昆虫が光周期のシグナルを用いて季節変化を予測し、発生、休眠、生殖といった重要な生活史イベントを制御する光周性の分子基盤は、未だ十分に解明されていない。特に、半変態昆虫における光周性の分子メカニズムに関する研究は、主として適切なモデル生物が不足していることから、完全変態昆虫の研究に比べて限られている。その中で、マダラスズ (Dianemobius nigrofasciatus )は、胚休眠の母性誘導、翅形態、そして幼虫の発育速度において明確な光周性反応を示すため、貴重なモデル系である。近年、D. nigrofasciatus のゲノム配列が公開されたことで、効果的なゲノム編集法と信頼性の高いマーカー遺伝子の確立が、機能ゲノム解析の促進に期待されていた。
大阪公立大学の清水悠太特任助教と東京農工大学/早稲田大学片岡孝介准教授は今回、DIPA (Direct parental)-CRISPRゲノム編集法を利用して、昆虫の目で生じる生体色素であるオモクロームの合成に関与する遺伝子であるvermilion(Dn-v )をノックアウトすることで、変異体スクリーニングのための可視眼色マーカーを生成することに成功した。すなわち、SpyCas9-sgRNAリボ核タンパク質複合体を、成虫羽化後3~5日、卵黄形成期の雌に注入することで、Dn-vノックアウト変異体を得ることに成功した。これらの変異体は発生過程を通じて白色複眼を有し、成虫羽化後約20日で vermilionに達した。
続いて、ノックアウト変異体における母体休眠誘導に関連する光周期反応について検討した。野生型と同様に、ノックアウト変異体は長日条件下では休眠率が低く、短日条件下では休眠率が高くなった。
こうして、DIPA-CRISPRが半変態昆虫D. nigrofasciatus において効果的なゲノム編集法であり、Dn-v が実用的かつ信頼性の高いマーカー遺伝子として機能することが示された。
[出典]
- "DIPA-CRISPR Mediated Knockout of Vermilion Generates a Visible Eye Color Marker for The Band-Legged Ground Cricket Dianemobius nigrofasciatus " Shimizu Y, Kataoka K. Arch Insect Biochem Physiol. 2026-02-19. https://doi.org/10.1002/arch.70135 [所属] 大阪公立大学, 東京農工大学, 早稲田大学総合研究機構
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