CRISPR/Cas9 GEは遺伝性網膜疾患(IRD)の治療に有望であるが、精密なエディターを安全かつ効率的に眼に送達することが、依然として課題となっている。今回、カリフォルニア大学アーバイン校のKrzysztof Palczewski教授とケース・ウェスタン・リザーブ大学のGregory P. Tochtrop教授を責任著者とするNature Communications 誌刊行論文で、タンパク質に吸着するクマシーブリリアントブルー(Coomassie brilliant blue:CBB)を組み込んだ脂質様合成分子(リピドイド / lipdoid (lipid-like materials)) [#] によって、この課題を解決可能なことが紹介されている。
[詳細]
リピドイドは、受容体を介したエンドサイトーシス、脂質二重層との相互作用、そして酸性化エンドソームにおける相転移を介した膜透過、カーゴの放出、エンドソームからの脱出を促進する脂質ベース粒子の主要成分として開発されてきた [Zhang Y et al., Chemical Reviews 2021]。しかし、リピドイドはタンパク質と特異的な相互作用を示さないことから、研究チームは、脂質とタンパク質の相互作用を可能にするために、
リピドイドにCBBのタンパク質結合ドメイン (Protein Binding Domain)を組み込むアプローチを試みた [Figure 1引用右図参照]。
リピドイドにCBBのタンパク質結合ドメイン (Protein Binding Domain)を組み込むアプローチを試みた [Figure 1引用右図参照]。 クリックケミストリーとスルホンアミド結合により、CBB誘導体のライブラリーを迅速に合成し、これらのCBB誘導体が、in vitroおよびin vivoでゲノム編集タンパク質(Cre)およびアデニン塩基エディター(ABE)のRNPでの送達を強化する能力を評価した。初期の成功を受けて、CBBリピドイドを、リポソーム*に組み込むことで、in vivo遺伝性網膜疾患(IRD)マウスモデルrd12において効率的な編集の実現に向けて、このアプローチをさらに改良した。
[*] イオン化脂質、リン脂質、コレステロール、およびPEGで構成
これらのリピドイドと複合体を形成したCreをmT/mGマウス(Membrane-targeted Tomato/Green Fluorescent Protein)の網膜下に注入すると、網膜色素上皮細胞と光受容体において強力な組換えが引き起こされた。
ABE-RNPの送達では、CBBリピドイドをリポソームに組み込んだことで送達効率ひいては編集効率が向上した。中でもCBB誘導体11は、RNP単独と比較して塩基編集効果を120倍に増強し、rd12マウスモデルにおいて暗所ERG (Scoptopic ERG) b波反応を回復させた。
これらの結果は、CBBを介したリポソーム-RNPシステムが眼における治療用遺伝子編集に有効であることが実証され、IRD治療のための単回投与の精密医薬品への道が開かれたことを意味する。
[CBBリピドイドの特徴]
このアプローチは脂質ナノ粒子(LNP)とは異なり、内部にタンパク質を含まずにCBBリポソームを形成し、それを中性水性懸濁液として使用して、中性pHで有機溶媒を使用せずにカーゴを複合化する。
CBBリピドイドはCBBとタンパク質との相互作用に依存するため、リコンビナーゼ(Cre、Bxb1)、ゲノム編集タンパク質(ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN)、ゲノム編集RNP(Cas9、ABE、PEなど)を含むあらゆる種類のタンパク質の送達に展開可能である。
また、CBB-タンパク質相互作用およびイオン性脂質-ガイドRNA相互作用を介して相乗的なRNP複合化を達成するためにイオン性脂質を組み込むことで、CBBリポソームのRNP送達における可能性が最大限に引き出される。
[#] リピドイド関連crisp_bio記事と論文
- 2008-04-27 "A combinatorial library of lipid-like materials for delivery of RNAi therapeutics" Akinc A [..] Anderson DG. Nat Biotechnol. 2008-04-27/May. https://doi.org/10.1038/nbt1402
- 2018-07-31 "Intracellular delivery and biodistribution study of CRISPR/Cas9 ribonucleoprotein loaded bioreducible lipidoid nanoparticles" Li Y, Bolinger J, Yu Y, Glass Z, Shi N, Yang L, Wang M, Xu Q. Biomater Sci. 2018 Jul 31. https://dx.doi.org/10.1039/C8BM00637G
- 2025-07-20 (crisp_bio) 動的共有結合脂質ナノ粒子は、マウスの脈絡膜新生血管に対するCRISPR-Cas9ゲノム編集を媒介する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38961393.html
[出典]
- "A combinatorial synthetic strategy for developing genome-editing protein-delivery agents targeting mouse retina" Zhang J, Hołubowicz R [..] Tochtrop GP, Palczewski L. Nat Commun. 2026-02-07. https://doi.org/10.1038/s41467-026-69077-w [所属] UC Irvine (Gavin Herbert Eye Institute – Brunson Center for Translational Vision Research; Physiology and Biophysics; Chemistry; Molecular Biology and Biochemistry; Materials Research Institute) (米国), Case Western Reserve University (Chemistry), Polgenix Inc, Broad Institute of MIT and Harvard (Merkin Institute for Transformative Technologies in Healthcare), Harvard University (Chemistry and Chemical Biolog; HHMI), MIT (David H. Koch Institute for Integrative Cancer Research), Wroclaw University of Science and Technology ( Biochemistry, Molecular Biology and Biotechnology,) (ポーランド)
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