DNAのノンコーディング領域における調節因子のスクリーニングは、しばしばヌクレオチドレベルの解像度を欠いている。今回、Harvard Stem Cell InstituteのDaniel E. Bauer HMS准教授、St. Anna Children’s Cancer Research InstituteのPIであるDavide Seruggia博士、並びにHarvard Medical SchoolのLuca Pinello准教授を共同責任著者とする Nature Communications 誌刊行論文で、調節因子のバリアントを1ヌクレオチドの解像度でマッピングし、白血病の免疫療法の標的である CD19 の発現を調節し、CAR-T療法に対する耐性をもたらすエンハンサーのバリアントの特定するに至ったCRISPRタイリングスクリーニングのフレームワークが紹介されている。
[詳細]
ガイドRNA(gRNA)のライブラリーを利用して、関心のあるゲノム領域全域に摂動を加え、それが細胞の適応度をはじめとする表現型に及ぼす影響を見るCRISPRタイリングスクリーンは、コーディング領域に続いてノンコーディング領域にも展開され、調節因子の同定と機能解析を大きく前進させた。しかし、従来のガイドRNAのシーケンシングとエンリッチメント解析による読み出しは間接的であり、解析結果が個々のgRNAの編集効率によって大きく左右されることもあり、解析の解像度がヌクレオチドレベルに至らなかった。
研究チームは、フローサイトメトリーとバルク・アレル・アンプリコンシーケンシングを用いて、重要な調節因子であるエンハンサー内の重要なヌクレオチドを高解像度でマッピングする手法を開発した。
はじめに、CD19プロモーターへのアクセス性と近接性のエピジェネティックなマークに基づいて、CD19エンハンサーを同定し、実験的に検証した。当該領域をタイリングする200個のgRNAのライブラリーを設計し、小児B-ALL細胞株であるNALM6細胞においてシトシン塩基エディター(evoCDA)とアデニン塩基エディター(ABE8e-SpRY)を併用したスクリーニングを行った。evoCDAは-NGG近位配列によって制限されるが、ABE8e-SpRY塩基エディターはSpRYをベースとしたことでPAM要件が緩和され、CD19エンハンサーに高密度に編集を導入する。また、evoCDAは擬似エディターであり、主にCからTへの置換に加えて、さまざまな種類のCからNへの置換や短いインデルを導入し、それによって対立遺伝子の多様性を高め、ABE8eは専らAからGへの置換を行う。
gRNAを0.3 MOIで導入した後、効率的な編集と表現型の発達を促すため、細胞を7日間培養し、続いて蛍光標識抗体で細胞を染色し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を3回実施して、細胞を「CD19陽性」と「CD19陰性」の集団に分類した。ゲーティングとソーティングでは、AAVS1 遺伝子座をネガティブコントロールとして、CD19エクソン2スプライスアクセプター部位をポジティブコントロールとして標的とした。CD19陽性およびCD19陰性のソーティング済みサンプルの両方について、抽出したゲノムDNAを分割し、gRNAカセットと内因性標的領域の両方の標的シーケンシングを行った。
続いて、CRISPRタイリング・スクリーニング・データから調節因子を発見するin silicoツール CRISPR-SURF [CRISPRメモ_2018/06/15 - 第3項] を用いて解析した標準的なgRNAカウントベースのCRISPRスクリーニングと、アレルの直接シーケンシングを読み出しとするスクリーニングを比較した。一塩基分解能を達成するためにCRISPR-Millipedeを開発し、機能的に重要なアレルを同定するために DESeq2 [Love et al., Genome Biol. 2014] を改良した。
また、緩いPAM要件を持つ塩基エディターの特徴であり、プール型スクリーニングにおける交絡因子であるgRNAカセットにおける"self-editing"に対処するため、CRISPR-Correct も開発した。これは、gRNAカセットにおける置換を補正し、gRNAカウントの回収率と検出力を向上させ、さらにシーケンシングまたは増幅エラーによるgRNAのミスマッピングを捕捉する手法である。CRISPR-Correctによって、evoCDA CD19陽性およびCD19陰性サンプル全体でgRNAのリード数が平均13.6%~16.6%増加し、ABE8e-SpRY CD19陽性およびCD19陰性サンプル全体でgRNAのリード数は平均26.5%~41.5%増加した。
続いて、CRISPRタイリング・スクリーニング・データから調節因子を発見するin silicoツール CRISPR-SURF [CRISPRメモ_2018/06/15 - 第3項] を用いて解析した標準的なgRNAカウントベースのCRISPRスクリーニングと、アレルの直接シーケンシングを読み出しとするスクリーニングを比較した。一塩基分解能を達成するためにCRISPR-Millipedeを開発し、機能的に重要なアレルを同定するために DESeq2 [Love et al., Genome Biol. 2014] を改良した。
また、緩いPAM要件を持つ塩基エディターの特徴であり、プール型スクリーニングにおける交絡因子であるgRNAカセットにおける"self-editing"に対処するため、CRISPR-Correct も開発した。これは、gRNAカセットにおける置換を補正し、gRNAカウントの回収率と検出力を向上させ、さらにシーケンシングまたは増幅エラーによるgRNAのミスマッピングを捕捉する手法である。CRISPR-Correctによって、evoCDA CD19陽性およびCD19陰性サンプル全体でgRNAのリード数が平均13.6%~16.6%増加し、ABE8e-SpRY CD19陽性およびCD19陰性サンプル全体でgRNAのリード数は平均26.5%~41.5%増加した。
これらの高密度データセットの解釈を容易にし、上位にランクされたヌクレオチドに対応する転写因子結合サイト(TFBS)の同定を支援するための可視化ツールも開発した。gRNAと塩基エディターの直交的な組み合わせを用いた検証実験により、MYB、PAX5、およびEBF1のモチーフにおける置換(機能破壊)が、CD19の発現を低下させるトランス調節機能を発揮することが確認された。最後に、このような2つのモチーフを標的としたaCD19 CAR-T療法に対する耐性を観察し、特定されたヌクレオチドがCD19発現を促進し、標的療法への反応に影響を与える上で重要であることを確認した。すなわち、ノンコーディング領域におけるバリアントが免疫療法に対する耐性を促進する機構を捉えることに成功した。
こうして、実験的要素と計算的要素の両方を統合することで、CRISPR-Millipedeによる原因となる変異の同定とDESeq2による重要な対立遺伝子の同定を可能にする、完全なエンドツーエンドのパイプラインが確立された。
このパイプラインは、単一細胞シーケンシングの労力、費用、複雑さなしに実現でき、スケーラブルである。一方で、限界もある。各細胞の二倍体遺伝子型を決定できないことである。アンプリコンシーケンシングでは、どの変異が同じDNA分子上にシス配列で共存しているかは明らかになるが、細胞が単一の編集(ヘテロ接合性)、両方の染色体に同じ編集(ホモ接合性)、または各染色体に異なる編集(複合ヘテロ接合性)を持っているかどうかを区別することができない。この不確実性は、観測されるアレル・エンリッチメント・スコアにノイズをもたらす可能性がある。
[出典]
- "Nucleotide-resolution mapping of regulatory elements via allelic readout of tiled base editing" Becerra B, Wittibschlager S, Patel ZM [..] Bauer DE, Seruggia D, Pinello L. Nat Commun. 2026-03-03. https://doi.org/10.1038/s41467-026-69918-8 [所属]Harvard Medical School (Bioinformatics and Integrative Genomics PhD Program; Dept Pathology; Dept Pediatrics) (米国), Broad Institute of MIT and Harvard (Gene Regulation Observatory, Massachusetts General Hospital Research Institute (Molecular Pathology Unit), Massachusetts General Hospital (Dept Pathology), Boston Children’s Hospital (Division of Hematology/Oncology), Dana–Farber Cancer Institute (Dept Pediatric Oncology), Harvard Stem Cell Institute, University of North Carolina at Chapel Hill (Dept Biostatistics; Dept Genetics), St. Anna Children’s Cancer Research Institute (オーストリア), CeMM Research Center for Molecular Medicine of the Austrian Academy of Sciences, Christian Doppler Laboratory for Next Generation CAR T Cells
- [参考] プレプリント "CRISPR-CLEAR: Nucleotide-Resolution Mapping of Regulatory Elements via Allelic Readout of Tiled Base Editing" bioRxiv 2024-09-09. https://doi.org/10.1101/2024.09.09.612085
[参考] 調節エレメントスクリーニング関連crisp_bio記事
- CRISPR関連文献メモ_2017/07/05 [第6項] 遠位の転写をプロモート
- CRISPRメモ_2018/06/15 [第3 項] CRISPR-SURF:多様なCRISPRタイリング・スクリーニング・データから、調節エレメントを発見する.
- 2022-06-04/2022-08-15 遺伝子のシスエレメントを標的とする塩基エディターCBEを介して遺伝子発現を制御 - ハンチンチン (HTT)遺伝子の例.
- 2024-06-27 SpRYによる飽和変異導入とSpRY-BEsによる塩基編集を介して広範な非コード配列の機能解析を1塩基分解能で実現
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