crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 CRISPR-Casシステムはゲノム編集や病原体検出に革命をもたらしたが、その活性を目的に応じて然るべく制御する技術が求められている。その中で、CRISPR-Cas活性を制御するファージ由来の阻害剤である天然の抗CRISPRタンパク質(Acrs)が注目を集めている。しかしながら、2つのクラス、7つのタイプ、46のサブタイプに及ぶCRISPR-Casシステム [crisp_bio 2025-11-11参照]の多様性に対して、汎用のAcrは極めて稀であり、各CRISPR -Casシステムに対して実用になる抗CRISPR活性を示すAcrsは限られている。特に、RNAを標的とするタイプVI CRISPRのCas13エフェクターに対して検証されたAcrsは3種類(AcrVIA1, AcrVIA2, AcrVIB1) [*] にとどまっている。
 Acrsの限界を克服するため、モナシュ大学とメルボルン大学などのオーストラリアの研究チームは今回、RoseTTAFold-Diffusion (RFdiffusion) [Watson et al., Nature 2023crisp_bio 2023-07-22] によるタンパク質de novo生成と ProteinMPNN [crisp_bio 2022-09-28 [第2項]] による逆フォールディングを利用して、Leptotrichia buccalis (Lbu) CRISPR-Cas13a に対する Acrsを設計・検証し、それらをAIを介したAcrsとしてAIcrsと称した。
 AIcrは、設計と一致する作用機序で機能し、細菌細胞およびヒト細胞で CRISPR-LbuCas13aの活性を強力に阻害することが実証された。
 AIcrs は、これまでのゲノムやメタゲノムからの発見に基づく方法の限界を克服し、遺伝子編集の安全性、有効性、制御性を高める効果的で多用途な阻害剤となる可能性がある。
[出典]
  • "De novo design of potent CRISPR–Cas13 inhibitors" Taveneau C [..] Grinter R, Knott GJ. Nat Chem Biol. 2026-01-26. https://doi.org/10.1038/s41589-025-02136-3 [所属] Monash University (Biochemistry and Molecular Biology; AI Protein Design Program; Chemistry; Microbiology; Biological Sciences; Functional Genomics Platform; )(オーストラリア), Monash Institute of Pharmaceutical Sciences, Peter MacCallum Cancer Centre, The University of Melbourne (Sir Peter MacCallum Department of Oncology; Biochemistry and Pharmacology) 
[LbuCas13a AIcr設計の詳細]
 LbuCas13aの活性を阻害するため、Cas13aエフェクターのHEPNエンドリボヌクレアーゼドメインを標的とする設計を選択した。このドメインは、タイプVI CRISPR-Cas13システム全体で厳密に保存されており、HEPNヌクレアーゼは、相補的な活性化RNA(aRNA)へのcrRNAのハイブリダイゼーションに応答して基質RNAを切断する。RFdiffusion法を用いて、保存されたHEPNヌクレアーゼの活性部位ポケット(残基H473および近位表面アクセス可能な疎水性残基 (V411、V421、およびF995))との相互作用を介してDe novo design of potent CRISPR–Cas13 inhibitors基質RNAの認識を直接阻害するAIcrsを作成するためのタンパク質スキャフォールドを生成した [Figure 2引用右図 a 参照]
 10,000の設計セットから、RFdifuusionのメトリクスと研究チーム独自のメトリクスを組み合わせて96の候補を選択し、そのデザインを多重構造アライメント (multiple-structure alignment: MSTA) により解析した [右図 b 参照]。AIcr デザインは 70~127 aa の長さで極めて多様な構造を示し、複数の混合 αβ デザインと、主に α ヘリックスデザインの関連クラスターが多数存在することが明らかになった。構造的に異なるクラスター間および構造的に関連するクラスター内では、明らかな配列の保存性は認められなかった。最終セットの96AIcr は全て、比較的球状の形状を示し、負に帯電した表面電位 (等電点 3.6~4.9) を持つことが予測された。これは、正に帯電した HEPN ヌクレアーゼに対する設計と一致しており、多くのファージ由来の Acr と類似している。AlphaFold2 予測によると、HEPN 活性部位の形状の相補性に加えて、荷電または疎水性相互作用を介した標的ホットスポットへの関与の多様なメカニズムが示された。
 重要なことに、予測された AIcr 構造を、Foldseek [crisp_bio 2023-06-02] を使用して、タンパク質立体構造データベースおよびAlphaFold Databaseに対して検索したところ、既知のタンパク質との有意な類似性は認められなかった。
 これらの知見は、CRISPR-Cas 機構上の機能的に関連する部位を標的とする非常にコンパクトな Acr 様タンパク質を生成するために AI による設計が有効であることを示している。
[*] 抗CRISPRーCas13タンパク質関連crisp_bio記事]
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