成人で最も多くみられる眼の癌であるぶどう膜黒色腫は、外科的介入と化学療法しか治療法がなく、生存率は50年以上改善されていない。この行き詰まりに対処するため、スタンフォード大学のLei Stanley Qi准教授が率いる研究チームはまず、公開されている遺伝子発現、RNAi、CRISPRノックアウトデータセットを体系的に解析し、ブドウ膜黒色腫に特異的に必須な遺伝子としてRASGRP3を特定した [論文の挿入図の一部引用右下図上段参照]。
RasGRP3はブドウ膜黒色腫細胞で特異的に過剰発現する必須遺伝子であるが、健常細胞には必須ではない。しかし、RasGRP3には標的となる結合ポケットがないため、「アンドラッガブル(創薬不可能)」である。そこで、研究チームはこの状況を克服するため、RasGRP3 mRNAを特異的にノックダウンするCRISPR-Cas13d RNA標的治療薬を開発した。
このCas13dをベースとした治療法は、2つの相乗的なメカニズム、すなわち(i)必須RasGRP3転写産物の直接的なサイレンシング、および(ii)過剰発現したRasGRP3の切断によって引き起こされるRNAの非選択的トランス切断(コラレラル活性)分解を介して、ぶどう膜黒色腫細胞を選択的に死滅させる [論文の挿入図の一部引用右上図下段参照]。
Cas13d mRNAとガイドRNAをコードする最適化された脂質ナノ粒子を介して送達されたこの戦略は、網膜色素上皮細胞を含む健常細胞を温存しながら、ぶどう膜黒色腫細胞の97%以上を除去した。
こうして、ぶどう膜黒色腫に対して、永続的なゲノム変化を引き起こすことなく、従来のCas9法やsiRNA法よりも高い効力を示すRNA標的治療法を確立するとともに、幅広い「創薬不可能な」がんに対するCas13dをベースとした介入の枠組みを確立するに至った。
[出典]
- "CRISPR-Cas13d-Mediated Targeting of a Context-Specific Essential Gene Enables Selective Elimination of Uveal Melanoma" Stauber D [..] Myung D, Qi LS. bioRxiv 2025-08-21 (preprint). https://doi.org/10.1101/2025.08.21.671629 [所属] Stanford University (Bioengineering; Sarafan ChEM-H; Chemical Engineering) (米国), Byers Eye Institute at Stanford University, VA Palo Alto HealthCare System, Chan Zuckerberg Biohub – San Francisco, UC Berkeley (Innovative Genomics Institute; Bioengineering)
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