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 SLiM(Short Linear Motif / 短鎖線状モチーフ)は、molecular recognition features (MoRFs)、molecular recognition elements (MREs)、または、eukaryotic linear motifs (ELMs) とも呼ばれ、重要でありながら十分に解明されていないタンパク質相互作用モジュールのクラスであり、ヒトインタラクトームにおける最大の未解明部分を構成していると考えらている[Davey et al., Curr Opin Struct Biol 2023]
 SLiMは、安定な三次元構造をとらないタンパク質セグメントである天然変性領域(intrinsically disordered regions: IDRs)に存在し、結合状態ではしばしば安定な二次構造を形成する。 SLiMは約10アミノ酸の短い配列にコードされており、そのうち2~4残基が重要な結合決定因子として機能し、結合パートナーと直接相互作用する。
 結合パートナーとしては、最も一般的には球状タンパク質ドメイン [出典Fig. 1 a, b参照が挙げらるが、DNA、RNA、脂質膜なども挙げられる。これらの界面はコンパクトなため、SLiMは通常、低マイクロモル親和性で結合し、動的で条件付きながらも特異的なタンパク質相互作用を媒介する。SLiMのシンプルな結合決定因子は、ランダム変異を介した進化による無からのモチーフ生成を促進する。同様に、SLiMの機能は単一アミノ酸置換によって容易に撹乱され、これがヒト疾患の一因となる可能性がある。SLiMを介した相互作用のユニークな特性は、細胞における動的複合体の組み立ての駆動、修飾酵素のリクルート、タンパク質安定性の制御、細胞内局在のエンコードなど、重要な細胞機能を支える多様な役割を担っている
 今回、SLiMのプロテオームワイド・マッピングが、コペンハーゲン大学のJakob Nilsson教授ならびにロンドン大学癌研究所/セントジュード小児研究病院のNorman E. Davey博士を責任著者とするNature Structural & Molecular Biology誌刊行論文から紹介された。
 研究チームは、SLiM機能を体系的に評価するために、報告済みのSLiMすべてと、SLiMに類似した進化パターンによって定義されるin silico予測SLiMのセットを塩基エディター(BE3.9maxとABE8e)により変異させた。 
  • HAP1細胞において、80,473の変異を有する7,293のSLiM含有領域に、塩基エディターを介して変異を導入するスクリーニングにより、プロテオームワイドのSLiM依存性マップを作成した。
  • このマップには、正常な細胞増殖に必要な714の必須SLiMモチーフ (450の既報SLiMモチーフと264の予測SLiMモチーフ)が含まれている。
  • 必須SLiMのうち、104個は、モチーフ内またはすぐ隣接する領域(±3残基)に、報告されている病原性変異(585個の変異、うち378個はミスセンス変異)を含んでいた。
  • 多数の未解析の必須SLiMの中で、病原性変異に関与し既存のモチーフファミリーに属していない「mRNA結合タンパク質ANKRD17に存在するPIGTER2426–2431モチーフ」に注目して解析を深め、神経発達症候群を引き起こすANKRD17の変異に依ってCCR4-NOT複合体へのSLiMを介した結合が破壊されるメカニズムを同定した。
  • HAP1細胞スクリーニングの結果は、RPE1細胞において高い再現性を示し、その差異は細胞株に特異的な必須遺伝子に起因していた。
 こうして今回、細胞恒常性におけるSLiM機能の理解に役立つ重要なリソースが確立された。

[出典]
  • "A proteome-wide dependency map of protein interaction motifs" Ambjørn SM, Meeusen B [..] Davey NE, Nilsson J. Nat Struct Mol Biol 2026-03-06. https://doi.org/10.1038/s41594-026-01762-2 [所属] Danish Cancer Institute (Center for Epigenetic Cell Memory) (デンマーク),  University of Copenhagen (Novo Nordisk Foundation Center for Protein Research), The Institute of Cancer Research (Division of Cancer Biology) (英国), St. Jude Children’s Research Hospital (Dept  Cell and Molecular Biology) (米国)
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