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 ヘテロクロマチンは転写機構へのアクセスが困難であることが特徴であり、ヒストンマーカーH3K9me3と関連している。しかしながら、ヒト細胞におけるヘテロクロマチン喪失の機能的影響を研究することは困難であった。ルンド大学(スウェーデン)のJohan Jakobsson教授が率いる研究チームは今回、CRISPRiを利用して、ヒストンメチルトランスフェラーゼSETDB1をサイレンシングすることで、ヒト神経前駆細胞におけるH3K9me3ヘテロクロマチンを除去し、その影響を解析した。
  • H3K9me3ピークの大幅な喪失によりヘテロクロマチンドメインのゲノムワイドな再編成がもたらされた。
  • しかし、SETDB1のサイレンシングは細胞生存率への影響は限定的であった。細胞は増殖能を維持し、然るべきマーカー遺伝子を発現した。
  • Loss of SETDB1-mediated Figure 1一方で、SETDB1を介したH3K9me3の喪失は、進化的に若いL1レトロトランスポゾン [Figure 1 D引用右図参照] の転写活性化をもたらした。この活性化は、同じ領域におけるCpG DNAメチル化の喪失と相関していた Loss of SETDB1-mediated GA[グラフィカルアブストラクト引用右下図参照]
 これらの知見は、SETDB1依存性H3K9me3とヒト神経細胞におけるL1レトロトランスポゾンのサイレンシングとの間に直接的な関連性を確立するものであり、SETDB1が適切な遺伝子制御とゲノムの完全性に不可欠なことを示唆している。

[注1] この研究では、着床後胚発生においてDNAメチル化やその他のヘテロクロマチン構造が完全に再構築された時点である受精後6週の胎児脳由来のヒト神経前駆細胞株が用いられた。 

[注2] L1転写はほとんどのヒト体細胞組織でサイレンシングされている。最近の多くの研究*は、L1の発現増加が老化やその他の加齢関連細胞表現型と相関していることを示しており、L1の異常な転写が老化や関連する疾患プロセスに関連する可能性を示唆している。H3K9me3欠損神経前駆細胞はヒト脳老化モデルとしては明らかな限界があるが、今回、H3K9me3の維持喪失後に起こる重要なイベントがL1の転写活性化であることが示された。
[出典]
  • "Loss of SETDB1-mediated H3K9me3 in human neural progenitor cells leads to transcriptional activation of L1 retrotransposons" Karlsson O [..] Jakobsson J. Nucleic Acids Res. 2026-02-05. https://doi.org/10.1093/nar/gkag100 [所属] Lund University (Laboratory of Molecular Neurogenetics; Laboratory of Epigenetics and Chromatin Dynamics) (スウェーデン)
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