その標的核酸切断活性(シス切断活性)をベースとして遺伝子編集技術を革新したCRISPRシステムは、Cas12, Cas13, Cas14 (Cas 12f) それにCas9のトランス切断活性の発見によって、分子診断技術にも革新をもたらした。CRISPR/Casに等温核酸増幅法( Isothermal nucleic acid amplification: INA)を組み合わせることで、これまでにない高感度な核酸検出が容易に実現されるようになり、一連の技術はCRISPR Dxと総称されるようになった。しかし、DETECTRとSHERLOCK、およびHOLMES [CRISPRメモ_2018/04/29 - 第5項] などの初期のCRISPR Dxは、INAによる核酸増幅反応と、Casコラテラル活性反応という二段階の手順を必要とし、その煩雑さ、長い検査時間および拡散エアロゾルによる汚染リスクを回避するために、近年、INA-Cas12aの組み合わせをはじめとするINA-Casの二段階反応系CRISPR Dxのワンポット化 [crisp_bio 2025-12-01] の研究開発が盛んに行われている。
しかし、INA -Casワンポット化には、シス切断活性が等温増幅を著しく阻害するという可能性を排除する工夫が必要とされている。例えば、INA-Cas12aの場合は、グリセロールやスクロースなどの試薬を利用して、増幅溶液と検出溶液を空間的に分離する、光応答性crRNAを利用してCas 12aの切断活性を制御する、PAMとしてサブオプティマルな配列を選択することでシス切断活性を低減する [Lu et al., Nat Biomed Eng 2022]、ヘパリンナトリウムを利用してCas12a-crRNA結合を阻害する [crisp_bio 2025-02-09]、といった工夫である。
それでも、既存のワンポットCRISPR Dxシステムは、検出時間の長さや操作の複雑さといった点で依然として限界を抱えており、PAMに依存せず、かつシス切断干渉を受けない、汎用性の高いワンポット化が課題となっている。
最近、Cas12aとスプリット(split)crRNAを統合することでRNAの直接検出を可能にするSCas12a [#1, 2] と称するCas12aベースのアッセイを開発した湖北大学と武漢軽工大学を主とする研究チームは今回、SCas12aを再評価したとろ、予想外にも、標準的なPAM配列も既報告のサブオプティマルなPAM配列も存在しない場合でも、二本鎖DNA(dsDNA)に対して
強力なトランス切断活性を維持することを、発見した [Figure 1引用右図参照]。同時に、SCas12aシステムは、dsDNA標的を認識した際に、シス切断活性がほとんどないことも発見した。
強力なトランス切断活性を維持することを、発見した [Figure 1引用右図参照]。同時に、SCas12aシステムは、dsDNA標的を認識した際に、シス切断活性がほとんどないことも発見した。 これらの発見に基づき、研究チームは、等温増幅とCas12aを介した検出が単一の反応チューブ内で同時に行われる、汎用的なワンステップCRISPR Dxを確立した。従来のワンポットCRISPR Dxと比較して、この方法は反応速度を少なくとも10倍速くし、感度を100~1000倍向上させ、シグナル測定までの時間を10分の1以上へ短縮し、30分以内にアトモルレベルの標的検出を実現した。
- Clostridium thermobutyricum 由来の熱安定性Cas12aオルソログ(CtCas12a)を利用することで、この方法を55℃のLAMP法とシームレスに統合することに成功し、20分以内に臨床ヒトパピローマウイルス16型(HPV16)をワンポットで検出可能なことが実証された。
- RT-RPAと組み合わせたSCas 12aによって、鼻腔スワブ検体中のSARS-CoV-2 RNAなどのRNA標的の高感度検出が実現した。
- SCas12aアッセイは二本鎖DNA点変異に対して優れた特異性を示し、口腔癌患者の組織サンプル中のヒトTP53遺伝子変異の単一ヌクレオチド変異(SNV)検出のための強力なツールとして機能した。
研究チームは、SCas12aシステムの検出効率に対する標的の長さとPAMフリーサイトの位置の影響を調査した。そこで、40~200 bpの範囲の標的DNA断片のシリーズをテストし、PAMフリーサイトをヘッド、ミドル、テール領域に配置した [右図 a 参照]。その結果、ミドル位置の設計は最も遅い反応速度を示し、長さが120 bpを超えると検出できなかった [右図 b 参照]。対照的に、ヘッドとテールにPAMフリーサイトを配置した設計は、より速い反応速度とより強い蛍光シグナルを示した。特に、ヘッド位置は120 bpで最高の検出効率を示し、これはINAの最適な標的長に相当した。さらに、同一の120 bp HPV18 DNAターゲットを用いて3つのモデルを並行して比較したところ [右図 c 参照]、ヘッドデザインが最も速い反応速度と最高の蛍光強度を示した。そこで、今回の実験では主として、PAMを含まない120 bp DNAターゲットを組み込んだデザインを採用した。 研究チームは、AsCas12a/split crRNA + DNA (PAMフリー)の構造をAlphaFold3で予測し、PAMフリーDNA検出の構造基盤について議論している [右図 e, f参照]。
[出典]
- "Elimination of cis-cleavage in CRISPR diagnostics for one-pot rapid nucleic acid detection" Yin W, Jin Z, Jiang Q [..] Qiao J, Zhang X, Liu Y. Nucleic Acids Res. 2026-03-26/04-13. https://doi.org/10.1093/nar/gkag267 [所属] Hubei University (State Key Laboratory of Biocatalysis and Enzyme Engineering) (中国), Wuhan Polytechnic University (School of Life Science and Technology), Zhongnan Hospital of Wuhan University (Dept Cardiology), Zhengzhou University (Dept Oral and Maxillofacial Surgery), BravoVax Co Ltd.
[#] ScCas 12a関連crisp_bio記事
- crisp_bio 2024-01-09/10-01 CRISPR-Cas12aにスプリット型crRNAを組み合わせることで, RNAとDNAの高感度・選択的・多重検出を実現 https://crisp-bio.blog.jp/archives/34635364.html
- crisp_bio 2025-03-12 強化型SCas12aにより前増幅フリーでの高度に構造化されたRNAの精密検出を実現 https://crisp-bio.blog.jp/archives/38076672.html
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