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 タンパク質-DNA相互作用は、遺伝子発現制御の分子基盤であり、植物では種子の発芽、器官発達、ストレス応答などを制御している。これらのプロセスの基盤となる制御機構を解明するために、ChIP-seqCUT&TagDAP-seqなどのゲノミクスツールが開発され、転写因子(TF)結合部位とその標的遺伝子のゲノムワイドなマッピングが可能になった。これらの手法は、既知の上流因子の下流標的遺伝子の特性評価には効果的であったが、植物の成長と発達に深く影響を与える顕著な発現の変動を示す重要な遺伝子が知られているにも関わらず、それらの上流の制御機構は依然として不明である。この課題に対処するため、酵母ワンハイブリッド(Y1H)スクリーニングなどのin vitro技術が開発されてきたが、偽陽性率の高さが幅広い適用に限界をもたらしている。中国農業科学院野菜花卉研究所の研究チームは今回、CRISPR-Cas9システムを利用して、上流の制御因子を効率的に特定するための新しいアプローチを実装した。
 これまでに、標的DNAヘの正確な結合を誘導する触媒活性を失活させたCas9(dCas9)をベースにするクロマチン精製戦略であるCLASP(Cas9 Locus-Associated Proteome)[#1] およびCASPA–dCas9(native Chromatin-ASsociated Proteome Affinity by CRISPR–dCas9)[#2] が開発されてきた。これらの戦略は、キイロショウジョウバエやシロイヌナズナに適用されて成功を収めたが、CLASPおよびCASPA-dCas9はChIPベースの方法論に依存しているため、一過性または低存在量のタンパク質やTFのような弱いDNAバインダーに対する感度が低い。dCas9-APEX2C-BERST)などのさらなる革新により、APEX2を介したビオチン化による近接標識が導入された [#3, 4]。この方法は動物では有効であるが、H2O2処理を必要とすることが、植物への適用への障害になっていた。これは、植物における試薬の吸収が悪いことと、一過性または低存在量のDNA相互作用タンパク質に対する標識期間が不十分になるためである。このような状況の中で、特に植物において、DNA相互作用タンパク質を捕捉して識別するための、より堅牢なツールが依然として必要とされていた。 
 BioID、BioID2、miniTurboTurboID [#5]などのビオチン近接標識システムは、相互作用するタンパク質を同定するための理想的なツールとして登場しており、わずか10分で近接タンパク質のビオチン化が実現する。隣接タンパク質の不可逆的な標識を可能にすることで、この方法はタンパク質間の結合状態を維持する必要がなく、高い特異性を有する動的な検出能力を提供する [#6]
 研究チームは今回、CRISPRベースの配列近接結合タンパク質標識システム(CRISPR-based sequence proximity binding protein labelling system: CSPL)を紹介している。これは、dCas9の精密なDNA標的化能力とTurboIDを介した近接標識を組み合わせ、ユーザーが定義したゲノム座位に隣接するタンパク質をin vivoで持続的に標識する革新的な技術である。さらに、ビオチンは植物に対して無毒であり、高い標識特異性を有し、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)による標識タンパク質の直接検出を可能にする。こうしてCSPLは、遺伝子プロモーターに結合する上流調節因子の研究に強力なツールとなった。
 ​​Gly-Gly-Gly-Gly-Serが3回繰り返されている柔軟な(GGGS)3リンカーで連結されたキメラdCas9-TurboID融合タンパク質(dCas9-TD)を設計し、シロイヌナズナ恒常性ユビキチン-10(AtUbi10)プロモーター下で発現させた [論文Fig. 1 参照]。このシステムは、単一の配列特異的ガイドRNA(gRNA)を用いることで、指定されたゲノム領域への正確なターゲティングを実現し、TurboIDはTFsなどの近位DNA相互作用タンパク質を効率的にビオチン化する。生体内標識後、ビオチン化タンパク質はストレプトアビジンを介して特異的に濃縮され、その後の同定および特性解析に利用可能になる。
 CSPLを用いて、シロイヌナズナ、キャベツ、イネのPIF4 プロモーター上の既知および新規の上流結合タンパク質の同定に成功して、植物におけるプロモーター結合タンパク質の検出におけるCSPLの強力な能力と幅広い応用可能性が実証された。
[#] 参考論文・crisp_bio記事
  1. 2020-07-23更新 dCas9-sgRNAにクリック反応を組合せることで, 低分子による遺伝子標識を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/20854138.html
  2. 2024-01-11 CRISPR-dCas9により制御因子を捉え, シロイヌナズナにおけるSERRATE発現微調整の機構を解明. https://crisp-bio.blog.jp/archives/34650724.html
  3. CRISPRメモ_2018/05/08 - 1 [第3項] dCas9-APEXによる特定の遺伝子座におけるプロテオミクス'C-BERST'(タンパク質間相互作用). https://crisp-bio.blog.jp/archives/9112512.html
  4. CRISPRメモ_2019/03/04-2 [第6項]  CRISPR-dCas9技術とAPEX2の近接依存ラベリングを組み合わせて、クロマチンと生体分子との間の局所的相互作用の解析を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/16030209.html
  5. 2018-08-24/20210611 新たな近接依存性標識法"TurboID"によるPPI解析 + Split-TurboID. https://crisp-bio.blog.jp/archives/11664255.html;2025-01-03 TurboCas: ゲノム領域から遺伝子座を特異的に標識し, 関連するタンパク質のインタラクトームを単離する方法 https://crisp-bio.blog.jp/archives/37580094.html;2025-11-07 細胞表面にTurboIDを発現するTurboIDノックイン・ラットの作製. https://crisp-bio.blog.jp/archives/39590112.html
  6. "Proximity labeling of protein complexes and cell-type-specific organellar proteomes in Arabidopsis enabled by TurboID". Mair A, Xu SL, Branon TC, Ting AY, Bergmann DC. eLIFE 2019-09-19. https://dx.doi.org/10.7554/eLife.47864 
[出典]
  • "A CRISPR-based sequence proximity binding protein labelling system for scanning upstream regulatory proteins" Zhang L, Chi C, Chen Q [..] Cheng F. Nat Plants. 2026-01-19. https://doi.org/10.1038/s41477-025-02212-5 [所属] Institute of Vegetables and Flowers/ Chinese Academy of Agricultural Sciences (中国)
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