[注] UGAサプレッサーtRNA療法:遺伝子本来の終止コドンの上流に点変異によって誘導される終止コドン(UGAはその一種)は、未成熟終止コドン(Premature Termination Codon: PTC)と呼ばれ、機能しないタンパク質の合成やmRNAの分解、ひいては、疾患を引き起こす可能性がある。UGAサプレッサーtRNA療法は、tRNAを改変することで、PTC-UGAをアミノ酸へと変換するアプローチをベースにしており、リードスルー療法とも呼ばれる。
University of Massachusetts Chan Medical SchoolのDan Wang助教授が責任著者であるNature Biotechnology 誌刊行論文において、ゲノム翻訳中に病原性UGA 未成熟終止コドン(Premature Termination Codon: PTC)をアルギニンへ変換する"AAV-NoSTOP(UGA)"と称する戦略の実装と治療への応用可能性を報告している。
この手法は、ヒト病原性ナンセンス変異の約20%を標的として、野生型タンパク質の合成を回復し、多くの疾患を治療できる可能性を秘めている。論文では、複数の最適化ステップを踏むことで、PTCのリードスルー効率、rAAV産生収量、ベクターゲノムの均一性を向上させ、CRISPR-Cas GE技術で作出した2種類のリソソーム蓄積症の疾患マウスモデルの治療に成功したことが紹介されている。すなわち、サプレッサーtRNA療法(sup-tRNA療法)が、確かに、標的の遺伝子や疾患に依存しないという特徴が実証され、sup-tRNA療法患者数が極めて少ない希少疾患および超希少疾患に対する汎用的なアプローチとして有望なことが示されている。
この手法は、ヒト病原性ナンセンス変異の約20%を標的として、野生型タンパク質の合成を回復し、多くの疾患を治療できる可能性を秘めている。論文では、複数の最適化ステップを踏むことで、PTCのリードスルー効率、rAAV産生収量、ベクターゲノムの均一性を向上させ、CRISPR-Cas GE技術で作出した2種類のリソソーム蓄積症の疾患マウスモデルの治療に成功したことが紹介されている。すなわち、サプレッサーtRNA療法(sup-tRNA療法)が、確かに、標的の遺伝子や疾患に依存しないという特徴が実証され、sup-tRNA療法患者数が極めて少ない希少疾患および超希少疾患に対する汎用的なアプローチとして有望なことが示されている。
[詳細]
ナンセンス変異は、mRNA中のセンス・コドンをPTCに変換する点変異であり、ゲノム配列の翻訳中に完全長タンパク質合成の停止とナンセンス変異介在mRNA分解(nonsense mediated mRNA decay: NMD)という2つの有害な事象を引き起こす。ナンセンス・サブレッションは、翻訳機構がタンパク質合成中にPTCをアミノ酸のコードに読み替えることを可能にし、DNAまたはmRNA配列を変化させることなくPTCの有害な影響を克服するアプローチである。
ナンセンス変異はヒトの病原性変異の約11%を占めるため、ナンセンス変異を抑制するサプレッサーtRNA療法(sup-tRNA )は、遺伝子や疾患にとらわれずに大規模な集団を治療できる可能性を秘めている。したがって、少数の希少疾患や超希少疾患に対して、オーダーメイドの遺伝子治療や変異特異的な遺伝子編集治療を開発することの難しさを考えると、サプレッサーtRNA療法は魅力的な手法である。
これまでに、一連の研究で、細胞培養モデルにおけるさまざまな病原性ナンセンス変異の克服における sup-tRNA の有効性が実証されてきたが、近年、生体内sup-tRNA 療法が飛躍的進歩を遂げている。例えば、脂質ナノ粒子 (LNP) が in vitro で転写された UGA を標的とする sup-tRNA (UGA-sup-tRNA) をマウスの肝臓と肺に送達し、同時に送達した肝臓レポーター mRNA 内の PTC の効率的なリードスルーを媒介できることを示されている [#1] 。Dan Wangらは、組み換えアデノ随伴ウイルス (rAAV) を使用して、ネイティブ・ナンセンス変異を有するハーラー症候群(重症型ムコ多糖症Ⅰ型)マウスモデルに UAG-sup-tRNA 遺伝子を送達する AAV-NoSTOP を報告している [#2 ]。この AAV-NoSTOP は、 rAAVを使用して、内因性tRNAをUAG-sup-tRNAに変換するように設計されたプライム・エディター(PE)を送達し [#3]、同じハーラー症候群マウスモデルにおいて治療効果をもたらした。
ヒト遺伝子変異データベース(HGMD)に記録されている3万件以上のナンセンス変異の中で、CGAアルギニンコドンをUGAに変化させる点変異(Arg-to-UGA)が最も多く、約20%を占めている。これは、DNAのCからTへのトランジッションをもたらすシトシン脱アミノ化という自発的なプロセスが一因である。Arg-to-UGAは、個体数で見るとさらに過剰に表出する。例えば、849個のDMDナンセンス変異を有するデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者2,593人を対象とした研究では、Arg-to-UGAはナンセンス変異の5%を占め、参加者の30%がこのような変異を有していた。したがって、UGAを抑制し、PTCにアルギニンを導入することは、多くの集団に利益をもたらす大きな可能性を秘めている。
Dan Wangらの以前の研究 [#2] では、Hurler症候群のマウスモデルがTAGナンセンス変異を有していることから、概念実証としてUAGを標的とするAAV-NoSTOP遺伝子治療(AAV-NoSTOP(UAG))を開発した。このAAV-NoSTOP(UGA)の開発はいくつかの特有の課題に直面したが、最も顕著なのは、HEK293細胞におけるrAAV産生に対して、恒常的なUGA-sup-tRNA発現が悪影響を与えることであった。これはおそらくUGA-sup-tRNAがrAAV産生に必須の通常のUGA終止コドンを持つ特定のmRNAに影響を与えたためと考えられた。今回は、UGA-sup-tRNAの発現をサイレンシングすることでrAAVの生産を改善している。
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- “Engineered tRNAs suppress nonsense mutations in cells and in vivo” Albers S [..] Sorscher EJ, Chivukula P, Ignatova Z. Nature 2023-05-31. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06133-1
- "AAV-delivered suppressor tRNA overcomes a nonsense mutation in mice" Wang J, Zhang Y, Mendonca CA [..] Wang D. Nature 2022-03-23/Apr. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04533-3
- 2025-11-21 プライム編集にsup-tRNAを組合せたLNP製剤により, 病原性ナンセンス変異を修復することで, 疾患の種類に依らない遺伝子治療を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/39694211.html
[出典]
- "An engineered UGA suppressor tRNA gene for disease-agnostic AAV delivery" Xu M [..] Wang D. Nat Biotechnol. 2026-01-19. https://doi.org/10.1038/s41587-025-02982-5 [所属] University of Massachusetts Chan Medical School (Genetic and Cellular Medicine; Biochemistry and Molecular Biotechnology; Mass Spectrometry Facility; RNA Therapeutics Institute) (米国), Pharmacology/Purdue University
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