サンゴ礁は、地球上で最も生物多様性に富み、生産性*の高い生態系の一つである [* 生態学では、ある生態系においてバイオマスが生産される程度を意味する]。しかしながら、サンゴは現在、気候変動によって引き起こされる海水温上昇の脅威にさらされている。これらの脆弱な生態系の重要性は周知の事実であるにもかかわらず、機能解析のための遺伝学的ツールの不足により、生態学的に重要な形質を駆動する分子メカニズムの理解は限定的であった。
カーネギー研究所/ジョンズ・ホプキンス大学/マッコーリー大学兼任のPhillip Cleves博士(2026年1月からUC Berekeley Molecular and Cell Biology教授)が率いた米国とオーストラリアの研究チームはこの制約に対処するため、CRISPR-Cas9を基盤とした突然変異誘発法を用いて、サンゴの遺伝子改変を行い、様々な生活史ステージを通じて遺伝子機能を研究するための、簡便かつ効率的なプロトコルを確立した。
このプロトコルでは、まず、季節的な産卵期に
ハイマツミドリイシ(Acropora millepora)[右図参照] から配偶子を産卵させ、採取する方法を説明する。次に、CRISPR-Cas9システムを用いて単細胞サンゴ接合子にマイクロインジェクションを行う方法を説明する。効果的なsgRNAの設計、注入に成功した個体の同定方法、変異幼生および稚魚の飼育戦略、そしてゲノム改変の検出と定量化に関する考察を取り上げる。
ハイマツミドリイシ(Acropora millepora)[右図参照] から配偶子を産卵させ、採取する方法を説明する。次に、CRISPR-Cas9システムを用いて単細胞サンゴ接合子にマイクロインジェクションを行う方法を説明する。効果的なsgRNAの設計、注入に成功した個体の同定方法、変異幼生および稚魚の飼育戦略、そしてゲノム改変の検出と定量化に関する考察を取り上げる。 このプロトコルは完了までに約2~4週間を要するが、現在、サンゴにおいて遺伝子編集を行う唯一の方法でいる。また、サンゴの幼生における耐熱性や稚魚における骨格形成を制御する遺伝子の研究に成功裏に適用されている。
これらの技術的進歩は、共生関係の確立や熱ストレスによる共生の崩壊など、サンゴにおける生態学的に重要な形質を研究するための逆遺伝学を用いた新たな分野の基礎を築いた。
[背景補足]
サンゴ礁危機(気候変動やその他の要因によるサンゴ礁生態系の急速な喪失)は、現代の最も緊急の環境課題の一つである。過去10年間、ハイスループット・オミックスにより、サンゴの白化、病気、骨格の成長に伴う転写、エピジェネティック、代謝のシグネチャーがカタログ化されてきた。しかし、遺伝子を直接操作する手段がないため、これらのデータセットは主に記述的なものにとどまり、相関関係と因果関係の間に重大なギャップが残っている。イソギンチャクやヒドロ虫類を含む他の刺胞動物の実験では、後生動物の初期進化や光共生のいくつかの側面に関する重要な情報が得られてはいる。しかし、これらの種は炭酸カルシウムの骨格を分泌しないため、これらの研究からは、骨格分泌の観点から見た光合成を行う生物が別の生物と共生する光共生の維持と崩壊、および生物が鉱物を作り出すバイオミネラリゼーションのメカニズムに関する疑問に取り組むことができなかった。このプロトコルは、サンゴ礁を形成するサンゴのための、その場で適用できる完全な逆遺伝学ワークフローを、初めて提供した。
[出典]
- 論文 "Efficient genome editing using CRISPR–Cas9 in reef-building corals" Tinoco AI [..] Cleaves PA. Nat Protoc. 2026-03-02. https://doi.org/10.1038/s41596-025-01293-y [所属] Carnegie Science (Dept Embryology) (米国), Johns Hopkins University, Macquarie University (オーストラリア)
- News & Views "A new era for coral functional genomics - A protocol reports a complete, field-ready reverse genetics workflow for reef-building corals." Baums IB. Nat Protoc. 2026-03-02. https://doi.org/10.1038/s41596-026-01345-x
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