the design of enhanced genome editors" Yu L, Yin M, Zhu Y, Lu Z [..] Huang Z. Nat Struct Mol Biol. 2026-01-19. https://doi.org/10.1038/s41594-025-01741-z [所属] Harbin Institute of Technology (HIT Center for Life Sciences; New Cornerstone Science Institute), Westlake University (Westlake Center for Genome Editing)
[補足] Acrsの多様な阻害機構
  • 機能的なCRISPR–Cas複合体は、CRISPR RNA(crRNA)、トランス活性化crRNA(tracrRNA)、およびCasタンパク質の単一または複数のサブユニットなど、様々な構成要素が組み合わさって形成される。AcrIIA16–AcrIIA19、AcrIIC2、AcrVA4などのAcrsはCas9タンパク質に結合し、sgRNAの認識を阻害することで、リボ核タンパク質(RNP)複合体の組み立てを阻害する。
  • 活性型CRISPR–Casアセンブリが標的RNAまたはDNAに結合することは、CRISPR–Casシステムがヌクレアーゼ機能を活性化するための重要なプロセスである。AcrVIA1はCas13aと相互作用して基質RNAの認識を阻害する。 AcrIF9、AcrIF1、AcrIF8、およびAcrIF14は、エフェクター複合体のサブユニットタンパク質に結合し、crRNAとDNAのハイブリダイゼーションを阻害する。
  • 一部のAcrsは、エフェクタータンパク質のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)相互作用(PI)ドメインと相互作用する。例えば、AcrIF2およびAcrIF10はCas8およびCas5と直接相互作用し、AcrIF6およびAcrIF7はCas8に結合する。 AcrIIA2、AcrIIA4、AcrIIA15、AcrIIC5、およびAcrVA1はDNAミミックとして機能し、PIドメインと相互作用してPAM認識部位を占有する。さらに、AcrIIA6、AcrII25.1、およびAcrIIA32などの一部のAcrsは、アロステリック制御を介してCas9の基質DNAへの結合能を低下させる。
  • DNA切断を阻害するために、AcrID1、AcrIE1、AcrIF3、AcrIIA1、AcrIIC1、AcrIIC3、AcrIIA5、およびAcrIIA14は、Casタンパク質のヌクレアーゼドメインに直接結合し、その活性を阻害する。
  • その他に、いくつかのAcrsはCasエフェクターの翻訳後修飾を介してCRISPR-Casシステムを不活性化する。タイプIII Acrsは、セカンドメッセンジャーの産生と分解を抑制することでCRISPR-Casシステムの活性を阻害する。
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