[注] パソゲノミクス (pathogenomics: pathogen + genomcis):ハイスループットスクリーニング技術とバイオインフォマティクスを用いて、微生物ゲノムにコードされている耐性や、微生物が宿主に感染し、病気を引き起こす可能性のある毒性因子(virulence factors: VFs)を研究する分野 [wikipediaより]。
真菌Magnaporthe oryzae pathotype Triticum(MoT)によって引き起こされるコムギいもち病(wheat blast)が、世界の小麦生産を脅かしているが、持続的な耐性機構は未だ解明されていない。品種特異的な耐性遺伝子や殺菌剤に頼るこれまでの戦略は、病原体の進化や効果の喪失に対して脆弱である。Gazipur Agricultural UniversityのTofazzal Islam教授と中国農業科学院植物保護研究所のHouxiang Kang教授を責任著者とするScience Reports 誌刊行論文では、2016年にバングラデシュで発生したコムギいもち病の圃場由来のトランスクリプトームを解析し、MoTに利用された宿主の感受性(susceptibility: S)遺伝子を同定したことが報告されている。
2016年の大流行は、在来品種全てに壊滅的な被害をもたらした。地理的に異なる地域にまたがる感染植物と非感染植物のRNA-seqデータを解析することで、防御関連経路に富み一貫してアップレギュレーションされている273個のコムギ遺伝子を特定した。いもち病抵抗性のモデルであるイネを用いたオーソログ解析から、進化的に保存されている感受性(S)遺伝子候補3つ、TaSULTR3-3B(イネ白葉枯病菌感受性遺伝子のオーソログ)、TaSTP3-4D(黄さび病に関連)、およびTaMLO1-5A(コムギうどんこ病感受性遺伝子)が同定された。これら3つの候補はすべて、圃場由来のコムギ・サンプルではMoTのエフェクターと有意な発現相関を示したが、植物体内スパイクアッセイでは異なる発現動態を示した。
感受性品種BARI Gom 26ではMoT接種後にTaMLO1-5Aのみが有意にアップレギュレーションされ、抵抗性品種S-615(コムギいもち病抵抗性遺伝子Rmg8 を持つ)では誘導は観察されなかった。一方、TaSULTR3-3B およびTaSTP3-4D は、植物体内スパイク試験の特定の条件および時点において、有意な誘導を示さなかった。
圃場実験と温室実験の相違は、組織特異的な調節(穂 vs. 葉)、環境変動、または圃場実験と温室実験におけるサンプリング時点の差異に起因する可能性がある。2016年のバングラデシュにおける流行が「自然の実験室」になり、研究室内での実験室では得られない情報が得られ、また、黄さび病関連遺伝子とうどんこ病感受性遺伝子がコムギいもち病の促進因子として収束していることが、明らかになった。
他の穀物で病原体に対する耐性をもたらすことが確認されているS遺伝子の破壊戦略は、特定の病原体に左右されずに広範な病原体に対する効果を期待できる戦略であり、また、病原体が耐性を獲得する可能性がある抵抗遺伝子を利用する戦略よりも、堅固な病原体耐性をもたらすことを期待できる。一過性抵抗性遺伝子に変えて感受性ネットワーク上の候補遺伝子をCRISPR技術による改変するアプローチが、気候の影響を受けやすい地域での流行を未然に防ぎ、世界の小麦の安全保障を守る可能性があると期待できる。
こうして、圃場病理学と進化ゲノミクスを橋渡しすることが、穀物に対する病原性真菌の脅威が拡大する時代における持続可能な作物の疾病管理へのロードマップを提供することが示された。
[出典]
- "Field pathogenomics and evolutionary conservation unveil CRISPR-targetable susceptibility genes for wheat blast resistance" Khayer A, Ye P [..] Kang H, Islam T. Sci Rep. 2026-01-18. https://doi.org/10.1038/s41598-026-36547-6 [所属] Institute of Biotechnology and Genetic Engineering (IBGE)/Gazipur Agricultural University (バングラディッシュ), Institute of Plant Protection CAS (中国), Plant Pathology/South China Agricultural University, AI and Digital Health Technology/Charles Sturt University (オーストラリア), WVU Plant Diagnostic Clinic/West Virginia University (米国), School of Information Technology/Washington University of Science and Technology
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