これまでのワクチンは全て、病原体の弱毒化または無毒化した病原体の一部あるいは、mRNAワクチンのようにウイルスのタンパク質をコードした遺伝情報を利用することから、病原体とその変異体ごとに、設計・製造する必要があった。スタンフォード大学医学部のBali Pulendran教授(スリランカ出身) が責任著者のScience 論文では、自然免疫応答を誘導するToll様受容体(TLR)4および7/8のアゴニストGLA(Glucopyranosyl Lipid A)と3M-052(telratolimod)に、適応免疫応答を誘導する抗原として機能するニワトリノ卵白に含まれるオボアルブミン(OVA)を組み合わせた経鼻リポソーム製剤"GLA-3M-052-LS+OVA"が、ほぼユニバーサルなワクチンとして機能することを紹介している。
その鼻腔にGLA-3M-052-LS+OVAワクチンを1滴投与されたマウスは、少なくとも3ヶ月、コロナウイルス(SARS-CoV-1, SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス) , SCH014-CoV)、細菌(院内感染で問題になっている黄色ブドウ球菌とアシネトバクター・バウマニ)、さらにはハウスダストに由来するアレルゲンから防御された。
この防御機構は、TLRを介した自然免疫応答と、持続的に存在し、肺胞マクロファージ(AM)に刷り込まれたオボアルブミン特異的CD4+およびCD8+メモリーT細胞によって媒介され、抗原提示と抗ウイルス免疫の双方を増強する。すなわち、ワクチン接種を受けたマウスは、病原体の感染に対して、自然免疫に続いて、病原体特異的T細胞および抗体応答を迅速に開始し、肺に異所性リンパ組織構造を形成する。
これらの結果は、多様な呼吸器系への脅威に対する「ユニバーサルワクチン」の可能性を示している。
[補足]
自然免疫は通常数日間しか持続しないとされているが、特定の状況ではより長く持続することが知られていた。最も研究されている例は、毎年約1億人の新生児に接種されているBCGワクチンである。疫学研究と臨床研究では、このワクチンが他の感染症による乳児死亡率を低下させることが示されており、交差防御効果が数ヶ月持続する可能性があることが示唆されていた。しかし、複数の報告のデータが必ずしも一貫しておらず、また、その機構も不明なままであった。
2023年にPulendran教授らは [Nat Immunl, 2024] 、マウスにおいて、BCGワクチンが自然免疫と獲得免疫の双方を誘発し、しかも、自然免疫は数ヶ月にわたって持続することを確認した。さらに、獲得免疫の一部として肺に動員されたT細胞が、自然免疫細胞を活性化させるためのシグナルを送ることで、自然免疫応答も長期間継続するという機構を同定した。
2023年にPulendran教授らは [Nat Immunl, 2024] 、マウスにおいて、BCGワクチンが自然免疫と獲得免疫の双方を誘発し、しかも、自然免疫は数ヶ月にわたって持続することを確認した。さらに、獲得免疫の一部として肺に動員されたT細胞が、自然免疫細胞を活性化させるためのシグナルを送ることで、自然免疫応答も長期間継続するという機構を同定した。
研究チームは、GLA-3M-052-LS+OVAの開発は、この天然のデュアル免疫応答を模すところから始まったとしている。
[出典]
- ニュース "‘Universal vaccine’ protects mice against multiple pathogens" Drew L. Nature 2026-02-19. https://doi.org/10.1038/d41586-026-00506-y
- ニュース "One vaccine may provide broad protection against many respiratory infections and allergens" Bai N. Stanford Medicine. 2026-02-19. https://med.stanford.edu/news/all-news/2026/02/universal-vaccine.html
- 論文 "Mucosal vaccination in mice provides protection from diverse respiratory threats" Zhang H [..] Pulendran B. Science. 2026-02-19. https://doi.org/10.1126/science.aea1260 [所属] Stanford University School of Medicine (Institute for Immunity, Transplantation and Infection; Dept Pathology; Dept Microbiology and Immunology) (米国), Emory University School of Medicine (Center for Childhood Infections and Vaccines of Children's Healthcare of Atlanta), University of North Carolina at Chapel Hill (Dept Epidemiology), Access to Advanced Health Institute (AAHI), University of Washington (Dept Global Health), University of Arizona (Dept Immunobiology)
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- 2023-08-01 CRISPRにより加工したT4バクテリオファージのナノ粒子は、インフルエンザに対する粘膜ワクチンの迅速開発に利用可能な多用途プラットフォームである. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32933211.html
- 2023-10-23 次世代の経鼻三価ワクチンがサーズウイルス2の懸念される変異株 (VOCs) に対する安定かつ広域な保護を実現. https://crisp-bio.blog.jp/archives/33536663.html
- 2024-02-21 若年成人に対するSARS-CoV-2感染チャレンジにより, 感染早期における粘膜免疫と全身性免疫の応答を探った. https://crisp-bio.blog.jp/archives/35059417.html
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