crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

2026-04-01 先行論文(2023年 Molecular Cell 誌刊行論文)のcrisp_bio紹介記事へのリンクを文末に追記
2026-03-27 2026年3月のNature 誌刊行論文に準拠した初稿
 今回紹介する
Nature 誌刊行論文の共同責任著者の一人であるインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のDavid Rueda教授は、2023年に、ICLを主とする英国の研究者達と共著のMolecular Cell 誌刊行論文 [*]で、DNAの負の超らせん構造が、Cas9のオフターゲット部位への結合と切断を誘導し、ひいては、ゲノム編集の標的特異性を低下させ、ヒトゲノム全体で10,000以上の部位を切断する可能性があり、また、細胞内の局所的なDNA変形が標的外部位でのCas9活性を増加させることを紹介していた [crips_bio 2024-02-07]
 今回は、生物物理学を専門とするシェフィールド大学のAlice L. B. Pyne教授が率いる研究チームと共同で、負の超らせん (supercoiling) 構造((−)SC)を帯びたDNAミニ環状体を開発し、それに結合させた触媒活性不活性化Cas9(dCas9)の構造を、AlphaFold予測、原子間力顕微鏡(AFM)そしてクライオ電顕(cryo-EM)などにより解析することで、(−)SCがCRICPR-Cas9のオフターゲット活性をもたらす構造基盤を明らかにした。

 [構造情報] (以下のOTはoff-targetの意): 投稿時 (2026-03-27) 公開待ち
  • EMD-51860:diamond ring on-target dCas9 complex
  • EMD-51861 / PDB 9H4J:core on-target dCas9 complex (2.9 Å)
  • EMD-51862 / PDB 9H4K:core OT1–dCas9 complex (2.4 Å) 
  • EMD-51863 / PDB 9H4L:core OT2–dCas9 complex (3.4 Å)
  • EMD-51864 / PDB 9H4M:core OT1–Cas9(WT) complex (3.4 Å)
[詳細]

背景

 CRISPR-Cas9は標的DNAの編集を可能にしたが、非標的領域での偶発的な反応が、治療用途における安全性の障害になっている。非標的活性の分子基盤の解明により、非標的効果を低減する様々な高精度Cas9ヌクレアーゼが開発されてきた。その中で、磁気ピンセットおよび光ピンセットを用いた研究により、Rループ形成におけるスーパーコイルの重要性が示され [CRISPRメモ_2020/03/09-1 - 第2項]、DNAの伸長 [CRISPRメモ_2019/02/28-1- 第1項] と(−)SC [crips_bio 2024-02-07]. の両方がCas9の非標的活性を誘導することが明らかになっている。
 最近、直鎖状非標的配列に結合したCas9の構造解析により、ガイドDNAと標的DNA間の非標準的な塩基対形成によってRループ形成が促進されることが示された [crisp_bio 2022-11-03]また、PAMから遠位にミスマッチを持つ直鎖状基質は、RuvCドメインの再編成によって安定化される場合もあることが報告されている [crisp_bio 2021-09-21/2022-08-10]しかし、トポロジー誘導型非標的切断の分子メカニズムは依然として不明であった。

研究方法と成果

 ICL所属の論文筆頭著者のQuentin M. Smith博士は一年間を費やして、意図的に超らせん構造にできるDNAミニ環状体という新しい実験システムを確立した。DNAミニ環状体はDNAトポロジー研究に広く利用されている基質であるが、Cas9-DNA複合体の構造全体を明らかにできるほど小さくしつつ、超らせん構造を維持できるサイズにすることが課題であった。Smith博士は、シェフィールド大学の高解像度原子間力顕微鏡技術での解析を経て、最終的に、スプリントライゲーション[Methods Mol Biol, 2014] とDNAジャイレースを介して、よく特徴付けられたEMX1-1ターゲット配列と、ミスマッチ数、分布、および同一性に基づいて先行研究のデータから選択された2つのオフターゲット配列を含む126 bpの(−)SC DNAミニ環状体を作出するに至った。
 (−)SC DNAミニ環状体のオンターゲット部位に結合したdCas9の構造は、直鎖状DNAに結合したdCas9のそれに似てはいるが、HNHヌクレアーゼドメインがガイドRNAの標的鎖(TS)の切断される部位のリン酸に15Å近づくことを明らかになった。
 (−)SC DNAミニ環状体のオフターゲット部位に結合した構造からは、プロトスペーサー全体にわたるミスマッチが許容され、シード領域にも複数のミスマッチが許容され、これまで知られていなかったRループ塩基対の幾何学的構造を取るとが明らかになった。PAM遠位領域のRループの柔軟性により、ミスマッチに対する許容度が大幅に向上し、切断に必要なRループの長さがわずか14 bpへと短縮される。
 最後に、光ピンセットと蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を組み合わせて、オンターゲットおよびオフターゲットの(−)SC λ-DNAに結合した際のHNHドメインの動態を捉えた。
 これらのデータは、(−)SC存在下におけるCas9ターゲティングの分子基盤を明らかにし、次世代の高精度CRISPRエフェクターの設計の基礎を築くものである。

[出典] 
[*] 関連crisp_bio記事

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