Tome Biosciencesは、プライム・エディター(PE)にセリンインテグラーゼを組み合わせることで、大規模なDNA配列をゲノムの任意の位置に挿入可能とし、生体内での遺伝子修正を可能にする技術PASTE(Programmable Addition via Site-specific Targeting Elements) [#1] を開発したOmar AbudayyehとJonathan Gootenbergが共同設立したスタートアップ企業である。同社は設立早々に、Cas9ニッカーゼにDNAリガーゼを組み合わせることで、数十塩基対から数百塩基対の小規模なDNA配列の精密な操作を実現するリガーゼを介したプログラム可能なゲノム統合(Ligase-mediated programmable genomic integration: L-PGI)技術を保有していた非上場バイオテクノロジー企業Replace Therapeutics Inc.を買収し [#2]、PASTEに準拠したインテグラーゼを介したPGIを補完する戦略を進めていた。
[L-PGIの背景・機構・機能]
CRISPR/Cas9システムは、そのガイドRNA配列の一部を変更するだけで簡便にゲノム編集をプログラム可能なことから、ゲノム工学に革命をもたらした。Cas9ヌクレアーゼのDNA二本鎖切断(DSB)誘導をベースにした遺伝子ノックアウトから始まり、Cas9ニッカーゼ(nCas9)や触媒不活性化Cas9(dCas9)など、DSBを回避したより高度なツールが開発されてきた。デアミナーゼと組み合わせたdCas9は、特定の一塩基置換を可能にした塩基エディター(BEs)のベースとなり、また、モロニーマウスレンチウイルス逆転写酵素(MMLV-RT、RT)やPhiC29 DNAポリメラーゼなどの書き込み酵素とnCas9を組み合わせることで、RNAテンプレートやDNAテンプレートからの書き込みにより小規模な修正を可能にするプライム・エディター(PE)やPhi29 DPEが開発された。
しかし、RNAテンプレートからの転写に基づく編集は、長い編集(10ヌクレオチド(nt)を超える)の効率低下や、おそらく細胞内dNTPプールの減少に起因する初代培養細胞でのパフォーマンス低下によって、限界がある。L-PGIは、こ外因性の書き込み酵素に依存しないことで、こうした課題を回避している。
L-PGIでは、nCas9ガイドRNAの標的ではないDNA鎖(非標的鎖)に切り込みを入れると、3’末端にヒドロキシル基が残る [論文Fig. 1 参照]。この基質は逆転写酵素によって伸長するが、DNAリガーゼの適切な基質でもあり、異種DNAドナーが存在する場合はDNA挿入を引き起こす可能性がある。ドナーを事前に合成することで、PEでは課題になる内因性dNTPの利用可能性に関する不確実性が排除され、書き込みが1ステップに簡素化される。
その上で研究チームは、ガイドRNAとドナーRNAを結合させるために、ドナー、リガーゼを介したガイドRNA(ligase-mediated guide RNA: lmgRNA)、そしてゲノム標的部位に結合する3つのハイブリダイゼーションドメインを含むSplint DNAを考案した。これらの3つの相互作用は、nCas9リボ核タンパク質(RNP)の核局在を介したドナーの効率的な送達と、ライゲーションのためのニッキングゲノムフラップへのドナーのアライメントという2つの重要な機能を果たす。また、編集部位から約50~100塩基対(bp)離れた反対鎖を標的とするニッキングガイドRNA(ngRNA)を含めることで効率が向上される。
各オリゴヌクレオチド成分の化学的および配列的最適化により親和性、安定性、および活性が向上し、治療関連遺伝子座における小さな修正(1~3塩基)の効率は、HEK293T細胞では最大52.4%、初代ヒト肝細胞(PHH)では最大66.0%に達し、忠実度(全編集に対するインデルのない編集の割合)は最大100.0%に達した。2つのL-PGIを組み合わせたpL-PGI(paired L-PGI)により、PHHにおける38 bpのBxb1インテグラーゼ認識部位(attB)の配置において、最大82.4%の総効率と62.7%の忠実度が達成された。 pL-PGIを使用してattBを配置すると、インテグラーゼとヘルパー依存性アデノウイルステンプレート(HDAd)を共送達した場合、30キロベース(kb)のトランスジーン・カーゴのオンターゲット組み込み率が14.4%となり、利用可能なattBの59.6%が使用された。
pL-PGIは、重要なin vitroモデルにわたって、プライム編集(PE)と比較して同等か大幅に優れた効率と忠実性をもたらし、さらに、デュアルPEでは2.5%であったのに対し、pL-PGIを使用したマウスでは7.9%のattB配置を示したデータを示し、L-PGIの利点がin vivoでも通用することが実証された。
L-PGIは、忍容性、効力、忠実性が高く、脂質ナノ粒子(LNP)などの治療に関連する送達様式との互換性があるため、遺伝子編集ツールボックスを拡張し、これまではアクセスできなかった疾患の遺伝子治療法の開発を可能にする可能性があると考えられる。
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- crisp_bio 2022-11-29/2024-02-16 CRISPR指向性インテグラーゼを利用して、DSBを誘発することなく、巨大配列のノックイン"ドラッグ・アンド・ドロップ"を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/30891443.html
- "Tome Biosciences Acquires Replace Therapeutics" Tome Biosciences. GlobeNewswire 2024-01-02. https://www.globenewswire.com/news-release/2024/01/02/2802712/0/en/Tome-Biosciences-Acquires-Replace-Therapeutics.html
[出典]
- "Ligase-mediated programmable genomic integration (L-PGI)" Nan AX, Chickering M [..] Halperin S, Finn JD, Xie J. Nat Commun. 2025-10. https://doi.org/10.1038/s41467-025-67255-w [所属] Tome Biosciences Inc (米国), Replace Therapeutics LLC (a direct and wholly owned subsidiary of Tome Biosciences Inc)
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