DMDは、ジストロフィンタンパク質をコードするDMD 遺伝子の病原性変異によって引き起こされる重篤なX連鎖遺伝性疾患である。機能的なジストロフィンの欠損は、ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(dystrophin-associated glycoprotein complex : DAPC)の不安定化、筋線維鞘の損傷、そして筋線維の進行性変性を引き起こす。現在の治療戦略は、ゲノム編集(GE)を介したジストロフィン発現の回復に重点が置かれている。
GEにあたっては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが、筋組織への強い親和性、低い免疫原性、そして長期的な遺伝子発現を可能にすることから、主要な送達プラットフォームとして利用されている。しかし、AAVのパッケージング容量は限られている(約4.7 kb)ことから、GEシステムとして、短縮型ミニ-またはマイクロ-ジストロフィンと、コンパクトなGEエフェクター(SaCas9、NmeCas9、Cas12f、TIGR-Tas など)が選択されることになる。
AAV送達プラットフォームの主要な課題として、容量制限に加えて、ウイルスカプシドおよびトランスジーン産物に対する免疫応答、中和抗体の発現により反復投与が不可能なことが挙げられる。また、
ベクターとしての持続性と持続的な遺伝子発現に関する課題もある [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。
ベクターとしての持続性と持続的な遺伝子発現に関する課題もある [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。 AAVベクターは宿主ゲノムに組み込まれるのではなく、主にエピソームの形で核内に残存する。AAVベクターは複製機構を欠いているため、増殖細胞集団において、有糸分裂希釈により細胞あたりのコピー数は時間の経過とともに徐々に減少する。したがって、活発に分裂する細胞集団の修正を必要とする疾患において、反復投与を避けなければなら中で、AAVを介した遺伝子導入は必ずしも持続的な臨床的利益が保証されない。
骨格筋、特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の病態においては、状況は複雑である。生理的な筋再生は、サテライト細胞(筋サテライト)と損傷した筋線維の融合によって起こる。一方、新しい線維の形成は、効率的な遺伝子導入が限られている可能性のある筋原性前駆細胞の増殖と分化に依存する。これらの観察結果に基づき、筋再生の各サイクルにおいて、治療用遺伝子を保有する筋芽細胞が、遺伝子導入されていないサテライト細胞と融合するにつれて、徐々に希釈化される可能性があるという仮説が立てられている。このプロセスは、マイクロ-ジストロフィンをコードするエピソームAAV DNAの喪失に徐々につながり、結果として、ジストロフィンの発現が時間とともに低下し、最終的に疾患の進行を再開させると考えられる。
しかしながら、いくつかの研究において、AAVベクターは非分裂組織または極めてゆっくりと増殖する組織において、長期にわたる遺伝子発現を維持できることが実証されている。マイクロ-ジストロフィン遺伝子置換療法においては、再生中の骨格筋におけるエピソームの漸進的な減少を考慮すると、生涯にわたる効果をもたらすわけではないが、この持続性は長期的な治療効果をもたらす可能性がある。一方で、AAVベクターを用いてCRISPR関連ヌクレアーゼなどのゲノム編集システムの構成要素を送達する場合、同じ特性が重大な安全性上の懸念を引き起こす。これらの高活性酵素タンパク質を細胞内で長期間発現させることは、標的外のゲノム改変のリスクが高まり、ゲノム不安定性、がん遺伝子の活性化、または腫瘍抑制遺伝子の不活性化につながるというリスクを伴う。
AAVを介したトランスジーン発現の基本メカニズムは、重大なパラドックスを体現している。その安定性の限界は遺伝子置換療法の長期的な有効性を損なう可能性がある一方で、その持続時間が長すぎると、持続的なヌクレアーゼ活性のためにゲノム編集の適用が潜在的に危険になる可能性がある。したがって、AAVをベースとした介入においては、治療持続性とゲノム安全性のバランスを最適化することが、課題となる。
こうしてAAV GEには大きな進歩があったにもかかわらず、AAV-DMD療法には、安全性、免疫原性、遺伝子修正の安定性に関する未解決の問題が残っている。
[出典]
- REVIEW "The Promise and Pitfalls of AAV-Mediated Gene Therapy for Duchenne Muscular Dystrophy" Kurshakova EV, Levchenko OA, Smirnikhina SA, Lavrov AV. Curr Issues Mol Biol. 2025-12-17. https://doi.org/10.3390/cimb47121058 [所属] Research Centre for Medical Genetics (ロシア)
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